69話 虚飾の茶会、再び
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勇者と聖女、そして魔族の茶会。
茶会の主――オセと名乗った紳士風の魔族は、『話をしたい』という言葉通りの行動しか起こさなかった。
まるで冗談のような話だが、魔王と殺した勇者と軽い身の上話を交わしただけだったのだ。
勇者も聖女も終始敵意をみなぎらせ、供された茶や菓子に触れることすらなかったが。
一回目の茶会は『土産』を勇者が受けとりお開きになった。
しかし、たいして日を置かないうちにオセの領域――廃城を勇者は訪れることになる。
かつての魔王城の一画からワープする亜空間である。
今度も聖女アイリーンがおっかなびっくりついてきていた。
勇者の用件は決まっていた。
「これは勇者様、そろそろいらっしゃる頃かとお待ちしておりました」
「貴様が用意したモンスターは何の役にも立たなかったぞ!」
にこやかに出迎えるオセを勇者は一刀のもとに斬り捨てる。
袈裟斬りにされた魔族は霧のようにかき消えた。
ーー幻影だ。
「対象を殺す、という点ではそうでしょう。しかし私は慎重なのです」
虚空から現れたオセの手には一輪のバラ。
それを色々な角度から眺める。
「観察、分析、推測、検証、実践、また分析……」
自己陶酔するかのように笑みを浮かべるオセ。
しかし勇者の殺気が収まらないことを察し、咳払いとともに一つのアイテムを取り出した。
人間の頭ほどもある水晶玉だ。
それをテーブルの上におき、人間二人を手招きした。
水晶玉のなかには、見下ろされた森が広がっていた。
まるで鳥の目玉を介しているかのような光景だ。
「遠見の水晶玉……」
聖女が呟く通り、そのアイテムは遠くの景色を写し出す貴重な魔道具だった。
一国に数個もないとされる強力な品だが、魔族も保有していたとは。
「ご名答、しかし特別製でして。私の眷族が見たものだけを映し出すのです」
「……その目的で雑魚モンスターを俺に持たせたのか」
前回の茶会で、勇者は大型の鳥モンスターを受け取っていた。
炎を操るためアンデッドを高所から一方的に攻撃できる、という触れ込みだった。
しかし送り込んでみたところ、フジミ=タツアキに接触する前に何者かに倒されたようなのだ。
オセは最初からアイテムボックス内を偵察させる目的で、鳥モンスターを勇者に渡したのだろう。
魔族化かモンスターの個性かはわからないが、死んだと見せかけて活動できる特性を持っていたのだ。
「それにしても、本当の森みたいです」
水晶玉の中に広がる世界を見て、聖女は素直な感想をもらす。
勇者にしても同感だった。
アイテムボックスの中がどうなっているかなど考えたこともなかった。
しかし別の世界が構築されているのは驚きに値した……だからどうということもないが。
「えぇ私も長年生きてきましたが、はじめて見ました。そしてこれが標的のアンデッドですね」
映される景色が切り替わる。
そこには骨と皮だけの顔面がいっぱいに広がっていた。
ドラウグルが興味深そうに勇者たちを覗きこんでいるように見える。
「ひっ」
突然アンデッドの顔面をみせつけられ、聖女が小さく悲鳴をあげた。
一方で勇者は憎々しげに水晶玉を睨みつけている。
「アンデッドにしてこのアホ面、間違いなくやつだ。見えているならなぜ殺さない?」
「この眷族に戦闘能力”は”ありません。しかもどうやら囚われてしまっているようです……おっと」
そうこうしてるにフジミ=タツアキの顔が引っ込み、代わりに赤い何かが視界を占有した。
すると水晶玉の景色は消え、少ししてから再び森を映しはじめる。
「どうやら、あぶり殺されてしまったようですね。少し観察してみましたが、このアンデッド一筋縄ではいかないでしょう」
勇者の額に青筋が走る。
「なら貴様を『収納』してやろうか。さぞ首尾よく片付けてくれるんだろうな」
「お戯れを。代わりといってはなんですが、こちらをお譲りしましょう」
テーブルの上に現れた黒いかたまり。
水晶玉より大きいくらいの卵形の石……というより卵のよう。
不気味なのは殻全面を覆う管だ。
血管のように細いそれらが時折収縮し、まるでひとつの臓器のようであった。
「言ってしまえばドラゴンの卵です。そのままでは使い物になりませんが」
「さっさと結論を言え殺すぞ」
「そう、かっかせずに」
オセが椅子をひいてみせた。
前回を同じように、勇者の話を聞きたいと言うことだろう。
それがこの取引における『代金』であった。
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