53話 手の平くるくるドワーフ
双頭のモンスター。
その正体はドワーフ特製ウッドゴーレムだった。
勇者被害者の新会員、ドワーフのギリムをリザードマンの村へ迎えた俺たち。
こいつやたら突っかかってくるから面倒くさいんだよなぁ……。
村に戻った俺たちは怪我人を預けると、族長の家へ直行した。
ギリムの処遇を決めるためだ。
族長、俺、リゼルヴァが顔を突き合わせていた。
「なるほど、お互い災難でしたな」
ギリムの身の上を聞き、族長がため息をつく。
かたや一族の宝を迫られたたリザードマン。
かたや特注品を無謀な納期で迫られたドワーフ。
二人とも勇者の横暴によってアイテムボックスに収納されてしまったのだ。
ついでに言うとホルンも同じような経緯だ。
「しかしながら村の者が一名、雷魔法によって傷を受けたのも事実。長として野放しにするわけにも参りませぬ」
族長は渋い顔で告げる。
ウッドゴーレム戦で道案内してくれたリザードマンが負傷したのだ。
俺たちがつれていた白馬――ホルンが聖獣ユニコーンであることが幸いした。
女神の加護を受けた聖獣はドワーフにとって尊重すべきものらしく、ギリムが戦闘をやめたのはそれが理由だ。
逆に言えばホルンがいなければ引き続き破壊の限りを尽くしていたわけで。
アイテムボックスに放り込まれたフラストレーションから、目につくモンスターを片っ端からゴーレムで爆殺していたらしい。
「好きすればええじゃろ、こんな酒も鉄もないところにおっても虚しいだけじゃ! 最後に一目、愛しのハンマーに会いたかった……」
大の字に体を放り出すギリム。
お手本のような自暴自棄だ。
「……」
思案する老リザードマン。
どう処罰するのだろう……まさか処刑か?
何も殺すことはないと思うけど。
郷に入っては郷に従え。
黙って成り行きを見守る俺だ。
「……ん? ハンマー?」
思い至る俺。
最近そのワード聞いたぞ。
たしか捜索隊が持ち帰ったアイテムにあったはずだ。
胴体からガサゴソ取り出してギリムに見せる。
サイドウェポンとして一応持ち歩いていたのだ。
「こういうハンマーで良ければありますけど」
<<怒れる匠のハンマー:アイテム レアリティ:レア>>
<<振るたびに激怒を得る。鍛冶スキルを大きく向上させる>>
ドワーフが欲しがるのはもっとバカでかい凶悪なハンマーかな?
しかし俺の予想はいい意味で裏切られた。
「ま、ままままさかっ!? お前これをどこで!? いやそんなことはどうでもいい!」
俊敏に起き上がりハンマーをひったくるギリム。
淀んでいた目が爛々と輝き、驚きに満ちている。
そしてハンマーを愛おしそうに抱き、頬を寄せ、ちゅっちゅと口づけした。
……ちょっとひく。
「愛しのシャーリー! 再びワシの手に戻るとは!」
ハンマーの名前か? 道具に女の名前をつけるとは、だいぶひくぜ。
様子から察するにどうやら探し物はそれらしい。
一通りハンマーとの再会を喜ぶと、ギリムは改まって座り直った。
「命より大切なハンマーを取り戻してくれたこと、どれだけ感謝も足りぬ。どうか恩に報い罪を償わせてほしい! 許されるならこのギリムの腕とハンマー全ての力を使ってくれ!」
そして猛烈な勢いで頭を下げた。
地面に打ちつけた額の音からも、その熱意は伝わってきた。
根は良いやつなんだろうな。
攻撃的な物言いもハンマーを奪われた自暴自棄から来ていたいんだろう。
「族長、こいつ性格はあれだけど腕前は確かだ。役に立つと思うよ」
判断を下せずにいる族長に助け舟を出す。
きっと本心ではギリムを友好的に迎え入れたいはずだ。
仲間になりうる人物なら、排除するよりも協力して生き残る道を探したほうがいいに決まっている。
あれだけ強力なゴーレムを作れる腕前なら色々助けになるだろうし。
「フジミ殿がそう言うのなら信じましょう。ギリム殿、これから働いてもらいますぞ」
「任せてくれ! フジミとかいうゾンビ、お前も恩に着るぞ」
やれやれ丸く収まってよかった。
笑顔で頭を下げるギリム。
笑顔で返す俺。
「俺、ゾンビじゃなくてドラウグル」
「ガハハ! お前のような、のほほんとしたドラウグルがいるか! 血に飢えた上級アンデッドじゃぞ」
「ハハハ、だよねー」
「……」
「……」
沈黙する族長とリゼルヴァ。
……君たちも俺のこと、のほほんドラウグルると思ってたのかい?




