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68話 不安の種

 一族の宝を族長に返した俺とリゼルヴァは、ドワーフのギリムのもとへ向かう。

 村で一番うるさく、さわがしい場所だ。

 そこではギリムの怒声が響き渡っていた。

 どうやらドクンちゃんが厄介ごとを持ちこんだらしい。


「ギリム元気ー? 鎧の修理頼みたいんだけど」


 木やら布やらを組み合わせたリザードマンの簡易住居。

 ギリムにあてがわれた家屋はあらゆる資材やら道具が散乱して実に汚い。

 素足で歩いたら足の裏が無事じゃすまないだろう。


 のれん状の布をくぐって家に入ると、ギリムとドクンちゃんが駆け回っていた。

 なにやってんだこいつら鬼ごっこか?


「なぬっ! もう鎧を壊したのか! ただでさえ高価だというに、もっと丁寧に――そっちに行ったぞ捕まえろ!」


「えっ? うおっ!?」


 突如、俺の顔面に何かが飛んできた。

 衝突する寸前にキャッチすると、それは猿のような小動物。

 手のひらほどのサイズにも関わらず結構な力で抜け出そうともがいている。

 吊り上がった大きな目玉と、三日月のように裂けた口。

 とがった耳と枝のように伸びた手指には見覚えがある。


「これ、グレムリンか? どうしてここに」


「卵が(かえ)ったのよぅ」


 ドクンちゃんがとてとて近寄ってきた。

 話によると二つ持ち帰ったグレムリンの卵のうち、ひとつが突然割れてコイツが生まれたんだとか。

 懐かれたのをいいことに連れて歩いていたら、ギリムの家に飛び込んで悪戯の限りを尽くし始めたんだとか。


「グレムリンは道具を壊す厄介なモンスターじゃ! 次に連れ込んだらジャーキーにするぞ!」


「ひどい! レムリンは悪くないのに!」


 悪いだろ。

 名前までつけて相当入れ込んでるな……別にいいけど。


「なるほど、それでブチ切れモードなわけだ」


 床に横たわるゴーレムと思しき物体。

 頭があるべき部位から足が生えてしまっている。

 これではもはや……もはや何だ?

 

「それは元からじゃが?」


「どういう設計思想なんだよ……いやいい、聞きたくない」


 ギリムと話すことはいろいろあった。

 鎧のメンテナンスが主な用事だが、グレムリンが集めていた道具の修理、頼んでいた村の設備強化の成果、あとゴーレムに関する質問なんかだ。


 グレムリン殲滅戦で使ったクレイゴーレム。

 スクロールを唱えたら土から生えてきたんだが、ほどなくして土に還ってしまったのだ。

 てっきり壊されるまで同行してくれると思っていたのに。


「核がなかったからじゃ、簡単に言うと魔石。お主のはスクロールに込められていた分の魔力を使い切ったから崩れたのじゃよ」


 魔石。

 魔法の燃料でもある、魔力を含む特別な鉱石をそう呼ぶらしい。

 作品によっては通貨だったり、はたまたモンスターの体内に生成されたりするが、この世界では基本的に採掘して手に入れるんだそうだ。

 スキルと材料があれば人工的に作ることも可能らしい。

 

 ゴーレムは内蔵した魔石を動力源にするのが普通なんだそうだ。


「ごく一部、魔結晶という魔石の同等品をもつモンスターもおるがな……それよりワシも見せたいものがある」


 ごちゃごちゃ積まれたアイテムの山から、小瓶を取り出したギリム。

 親指ほどの瓶には黒いなにかが閉じ込められている。


「なあにぃ、これぇ……」


 手足や頭といった部位は見えず、ともすればタールのよう。

 しかし蠢く様子からして明らかに生き物だ。

 ヒルのように蠢く黒い虫。

 なんだか見覚えが……。


「魔族化した部分に似てるね」

 

「それだ」


「だな」


 ドクンちゃんに言われてしまった。

 リゼルヴァも同感らしい。

 確かに魔族化すると、こんな感じのものがにじみ出てくる。

 目玉こそ生えていないがベースは黒い粘液じみていたものな。


「お主らの留守中に飛んできたモンスターがおったから、試運転を兼ねて撃ち落としてみたんじゃ。で、死体を探してたら近くにそれがおった」


 ギリムは魔族も魔族化も見たことがないらしい。しかし不吉な予感がして俺に知らせてくれたとのこと。

 で、肝心のモンスターはバラバラ死体になって詳細不明らしい。

 双頭ゴーレムの火力が高すぎたんだそうだ。


「ガッハッハ! 着実に強化しとるからのう、もうお主には負けんぞ!」


「二度と戦いたくねぇよ」


 ギリムとゴーレムは心強いけど、この生き物は嫌な感じがする。

 瓶の中で収縮するコイツ。

 この一匹以外にもいたんじゃないか……?

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