63話 延長戦
グレムリンクイーンを撃破したリゼルヴァ。
すさまじい気迫はドラゴンそのものだった。
しかし戦いは終わりじゃない。
まだ魔族化が残っているのだ。
俺の右腕はクイーンに砕かれ、アイスブランドは遠くに飛ばされてしまった。
が、悠長に拾いにも行けない。
「まだ終わりではないぞ」
ホルンが告げる通り、最後の仕事が残っている。
魔族化だ。
これまのパターンからすると、魔族化モンスターが死亡したとき目玉黒スライムが生えてきて復活する。
対抗策は石化で殺すこと、または――
「速攻で倒す!」
クイーンのそばにいるリゼルヴァはすでに突きの態勢に入っている。
俺も急ぎ走る。
目玉黒スライムが活動開始する前に集中攻撃すればいい。
さっきのグレムリンロードはこの作戦で処理できた。
が、想定外の事態が起こった。
「なんだ!?」
一瞬態勢を崩したリゼルヴァ。
そのまま放たれた突きはクイーンの首断面ではなく、肩に浅く刺さった。
攻撃を外した? 妨害されたのか?
俺からは攻撃を受けたように見えなかった。
「まずい! トリスケ!」
うまく立てないリゼルヴァへハルバードが振りかぶられた。
上空を旋回していたトリスケがクイーンを強襲する。
身代わりになったトリスケは一撃で機能停止に追い込まれた。
トリスケに命中した時、ハルバードから放たれた光……聖属性をコピーしていることは確実か。
その隙をついてリゼルヴァが距離をとった。
よかった、体は動くようだ。
「気をつけろフジミ、一瞬目が見えなくなったぞ!」
瞬きしたリゼルヴァが俺を見た。
視力に異常があったのか。
「目が見えない、だって?」
一瞬だけ視力を封じる攻撃。
それって……
思い至るころにはクイーンは立ちあがっていた。
依然として首はない。
しかし『スーサイド』で不能になった右腕、『フレイムトラップ』によって破損した片足は黒い粘液で覆われていた。
その片足には一つの目玉が生えている。
「魔族化早いな!?」
まるでグレムリンロードの処理を見て対策したかのようなスピード感。
クイーンはハルバードを拾い上げる。
首の断面から黒い液体が滲みだしていた。
まもなく目玉が頭の代わりに生えるだろう。
俺は一瞬迷ってスキル画面を開く。
そして『統率者』の共有スキルを選択しなおした。
素早く共有スキルをいじる練習も歩きながらしていたのである。
「任せて、マスター!」
ドクンちゃんに共有スキル変更の意図は伝わったようだ。
使い魔というだけあり結構以心伝心だったりする。
「届け物だ」
「サンキュー!」
駆けてきたホルンが背中からアイスブランドを落とした。
クイーンが俺の右腕ごと吹き飛ばしやがったからな、助かった。
まだ右腕は復元できてないんだけどね。
「仕方ない、左手で使うか」
あとは上手いこと注意をそらさなければ。
クイーンがドクンちゃんに背を向けるよう立ち位置を変え、リゼルヴァに目線を送る。
注意を二人でひく――俺の立ち回りを見ておおよその意図を察したらしい。
「足引っ張るなよ、リゼルヴァ」
『スーサイド』『アイシクルスケイル』を自分にかけておく。
首と脚に生えた二つの目玉。
悪意に満ちた瞳が俺たちを見すえていた。
「そっちこそ」
不敵な笑みを交わして、俺とリゼルヴァはクイーンに斬りかかる。
しかし戦闘開始直後、俺の『アイシクルスケイル』は一瞬で消えていた。
「ちっ、剥がされるか」
ダメージを受けて剥がされたわけじゃない。
相手の『アンチスペル』のせいだ。
魔族化オーガが使ってきた、魔法を打ち消す魔法『アンチスペル』。
俺が覚えた『ディスペル』の上位版だ。
上位版だけあって発生が早く射程も長い。
黒い目玉が搭載する標準スキルとみていいようだ。
「けど”スーサイド”は消されない、と」
視界のUIにバフを示すアイコンがある。
血痕のようなそれはスーサイドが有効であることを示している。
もしや見えない魔法は消せないのか?
「オラ!」
「ハッ!」
反撃を許さぬ波状攻撃。
リーチとパワーに優れるクイーンだが二対一では流石に分が悪いようだ。
しかし俺たちは攻めすぎない。
相手には見えない手札があるのだ。
さっきリゼルヴァにかけたと思われる『ブラインド』。
闇魔法のひとつで俺も愛用する妨害呪文だ。
一秒間だけ対象の視界を封じるだけだが、接近戦では危険度が跳ね上がる。
「リゼルヴァ、同時に魔法行けるか?」
「いいだろう」
今度は『シャドースピア』と『フレイムトラップ』を発射。
すると『シャドースピア』は空中ですぐに消えたものの、『フレイムトラップ』はしばらく残っていた。
結局消されたのだが、そのとき脚の目玉が『フレイムトラップ』を見ていたことに気づく。
魔族化には火と聖属性が効くことはオーガ戦で実証済みだ。
どうにか当てていきたい。
「二つ同時には消せないか……おっ!?」
突如、視界がブラックアウトした。
まるで電気を消されたように何も見えない。
とりあえずバックステップを踏んで後退。
リゼルヴァが前に出てフォローしてくれるだろう。
「くっ!?」
金属音とともに近くに風を感じた。
たぶんリゼルヴァが攻撃を代わりに受け流してくれたのだ。
「サンキュー、もう見える」
「ああ」
問題は『ブラインド』以外の闇魔法も使えるのかってことだ。
その検証が済む前に仕込みは終わったようだ。
視界の隅でハートマークが見えた。
ドクンちゃんが触手で作った合図だ。
「決めるぞ!」
強気に前へ出る俺とリゼルヴァ。
クイーンの背後から忍び寄る、本命。
<<Lv63 種族:アンデッド 種別:スケルトン・グレムリンロード>>
ドクンちゃんのスケルトン・デビュー作だ。




