55話 どこでもブラックスミス
新しい仲間、ドワーフのギリムから脱出の糸口になりそうな話を聞いた。
かつて異界の神が作り出した二振りの魔剣。
これらなら空間を切り裂けるはずだという。
ただ、アイテムボックスにしまわれている確証は……ない。
「お主、鎧は着ないのか」
始まりはこの一言だった。
アンデッドになってからというもの裸一貫スタイルをつらぬいてきた俺だ。
格上ばかりと戦わざるをえなかった俺にとって、防御を多少を固めて大ダメージに晒されるよりも、回避して被弾を抑えるほうが理にかなっていたのだ。
そのためには重い鎧は控えて身軽な格好をしていた。
身軽というか、無装備というか。
ただドラウグルになってから戦闘スタイルを変えていく必要性を感じていたのも事実。
タフにはなってものの明らかに機動性が落ちたのだ。
そこでギリムが鎧を加工してくれることになった。
ベースはホブスケが着ている全身甲冑を使い、なんと俺に合うようにチューンしてくれるらしい。
「俺専用アーマーってこと!? めっちゃ嬉しいありがとう!」
「お安い御用じゃが……こうして踊っとるところ見ると、本当にドラウグルかつくづく怪しいの」
そりゃ喜ぶでしょうよ!
マイ鎧はかつての俺の悲願だからね。
剣を輸入すると税関で刃を折られ、じゃあ鎧にしたろと思ったら桁が違うんだもの。
それにデカいから置き場所もない生活感丸出しの部屋に置いたところでダサイし。
「まさかドワーフ製の全身鎧が手に入るなんて……! もう死んでもいい」
「死んどる死んどる」
「……作ってくれるのはいいとして、設備とかどうするの? 詳しくないけど色々必要だろ……炉とか?」
「いい質問じゃ、お主だけ特別に教えてやろう」
ギリムが胸元から取り出したのは、赤い宝石がはまったペンダントだ。
キレイだけどおっさんには似合わないぞ。
<<召喚のペンダント:アイテム レアリティ:レア>>
なにやら魔法のアイテムだ。
俺の鑑定スキルじゃ大した効果はわからない。
「これは一族に伝わる宝でな、召喚の呪文がエンチャントされておるんじゃ」
団子鼻を得意そうに鳴らされても俺にはピンとこない。
「召喚? ムキムキ鍛冶職人精霊でも呼べるの?」
ちがわい、とギリムが詠唱をはじめて暫し。
ペンダントが光を放つと周囲の光景が一変した。
辺り一面が鍛冶屋になっていたのだ。
正確には鍛冶に使う設備、道具類が現れていた。
作業台にのった大小さまざまなハンマー。
窯だが炉だかわからない大がかりな箱。
詳しくないので名称はわからないが、ゲームとかでよく見るやつだ。
召喚というのはつまり……
「鍛冶道具を召喚したってことか!」
「そんなところじゃ。ペンダントとハンマー無しに鉄は打てぬのよ」
アイテムボックスで目覚めたあと、身に着けていたペンダントが消えていることに気がついたギリム。
それからというのも死にもの狂いで探し出したらしい。
このときの武勇伝は後日たっぷり聞かされることになる。
せっかくなので鎧にはあれこれ注文をつけ、俺は完成を楽しみに待つことになった。
そして次の探索までの数日間、村の警備を強化したり、子供たちと相撲をとったり、子供のお母さまに誘惑されたり、おかげで修羅場に突入しかけたりした。
誓って言うが俺は潔白だ。
リザードマンは守備範囲外だからな!




