54話 不確かな光明
正体不明のモンスターはドワーフ操るウッドゴーレムだった。
情緒不安定でむかつくことこの上ないドワーフのギリム。
なくしたハンマーを返すと、あっさり機嫌を直して協力的に。
リザードマンの村に頼もしい仲間が増えたのであった。
ギリムを皆に紹介しがてら、俺は村を見て回っている。
その途中でギリムは俺の剣に興味を示した。
「ほぅ、これはなかなかの業物じゃ」
注意深く刃をなぞるドワーフ。
その目つきは鋭い……職人のものだ
「だろ?」
見た目こそワイルドなドワーフだが、手先の技術はあらゆる種族でも抜きんでている。
ドワーフ製の道具は言わばブランドものだ。
ギリムも例外ではなく、超一流の鍛冶屋なんだそうだ。
俺の愛剣――アイスブランドに興味をもつのも当然の成り行きといえる。
「エンチャントを共存させつつ武器としての機能性を保つとは……さぞ名のある職人が手がけたのじゃろう」
「名のある職人……」
ちらり、と湖のほうを見る。
一つの宝箱が水面にぷかぷかと浮いていた。
おなじみフュージョンミミックのフーちゃんである。
日がな一日、ああして水遊びをしては、ときどき何かを食べている。
カニのようなハサミをもっているし、じつは水棲生物に近いのかもしれない。
ドワーフから褒められてますよ、よかったね。
「とはいえ呪死などという最大級の危険エンチャント、アンデッドくらいしか使えんのう」
水晶のような刀身をもつアイスブランド。
美しい見た目と裏腹に振るうと確率で使用者を呪い殺す。
ギリムが言う通り呪いを無効化する俺しか使えない。
「なあ、いろんな魔法の武器を見てきたんだろ? ここから脱出できそうな道具とか知らない?」
「それはワシも考えたわい。一番近いのは『ゲート』じゃろうな」
「『ゲート』?」
「空間魔法が施された建築物のことよ」
ドクンちゃんが参加してきた。
魔法のことになるとドクンちゃんはよく喋る。
ドクンちゃんによれば、離れた空間同士をつなぐ魔道具をそう呼ぶらしい。
古今東西、誰もが夢見る装置だ。
自室のドアを開けたらそこはリゾートとかね。
青いネコ型ロボットが操るひみつ道具でも有名だろう。
「ゲートの製造方法は太古に失われておる。世界のどこかに、ごく少数現存するらしいが……おとぎ話じゃな」
「もし見つかれば人間のことだから戦争に使うでしょうね」
耳に痛いぜ。
アイテムボックスもたいがいだけど、ゲートも社会システムを崩壊させるには十分すぎる代物だ。
最先端技術は常に戦争に使われるとかいう話を聞いたな、昔。
「そんなに珍しいなら勇者とはいえ見つけているか怪しいな。他にはないの? 空間に穴を開ける道具とか」
「……かつての『魔剣』がそれじゃろう」
魔剣。
聖剣と対を為す邪悪な剣の通称。
魔王を一撃で屠った力、その対極に位置する魔剣なら空間をも切り裂けるということか?
「そういや俺の転生特典が聖剣……至天聖剣とか呼ばれてたな」
「お前はつくづく何者なんじゃ!?」
「今はしがないアンデッドですよ、続けて続けて」
驚くギリムをなだめる。
結局、あの剣の持ち主は勇者だ。
俺はただの運び屋だったのさ。
「いわくつきの業物を魔剣と称すが、語源にして真の魔剣は二振りのみ。神代に異界の神が用いたものじゃ……アンデッドのオヌシなら知っておるじゃろ」
「ごめん、実はワケあって知らないんだ」
生まれが異世界なんですよ、ぼく。
アンデッドの生みの親が魔族、その親が異界の神っていう話だったね。
「マスターこう見えて0歳児なのよ」
「気持ち悪い言い回しやめて?」
たしかに転生して間もないけどさ!
またギリムに思いっきり不審な目で見られた。
あとで説明するから、と続きをうながす。
「異界の神がこの世界に侵入したとき、世界の壁を切り開いた一振り。そして異界の神が別世界へ去った時、作られた一振りじゃよ。二振りはこの世界のどこかに隠され、剣に宿る異界の神の残滓から新たな魔族が生まれ続けている……と言われておる」
「へぇ! なんだか燃える設定」
この世界にはもう、異界の神とやらはいないのか。
てっきり「私は何度でも蘇るぞ」的に眠っているのかと思っていたよ。
「なんじゃと?」
思いっきり睨まれた、ごめんなさい。
魔族に襲われた人たちに対して不謹慎でした。
「けど魔族と戦っていた勇者なら繋がりがありそうだ。ひょっとしたら自分の野望のために収納してるかも」
そこまで堕ちてないか。
でも『魔剣』なんていかにもアイツが欲しがりそうな響きじゃない?
「たしかにあのクズならありえそうじゃが……伝説上の産物じゃぞ」
「そういうの教えてくれる魔族いないかなー」
「万にひとつもないじゃろうな」
そりゃそうか。
伝説の通りなら魔剣は魔族にとって母親みたいなもんだ。
奪われたら仲間を増やせないとなれば死に物狂いで守るだろう。
……待てよ?
「……もし魔剣がアイテムボックスにあるとしたら、魔剣から生まれた魔族でいずれ埋め尽くされたりして」
「アハハやばいねー」
「望むところじゃ、ワシのゴーレムで根絶やしにしてくれる!」
豪快に笑う俺たち。
まさかフラグなんてことはないよな。




