51話 わだかまりの先
火と雷を操る異形のモンスター。
二種の攻撃をかい潜りながら接近するのは容易じゃない。
そこで俺は閃いた。
乗るのにちょうどいい馬がいるではないか、と。
「馬ではない、聖獣だ」
「へいへい」
乗せるのを嫌がったわりに、ホルンは上手いこと俺を運んでくれる。
これは謙遜じゃない。
乗馬なんてブルジョアなご趣味、地味貧乏で人生全うした俺なんかが嗜んだはずもない。
ということはホルンが優秀な馬ってことになる。
……乗られるの上手いね、とか言ったら激怒しそうだから黙っていよう。
「火だ、伏せろ!」
「”ブラインド”! ダメだ間に合わ――熱っ!!」
目くらましの『ブラインド』をかけても効果が見られない。
なんなんだこいつは。
身を低くすると、俺の上をぎりぎりで火球がかすめていった。
HPがほんのり減っている。
これ背中の皮パリパリになってないかい?
アンデッドのお肌はしっとり繊細なんだよ?
「やかましいぞ、見た目のわりに貧弱な奴だ」
「もうちょっと余裕をもって指示くれます?」
ホルンの動体視力は大したものだ。
火球の予備動作を読んで警告してくれる。
「また火球だ、飛ぶぞ――ハッ!」
「ナイスジャンプ!」
華麗なるステップで火球を置き去りにする。
直後、後ろで爆発音が轟く。
感覚に優れるホルンは火球の弾道を予測できているようで、最小限の動作でよけるのだ。
よける動作が少なければ、その分走り続けることができる。
進行速度に敵も焦ったとみえる。
雷球が立て続けに三発発射された。
隙間なく横に広がった雷球が、壁のように迫ってくる。
「あの高さでは我も飛び越せんぞ!」
飛び越せないとなると脇へ大きく曲がるしかない。
しかし敵が焦るということは胴体が近いということ。
ならばこのまま進むのがベスト。
幸い、道中で獲得しておいた魔法スキルがある。
『双唱の指輪』もあるし行けるだろう。
「突っ込めホルン、俺に手がある」
「正気か!?」
「黙って行けや」
道中で試し打ち風景見せたでしょうよ。
ぶっつけ本番が不安か?
案の定、ホルンは速度を落とし脇のほうへ首を巡らせる。
遠ざかっても確実に雷球をやりすごすつもりなのだ。
俺の指示に従うつもりはないらしい。
が、そうも言ってられない事態になった。
「おいホルン、火球くるぞ……あの動き、ヤバくないか」
「……まさか」
これまで上空から打ち下ろしていた首が、今度は地面まで高度を落とした。
そして雷球の脇を補うように複数の火球を放ったのだ。
扇状の広範囲弾幕。
これでは飛び越えようが曲がろうが被弾は確実。
ホルンを踏み台にして飛べば俺だけは助かるかもしれないけど。
「これでは逃げられんぞ禿頭!」
「いいから腹くくれ駄馬!」
俺とホルンの間には未だわだかまりがあった。
ユニコーンのシンボルである角を落とされた恨みだろう。
こっちとしても自衛のため致し方なかったんだけどな。
いずれ角を治してやる約束をしたつもりだけど、結局のところ信用されていないのだ。
脇道へ逃げようとしたことからも不信感が読み取れる。
しかし俺にとって信用されるか、されないかは大した問題じゃない。
こいつを仲間として守ることは決定事項だからだ。
アイテムボックスとかいうワケの分からん空間で出会ったんだ、どうせなら一緒に生きて出てやろうじゃないか。
「真ん中の雷球に向かって全力で走れ。もたもたすると挟まれるからな」
「……信じる他にないようだ」
覚悟を決めたホルンが速度を上げた。
三連に広がる雷球、その真中へ突っ込むように疾走する。
あれだけの雷を一度に食らえば俺もホルンもついでにドクンちゃんもお陀仏だ。
蹄の音を聞きながら俺はタイミングを計る。
この呪文は早すぎてはいけない。
明滅する壁が迫る。
雷球の方向転換が間に合わない、ギリギリの距離まで待って――
そこだ!
「――”ディスペル”!」
開いた口から不可視の力が放たれ、雷球の一つに命中した。
間髪入れず『双唱の指輪』で複製されたもう一発も命中。
ホルンの鼻先が雷に触れる――
その直前、激しく明滅し雷球は完全に消滅した。
光の壁に一点、ぽっかりと風穴が開く。
俺たちは矢のように駆け抜けた。
左右の雷球が穴を埋めるようとするが、間に合わず置き去りにされた。
火球もまた後方へ過ぎていく。
『ディスペル』。
魔族化オーガが使ってきた、魔法を打ち消す魔法『アンチスペル』。
その下位呪文が『対抗魔法Lv1』で覚えたこれだ。
威力と射程に劣るが……
「見たか! やってやれないことはないぜ!!」
喜びのガッツポーズ。
「お、おおぉ……!」
ホルンが眩しそうに瞬きをしている。
声には驚きと安堵がにじんでいた。
「少しはやるようだな、不死者」
「お前もな聖獣」
不敵な笑みを交わす俺たち。
少しはわだかまりが解けたかな?
さあ、反撃だ。
敵の胴体はきっとすぐそ――
「「ぐっは!!」」
メコリだかゴキリだかグシャリだか。
体中の悲鳴を聞いた俺たちは、見えない壁に激突していた。




