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70話 リゼルヴァの悩み

 下半身を吹っ飛ばされた鎧の修理をギリムに任せ、最近の俺は村でまったり過ごしていた。

 さすが名匠というだけあり、ギリムが来てからというもの村の設備は整っていった。

 アイテムボックスなどという得体のしれない空間にあって、安心して暮らせるというのは大事なことだ。


 広場にはリザードマンの男たちが集まり一様に素振りに励んでいる。

 俺とリゼルヴァ、それと腕が立つ者数人のもと村人たちを訓練していた。


「はいワン・ツー、ワン・ツー……そこ! 指先まで神経を使って!」


 豊かな生活を営む上で大切なこと、それは武力だ。

 もちろん食料や衛生も欠かせない。

 しかしまずは外敵から身を守ることが何より優先される、というのが持論だ。


「おいおい、これは訓練であって踊りの練習じゃねぇんだぞー! はいワン・ツゥー!」


「マスター、それ踊りの教えかたじゃないの……?」


「……はい! ワン・ツー!!!」


 ドクンちゃんの指摘をごまかす。

 どうせ他のやつにはバレまいて。


 かつて暮らしていた日本じゃ意識したこともなかったが、世界にはヤバイ奴らが満ち満ちている。

 歌と酒でわかりあえるなどという考えで警戒を怠れば、そのままオツマミにされてしまうのだ。

 転生してからというもの殺るか殺られるかの日々を送った俺にとって当然の意識の変化といえよう。


 グレムリンの巣から引き揚げた大量のアイテム。

 その中には武具の類もたくさんあった。

 俺が使わないようなものは村人たちに使わせることにしたのだ。


「まあ、今日のところはこんなもんでいいか。各自、今日の感覚を忘れないように! あと、あったかくして寝るように!」


「シャアアッ!」


 いい返事だ……たぶん俺が何言ってるか通じてないけど。

 リゼルヴァが翻訳して無事今日の訓練は終わりになった。


 いい汗かいたな……かいてないわ、アンデッドだし。

 リザードマンもたぶん汗かかないよな。

 

「フジミ、ちょっといいだろうか」


「おつかれリゼルヴァ、ひとっ風呂浴びに行く?」


「バッ、バカなことを言うな!」


 別に男同士なんだから恥ずかしがることないだろうに。

 毛が生える生えない時期の男子じゃないんだから。


 人目を気にする内容なのか、リゼルヴァは村のはずれまで俺をつれてきた。

 ははん、さてはまた手合わせだな?

 みんなに見えるとことで負けるのが恥ずかしいんだろう。


「話というのは進化についてなんだが……」


 神妙に切り出された話題は全く想定外のものだった。

 しかしながら非常に興味をそそられる俺。


「リザードマンはワイバーンに進化するって話だったよな? ついにその時がきたと!?」


 俺がドラウグルに進化したとき、族長と似た話をしていた。

 いわく、ドラゴンまで三回進化が必要なんだけど要求レベルがべらぼうに高いんだとか。

 一回目の進化は『ワイバーン』で、ここに上がるためには45レベルが条件らしい。

 

 たしか初めて会ったとき、リゼルヴァのレベルは30後半だった気がする。

 ともに激戦を潜り抜けるうちにレベルがメキメキ上がったのか。

 かくいう俺も順調に強くなっている。


「それが、どうにも分からないのだ」


 これを見てくれ、とリゼルヴァが地面に図を書き始めた。

 リゼルヴァの進化ツリーだ。


 ステータスウィンドウに代表されるゲーム的UIだが、この世界じゃ基本的に他人には見せれない。

 『従魔契約』の魔法で結ばれた俺とドクンちゃんのような――システムで許された場合を除いて、秘匿性の高い情報なのだ。

 よってわざわざお絵かきしてみせたわけ。

 

「ふむ、リザードマンからワイバーン、レッサードラゴン、ドラゴン、エンシェントドラゴン……ほぼ一本道だな。何か考える必要あるのか?」


 アンデッドと比べてずいぶん簡単な図だ。

 ドラゴンの脇に『ドラゴンゾンビ』へ分岐する道があるだけ。

 アンデッドほど複雑じゃない。

 どんどん進化しちゃえばいいのでは? 


「実は、この進化ツリーは皆が持っているもので、私のものとは違うのだ」


「どういうこと?」


 辺りを見渡したリゼルヴァは改めて人気がいないことを確認すると、せっかく描いたツリーを消してしまう。

 そして書き直したのは冗談みたいな図だった。

 

 リザードマンから始まり、その上にはドラゴン、そして頂点のエンシェントドラゴン……以上だ。

 申訳程度にドラゴンからドラゴンゾンビになれるだけで、シンプルどころの話じゃない。


「なんだこれ! リザードマンからドラゴン……直通じゃんか!」


「バカ、声が大きい!」


 怒られた。

 リゼルヴァの進化ツリーが特別なことは族長しか知らないんだそうだ。

 

「家族も違うの?」


「知らん。肉親はもういないから」


「……ごめん」


 地雷を踏んでしまった。

 かつて勇者が村を助けるまで、モンスターの脅威に多くの村人が犠牲になったらしい。

 もしかしたらそれに関係があるのかもしれない。


 しかし、この図が本当ならリゼルヴァは一回の進化でドラゴンになれるわけだ。

 超うらやましいんですけど。

 

「もしかして進化すれどもすれども、ガリガリ薄毛ガイコツメンな俺にマウントとってます?」


「一応薄毛を気にしていたのか、そんなことはどうでもいい。ほかの皆はレベル45でワイバーンになれるらしい、だから私も同じレベルでドラゴンになれると思っていた……」


「一回目の進化が、ほかの皆で言うワイバーンに相当するならそうかもな」


 リゼルヴァを鑑定してみる。

 ――レベル45。

 おぉ、ずいぶん育ったな。


 しかしレベル45になっただけじゃドラゴンには進化できなかったんだとか。

 ゾンビを飛び級したとき以降、俺はレベルしか進化条件になっていなかった。

 さすがにドラゴンクラスになると簡単には進化させてもらえないのかもしれない。


「レベルが足りないなら上げるしかないんじゃないか?」


「簡単に言うがフジミ、45というのは既に高レベルの領域だ。冒険者でも多くはないだろう」


「えっ、そうなんだ?」


「どうやら過酷すぎる境遇で感覚がマヒしているようだな」


 哀れみの目で見られた。

 なんとなく最大レベルを100で考えていたから、45なんて折り返しくらいと思っていた。

 今まで戦ってきたモンスターは30とか40なんてザラだったから、そういうものかと。

 そんなことを言ったら複雑な顔をされてしまった。


「とはいえ足りないなら上げるしかないじゃん、何レベル必要なのさ」


「条件はレベルじゃないらしい。実はそれは私もわかっていたのだ……見て見ぬふりをしてきたというか。レベルさえ上がれば進化できるだろう、という希望的観測というか」


 珍しく歯切れの悪い言葉だ。

 ズバズバ物申すリゼルヴァにしては珍しい。

 それほどまでに見なかったことにしたい進化条件ってなんだ……?


「結局何なんだよ、もったいぶってないで教えろよ」


「……竜の血だ」


「あぁー……!」


 俺は思い出し、共感した。

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