50話 ライドオン
ついに姿を現した双頭の巨大モンスター。
二つの頭はそれぞれ火と雷を操るという。
トリスケを撃墜し、突如現れた異形。
その姿は間違いなく……え、なんだこいつ?
「ドラゴン、にしてはしょぼい」
「私たちに伝わった外見とは違うな」
リゼルヴァが同意した。
よくあるドラゴンはたくましい四肢に巨大な翼と尻尾をもつ。
長い首だけがニョキニョキ伸びているコイツはちょっと違う。
「さておきどう攻略したもんか、あの高さは魔法で狙うのも一苦労だ」
塔のようにそびえる二つの首。
表皮は茶色い皮ふを歯やツタが覆っている。
雰囲気はヒドラプラントの根っこ版に近い。
首の根元は茂みの奥へ伸びており、ここからじゃ見えない。
たぶん胴体があるんだろうが……。
と、開かれた顎に炎が現れ、俺めがけて飛んできた。
尾を引く灼熱の球……まるで隕石のようだ。
「熱っ!」
飛びのいたその場所に、バスケットボールほどもある火球がさく裂した。
舞い散った火の粉が肌を焦がす。
ドラウグルに進化しイケイケな俺だが、熱いは大の苦手だ。
「モンスター博士、これなあに?」
「俺にも分からん。トリスケが健在なら石化ブレスで雑に倒したんだけどな」
地面に転がるコカトリスの頭蓋骨。
頭部さえ無事なら自動回復できる、が非常に時間がかかる。
とても待ってはいられない。
ドクンちゃんを胴体に収納し、次なる攻撃に備える。
「おい、今度は雷がくるぞ!」
リゼルヴァの言う通り、もう一方の頭が口を開き光球を作り出していた。
事前情報通りなら雷魔法だ、初めて見るなあ……ちょっとワクワクする。
しかし雷と同じ速度で飛んでくるなら避けることはまず不可能だ。
モンスターの動体視力をもってしても反応できないだろう。
「ギギ、ガ」
鳴き声か、これは?
軋むような音を立てて、モンスターが雷の球を放った。
……よかった、弾速はかなり遅い。
大人が全力で走るくらいの速度だ。
雷球の標的は道案内役のリザードマンだ。
彼はリゼルヴァほど強くないが一応は戦闘員。
慣れた身のこなしで、なんなく雷球をかわした。
「速い火球をよく見て、首の根元を目指そう。そこに本体が――」
――バチン!
「ギャアア!」
あるはずだ、その言葉は何かが弾けた音と悲鳴にかき消された。
そして焦げたような匂い。
音の出所はすぐに分かった。
案内役のリザードマンが倒れていたのだ。
うつぶせに倒れており痙攣している……これは戦闘不能だな。
しかしなぜ? 雷球はかわしたし、次の攻撃はまだ発射されていないのに。
他の攻撃手段があるのか?
「”シャドーブラスト”!」
『双唱の指輪』で二発同時に発射。
二重の黒球が飛んでいく。
雷を吐く頭に直撃した、が大して効いたリアクションじゃない。
「ギ、ガ」
無機質な声とともに首二つが俺のほうを向いた。
よし注意をひけたな。
「って今度は両方かよ」
二つの口が開かれ、火と雷が球体として現れる。
そして俺へ向かって放たれた。
注意すべきは火だ。
火球のほうが圧倒的に早く到達する。
「当たらんよ」
熱いのは痛すぎるのでしっかり回避。
多少速くても直線軌道ならかわせる。
続いて雷球が遅れてやってくる。
チカチカ眩しい光にはどれだけの威力があるのか。
雷耐性はプライマイゼロだけど……。
「それはもっと当たらん」
一応、余裕をもって回避。
激しく明滅しながら雷球が横を抜けていった。
やはり注意すべきは火球のようだ。
いや、正体不明の攻撃に備えて警戒を怠らないな。
「おい、フジミ後ろだ!」
突如、案内役を救護していたリゼルヴァが鋭い声をあげた。
後ろ?
振り向いた先、一面に光が広がっていた。
なんだ、と思う間もなく衝撃。
「ぐおおおおっ!」
直撃を食らった。
激しい衝撃とともに意識が一瞬飛ぶ。
気がつくとHPが四割ほど削られていた。
体が若干しびれたように動かしにくい。
今の光は、間違いなく雷球だ。
よけたはずなのにどうして?
「フジミ! 生きてるか!?」
「あぁ、なんとか死んでるよ……」
案内役に『木彫りの女神像』で処置するリゼルヴァに、アンデッドジョークで返す。
ああも思いっきり被弾するとは恥ずかしい。
即死しなかったのは幸いだ。
「あの雷魔法はよけたところで追いかけてくるのだ、しかも徐々に速度を上げて」
一歩引いて戦況を見ていたホルンが教えてくれた。
雷球はよけられてからも消滅せず、Uカーブを描いて戻ってきたらしいのだ。
で、無防備な背中に直撃したと。
「案内役君が喰らったのもそのせいか」
速さの炎と追尾の雷、実にいやらしい組み合わせだ。
ますます正体が気になるモンスターだぜ……。
「あれ、なんかドクンちゃん静かだな」
胴体にしまったドクンちゃんが大人しい。
いつもなら「びっくりした」だの「喰らってやんの」だの言いそうなものだが。
<<フレッシュミミック:shock (55)>>
<<フレッシュミミック:HP2%>>
「うお瀕死じゃねえか、大丈夫!?」
「……」
反応はない、わずかに痙攣するだけだ。
たぶん雷魔法が引き起こした、shockの状態異常のせいだ。
胴体にしまっていれば俺が盾になると思っていた。
けれど全てのダメージを遮断できるわけじゃないみたいだな。
「怪我人にはホブスケをつけておく、接近して胴体を叩くぞリゼルヴァ!」
全身甲冑のホブスケじゃ、雷球に追いつかれてしまうだろうから残す。
しかし二種の攻撃を避けながら近づくのは簡単じゃないぞ。
そこで俺は閃いた。
瞬時に包帯を伸ばして、「あいつ」を拘束する。
そしてその背に颯爽とまたがった。
「行くぜホルン! イケメンタッグだ!」
「離れろ汚らわしい不死者が! それに我は乙女しか乗せぬ!!」
後ろ足で立って暴れる白馬。
振り落とされないよう、がっちりホールドする。
やはり拒否するか、潔癖ユニコーンよ。
しかし従ってもらわねば困るのだよ。
「そんなこと言ってると……首も落としちゃうぞ」
「くっ、殺……今だけだぞ」
お茶目にすごむが効果は十分。
実際に角を切り落としているからね。
渋々従うホルン。
「ナイス物分かり。おっと火球」
直後、飛来した火球をステップでかわるホルン。
なかなか優雅な身のこなしだ。
そして跨る俺もまた優雅。
「せいぜい振り落とされるな」
「そんなカッコ悪いことするかよ」
ユニコーンに跨る俺、イケてるじゃないの。
さしづめ亡霊騎士、ってところかな。
勇者が見栄えのためにホルンを捕獲したのも納得できる。
双頭の根元、森の奥を指示して号令を上げる。
「全軍突撃!」
「……私しかいないがな」
ため息をつきつつリゼルヴァが続いた。




