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67話 語らずの族長

 グレムリンロードとクイーンの寝室である地下室。

 そこでついにリザードマンの宝『竜の黒卵』を見つけた俺たち。

 他に見つけた雑多なアイテムとともに村へ持ち帰ったのであった。

 さっそく族長のもとへリゼルヴァと俺で報告に向かう。


「族長、おみやげ」


「キシャアアアアアアアアアアア!!!!」


「なに急にこわい!」


 族長に『竜の黒卵』を見せるや否や絶叫された。

 いつもなら人間の言葉で話してくれるのに、驚きのあまりリザードマン丸出しの鳴き声だ……ちょっとこわい。

 しかしリアクションから察するに、どうやら正真正銘の一族の宝を持って帰れたらしい。

 隣のリゼルヴァも安心した顔だ。

 こいつ、村に帰るまでずっと神妙な面持ちだったからな。

 たぶん大量生産された『竜の黒卵』を目の当たりにして疑心暗鬼になっていたんだろう。


「宴じゃ宴じゃ!! 喜びの舞!」


「おー族長動けるねぇー」


 それから狂喜乱舞しつつ感謝の言葉を浴びせまくる族長が落ち着くのを待った俺。

 出かけている間の報告を聞いたりした。

 小型の飛行モンスターが飛んできたそうだが、ギリムのゴーレムが余裕で撃ち落として事なきを得たらしい。

 どんなモンスターだったのかとても気になったのだが……。


「それがゴーレムがあまりにも強かったため灰しか残りませんで」


「少しは加減してくれよ、あのおっさん……いや17歳だったか」


 灰しか残らないってパワーアップしてないか?

 うまいこと死体が残ればスケルトンにできるのに。


「ところで『竜の黒卵』ってどうやって使うんだ?」


「私も聞かせてほしい」


 リゼルヴァが同調する。

 かつて勇者は村を助けた見返りに『竜の黒卵』を要求したが拒まれ、力づくで奪ったのだ。

 ところが使用方法を族長は頑として教えなかった。

 結果、リザードマンは村人全員アイテムボックスに閉じ込められてしまったのである。

 いつか口を割らせるつもりだったのだろう。

 魔王を倒した今、その必要性があるかは怪しいが。


 俺の質問に族長は難しい顔だ。

 村人全員を犠牲にしても口を割らなかったのである……当然だ。

 でも命がけで取り返した俺になら教えてくれてもよくない?


「じゃあ予想を言うから、一回だけ当たってるかどうかだけ答えてくれ」


「それなら、まあ」


 しぶしぶ承諾した族長……クククしめたもんだ。

 アイテム名が『竜の黒卵』。

 この時点で正解を言っちゃってる。


 鑑定結果は <<ふさわしきものが使用すると力を与える>> というもの。

 詳細は分からないが”使用する”とは孵化させること。

 ”力”とは生まれたドラゴンを示すのだろう。

 つまり然るべき手順を踏み、孵化させることで従属するドラゴンが手に入る……と思われる。


「そのアイテムを孵化させるとドラ」


「違いますじゃ」


 食い気味に否定された。

 即答するって逆に怪しいぞ。

 

「フジミ殿申訳ありませぬ。私が秘密を話すのは次代の族長へ引き継ぐとき、さもなくば――」


「さもなくば?」


 俺とリゼルヴァを見据えて告げた。

 その目は確固たる意志に満ちていた。


「”使うべき時”が来たら、ですじゃ」


 宝を守ることが一族の使命って言ってたし、秘匿するのは仕方ないか。

 俺がドラゴンに会えるのはいつになることやら。

 宴の準備をするということで族長の家を後にする。

 ここで宴を開かれるの何度目だろう。


 なんとなくギリムの住居に足を向けた。

 と、少し歩いたところでリゼルヴァが謝ってきた。


「すまないフジミ。みんなが助かったのも、宝を取り返したのも全てお前のおかげなのに」


 宝の使い方を族長が教えなかったことを気にしているらしい。

 確かにちょっぴり残念ではある。

 が、それだけだ。


「え? あぁ、良いってことよ。どっちもついでだからさ、俺にとっては」


「ついででオーガだのミノタウロスだの巨大グレムリンだの倒すか……フフ」


 笑われた。

 えっ、笑いどころあった?


 アイテムボックスという空間を探索し、手がかりを集める。

 いつの日にか脱出し異世界を見て回るために……!

 そのためには勇者の横やりに負けないようレベルアップする必要があるし、有用なアイテムも欲しい。

 リザードマンたちと行動をともにしたのは単純に利害の一致だ。

 

「お前と探索してからやたら格上のモンスターと出会う。今までもああいった手合いばかりと闘ってきたのだろう? 怖くないのか、立ち止まろうとは思わないのか?」


「そりゃ怖いさ。でもそれ以上にモンスター見るのは興奮するし、殺されて勇者の思うツボになってたまるかよ! って思うよ」


 俺を舐めくさった勇者。

 あいつのキレイな鼻っ柱も叩き折ってやりたいところだ。

 そういやここ最近おとなしいな。

 元気に悪事を働いているかな?


「でもまぁ、色々込み込みで”楽しい”んだろうな俺は。なおかつもっと”楽しみ”たい。だから立ち止まらねぇんだわ……知らんけど」


「フジミらしいな」


「そりゃどうも。そういえば俺たちが出てる間に村人も全員見つかったらしいじゃん、これでリゼルヴァが同行する理由もなくなったわけだ」


「私がおとなしく留守番すると思うか?」


 ないだろうな。

 和やかに談笑。

 そして村で一番派手な家に到着した。

 

 謎の金属片やら作業台やら工具やら。

 即席住居の周囲にはごちゃごちゃと物が散乱している。

 金属を叩くような騒音が実に耳障りだ。


 ここはドワーフであるギリムの工房。

 族長によれば村の設備強化とゴーレムの改造を進めていたらしい。


 するとひときわ大きな金属音。

 たらい百個を同時にひっくりかえしたような爆音だ。


 そして――


「こりゃーーーーーー! なにやっとんじゃブチ殺すぞ!」


「キキキキキ!」


「やめて! この子は悪くないの! かといってアタシも悪くないの!」


 聞こえてきたのはギリムの怒号、動物の鳴き声、そして我が使い魔の保身。

 ため息をついて俺とリゼルヴァは中へ入っていった。

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