66話 玉のような子
グレムリンロード、クイーンとの激闘を制した俺たち。
代償としてリゼルヴァは尻尾を失った。
けどそのうち生えてくるらしい、よかった。
一方で下半身がまだ生えて来ない俺はリゼルヴァに抱えられていた。
人間なら死んでるレベルの傷だけど、アンデッドなら安心だね。
怪しそうな場所を探させるといかにもなレバーを見つける。
地下への扉を開く仕掛けだろう。
「はい発見」
「相変わらず冒険者のような手つきだ、本当に素人なのか?」
「シミュレーションのタマモノですわ」
リゼルヴァの感嘆を受けるほどに、仕掛けの類を探すのがうまい俺。
柱の陰とか看板の裏とか念入りに調べながらゲームを進めるタイプです。
仕掛けを作動させ、地下への扉を開いた。
ボスグレムリン二匹が隠れていた空間だ。
ホルンとトリスケとスケルトン・グレムリンロードは地上でお留守番だ。
俺、ドクンちゃん、リゼルヴァが下りていく。
……そういえば、残念ながらグレムリンクイーンをスケルトン化できなかった。
『フロストバイト』は必殺技にふさわしく、威力が高すぎて死体を傷めてしまうのだ。
なのでロードだけをスケルトン化した。
地下へ入るのは三回目だ。
今回は階段を降りたら広場になっていた。
10メートル四方といったところか。
ミノタウロスのときとは違い、ダンジョンの出口から入った雰囲気はない。
奥のほうにごちゃごちゃとアイテムが散らばっているが、広場から出る扉の類は見つからないからだ。
「ひどい匂いだ……フジミよりも」
「えっ俺匂うの!? やだ恥ずかしい! 言ってよ!」
眉(ないけどその辺り)をひそめるリゼルヴァ。
たしかに地下室は強烈に生臭い。
四畳半のワンルームに住む魚人のおっさんが梅雨に引きこもってゲーム三昧、三食チーズ牛丼食っていたかのような悪臭だ。
そんなことよりも帰ったら沐浴しよう。
アンデッドとはいえエチケットは大事にしたい。
「モンスターの気配も無さげ……いや待てよ」
覚えたての新スキル『生命察知Lv1』。
集中すると付近の『生き物』を察知する便利スキルだ。
なんとも曖昧な説明だが、この部屋で俺は気配を感じ取った。
弱々しいが確かにいる。
部屋の奥、アイテムが乱雑に積まれた方向だ。
俺の警告を受けてリゼルヴァが武器を構えた。
抱えられていた俺は雑に放り出される……悲しい。
気配の正体はたぶんグレムリンの生き残りだろう。
ならば大した脅威じゃない。
先行したリゼルヴァとドクンちゃんがアイテムの山に近づいていき敵を探す。
ハルバードの使って物を慎重にかき分けているが、なにも起こらない。
やがて戻ってきたリゼルヴァが俺を抱えなおした。
「なにもいなかったよー」
「だが気になるものがある」
「気になるもの? 一族の宝は見つかったか?」
とにかく見てくれ、と運ばれた奥には。
骨だの肉だの謎の粘液だの塗れたアイテムたちが、絨毯のように敷き詰められていた。
そのひときわ奥、布に包まれるようにして三つの球体が鎮座している。
黒いものが一つ、茶色いものが二つ。
とりあえず鑑定するか。
<<竜の黒卵:アイテム 未使用 レアリティ:レジェンド>>
<<ふさわしきものが使用すると力を与える>>
「やっぱり『竜の黒卵』じゃん! よかったな!」
「……今度こそ本物なのだろうか」
リザードマン一族の宝にして、アイテムボックスに閉じ込められた原因である『竜の黒卵』。
これを探し出すことはリゼルヴァにとって悲願だったはずだが、いまいちテンションが低い。
どうやらグレムリンに模造品を投げられまくったせいか、信じきれないようだ。
一応、鑑定結果から怪しい『?』がなくなっているので、模造品じゃないのは間違いない。
「たぶん本物だろ、大事に隠していたくらいだし」
「そう、だな……うむ、本物だ! よかった、実によかった!」
自らを納得させるように頷いている。
あれは疑問を払拭しきれていないかんじだ。
族長にお墨付きをもらわないとダメだな。
「じゃあ、こっちはー?」
ドクンちゃんが指すのは残りの卵二つ。
大きさはメロンほどで、表面をよく見るとまだらの模様がある。
『竜の黒卵』はなんていうか無機質な美しさがあった。
しかし茶色い卵は、文字通り『生き物の卵』っぽい質感だ。
そして気がついた。
生命察知にひっかかったのコレだわ。
<<Lv0 種族:妖精 種別:グレムリン>>
<<Lv0 種族:妖精 種別:グレムリン>>
「レベル0のグレムリンみたいです」
「なるほど奴らの卵だったのか」
「おいしそー」
すぐ食べる方向に行くんだから。
さっきグレムリンクイーン食べたでしょ。
散らばるアイテムの中には武具や道具、スクロールなんかもあった。
どれもこれども謎の粘液が付着していて閉口したけど……。
「この粘液なんなんだろーね……くっっっさ!」
「なんで嗅ぐかな、あえて」
ロードとクイーンは仲睦まじく地下から出てきた。
そして大事にしまわれていた『グレムリンの卵』。
推測するに、ここで行われていたことと粘液の関連は……。
「気分悪くなってきた、早く出ようぜ」
有用そうなアイテムを運び出し、俺たちはさっさと村へ戻ることにした。
道中、卵をどうやって調理するか考えながら。




