60話 練習の成果
グレムリンたちのボスと思しき個体が遺跡の地下から現れた。
ロードとクイーンの名を持つ魔族化個体だ。
しかもクイーンはこちらの武器を複製する能力をもっているらしい。
強敵感を演出しているけど、俺だってドラウグルに進化して強くなってるんだからね!
「リゼルヴァ、やっぱり俺も出るわ。ドクンちゃんは適当に注意を引いてくれ」
「あいさー!」
ドクンちゃんを乗せたホルンが辺りを周り始める。
俺がロードを、リゼルヴァがクイーンを受け持ち、どちらかがピンチになったらドクンが闇魔法でサポートする。
この布陣で行こう。
「足を引っ張るなよ?」
「最初は防御に徹するから大丈夫だ」
リゼルヴァの挑発に対し、謙虚に答える。
ついでに闇魔法『スーサイド』(被ダメージを相手に一部返す)と氷魔法『アイシクルスケイル』を自身にかけておく。
リゼルヴァにもかけてやろうと思ったんだけど、『アイシクルスケイル』は体が冷えて辛いんだそうだ。
そういうところは爬虫類なのね。
悠然と佇む二匹の大型グレムリン。
片手に杖を握り、剣を担いだロードが、くいくいと指で招いてみせた。
「強キャラぶりやがって上等だぜ」
「行くぞ!」
リゼルヴァの合図が開戦を告げた。
いつものように地を蹴って接近する、がいつもより体が重い。
当然だ、俺は全身鎧を着ているからな。
マミーまでの機動力偏重のスタイルから、防御寄りのスタイルへ変えているところなのだ。
本当ならもっと弱そうなモンスターで実戦経験を積んでおきたかったけれど……。
杖による魔法攻撃を警戒していたが、普通に剣の間合いに入れた。
魔法を使うまでもないって自信の表れか?
ロードの振りおろしを難なくかわす。
挑発した割に雑な攻撃じゃ――
「ぐっ!? やるじゃねぇの」
素早い杖の打撃をもろに喰らってしまった。
魔法じゃなく鈍器として使ってくるとは……単純なことに気がつかなかったぜ。
HPが減るが、鎧とアイシクルスケイルもあって焦るほどのダメージじゃない。
剣はフェイントで杖が本命だったか。
相手のリーチは長大だ、気をつけなければ。
「”サモン・ウェポン”!」
合言葉と同時、俺の左手に円盾が現れる。
黒い煙で構成された半透明のそれは、見た目通り魔法の産物だ。
ギリム製アーマーの秘密道具その一。
この鎧はいくつかの部位に『魔石』が内臓されている。
魔石は定められた合言葉を発することで、あらかじめ込められた魔法を発動できるのだ。
これには俺のMPもスキルも必要ないが、魔石に蓄積されたマナを燃料とする。
マナはギリムに補充してもらうしかない。
スクロールが使い捨てとすると、魔石は充電可能な道具のイメージだな。
「ちょっとばかし緊張感のあるチュートリアルだぜ」
続く剣を盾で受け流していく。
リゼルヴァ相手に練習した甲斐あって上手いこと使えている。
力とリーチがあってもロードの攻撃はリゼルヴァほどいやらしくない。
何回から喰らってみたが確かに凍結ダメージが入った。
アイスブランドのコピーというだけある。
しかしながら俺の氷耐性が5と高いため、ほとんど問題にならなかった。
「よっ、とオラァ!」
「ゲグ……!?」
徐々に圧しはじめる。
立ち位置を調整し、クイーンから離れるよう仕向けていく。
横やりを入れられたら困るからな。
これまでは機動力の高さに甘えて、相手の挙動をあまり観察していなかった。
攻撃が来るタイミングで大きく飛び、射程圏外に逃げればそれで安全だったからだ。
しかし盾を持つと、そんな大味な動きはできない。
よけるべき攻撃、防ぐべき攻撃を細かく見極め――
「っと当たらねぇ……で、次はガード! からの――」
カウンターを差し込んでいく。
「突きぃ!」
「グ!?」
相手に肉薄しているが故、逃げづらいというプレッシャーはある。
離脱を挟まないことでテンポの速い戦闘が続く緊張感も。
しかしそれは相手も同じこと。
「グゥ……ッ」
舐めていた相手が思いのほか強かったことに気づいたか、じりじりと後退を始めた。
『このまま剣戟の応酬が続けば、いずれ致命傷を負う』
その恐怖が戦意を喪失させ注意力を散漫させる。
「”ブラインド”!」
「!?」
一瞬の隙につけ込み、更に隙を広げてやる。
目くらましを食らったロードは雑に横なぎを繰り出し、俺を寄せつけまいとする。
広範囲をなぎ払えば見えなくとも当たるだろう……安直な考えだ。
剣の軌道を読み、全神経を集中。
「これがパリィよ!」
今回は新技目白押しだ。




