45話 報告と酒と進化の予感
ミノタウロスを華麗に爆破し、遺跡ダンジョンを余裕で完全制圧した俺。
忠実なる配下を従えてリザードマンの村へ凱旋を果たした。
「まーた嘘回想してるぅー」
肩に乗るドクンちゃんが文句を垂れた。
「だいたい合ってるからいいの」
ミノタウロス完封だったじゃん、俺最強だったじゃん。
スケルトン特攻戦法が卑怯? 勝てばいいんだよ勝てば。
「あっ、村見えてきたよ!」
「ようやくか。高貴な我を荷馬として連れまわすなど……」
ホルンはすっかりお疲れだ。
アイテムの類に加えて、ケガしたリザードマンを背負わせているからだろう。
「ことあるごとに高貴な存在アピールするけど、角が折れた今ただの白馬だからね君は。そろそろ自分の境遇を受け入れなさい」
「むぐぐ」
すごい形相で睨んできやがった、おお怖っ。
でも魔法を使えないユニコーンなんて敵じゃないもんね。
村に到着すると、すぐにケガを負った迷子リザードマンを引き渡した。
女神像で外傷は癒えているものの、だいぶ消耗している風で心配だ。
「クェケルッシュ!」
「いえいえ、それほどでも」
熱烈にハグしてくるのはケガ人の身内だろうか。
感極まって何を言っているのかわからない。
そもそもリザードマン語がわからないけども。
とりあえず謙遜しておいた。
「シシュケケシ!」
もう一人リザードマンがやってきて、俺に何かを押しつけた。
こいつも身内か?
渡されたのは小ぶりな壺だ。
「くれるの? ありがとう」
「シャー!」
どうやらお礼のようだ、遠慮せず頂戴しておく。
なんだろう、食べ物かな。
蓋を開けて嗅いでみる。
「エンっ!」
とたん、俺は激しくのけぞった。
エビ反ったといってもいい。
すさまじい刺激臭のせいだ。
脳が破裂して鼻の穴から噴き出るかと思ったほど。
「ハァハァ……マミーにここまでのダメージを! まさか敵……?」
と思ったが、リザードマンはニッコニコだ。
ほんとうに善意でくれたらしい。
「マスターひとりで何盛り上がってるの?」
「マジでヤバかったんだって! お前嗅いでみろや! それそれ!」
「やだあ!」
「食べ物で遊ぶでない」
ホルンに怒られた。
リゼルヴァもあきれている。
「それは一族秘蔵の酒だ。長らく客人には振る舞われていないがな」
「なんで? 貴重だから?」
「昔、人間に飲ませたら泡を吹いて死んだという話だ。私たち以外の体に合わないのだろう」
事もなげにリゼルヴァが言い放つ。
それって毒では?
毒殺されそうになったのでは?
「マスター、耐性あるから飲めるじゃん」
「毒だと分かってて飲むのはメンタルやばいだろ」
俺は人間じゃないから大丈夫かもしれないけども。
と、えっちらおっちら歩いてくる村人がいる。
ちぎれたトサカがトレードマークの族長だ。
「おぉ、マミー殿。よくぞご無事で! はぐれた者まで連れ帰っていただき感謝の言葉もありませぬ」
「ただいま長老。大冒険だったぜ」
その後、族長の家で探索結果を報告した。
魔族化オーガと遺跡ダンジョンについてだ。
話を聞いた族長は神妙にうなづく。
「ダンジョンは近よらなければ無害としても、オーガは本当に恐ろしい。この村などひとたまりもないでしょう……よくぞ倒してくれました」
「あんなのがうろついてたら気が気じゃないよな。スケルトンオーガを一体、警備に置いていくよ」
「重ね重ねありがたい。礼として大したものを差し上げらず心苦しい限りです。こんなものでよければ」
族長が合図をすると村人が包みを眼前に置いた。
大きさ的に短剣かな?
「別の捜索隊が見つけたものです」
「ほほー」
有能ですな。
さて、包みを解いて現れたのは――
木製の柄に金属の頭がついている工具だ。
「金づち? トンカチ?」
これは何て呼ぶのが正しいのだろう。
一切の飾り気なく、実にシンプル。
「ハンマーですな」
「あっ、ハンマーか」
ど忘れしてた。
ともかく鑑定しよう。
<<怒れる匠のハンマー:アイテム レアリティ:レア>>
<<振るたびに激怒を得る。鍛冶スキルを大きく向上させる>>
レア、ではあるけど俺じゃ使い道なさそうだ。
『激怒を得る』っていう文言は気になるな。
攻撃力上がりそうな雰囲気はあるけど、ポジティブな効果かしら。
その検証だけしておきたい。
あとは『鍛冶スキル』か。
「鍛冶できる人いる?」
「リザードマンにない文化です。鉄製品は稀に客人とやりとりするのみなので」
「やっぱり?」
村を見た感じ、家屋や道具は木材中心だったからな。
となるとこのハンマー、完全に宝の持ち腐れである。
「フーちゃんに喰わせるか」
フュージョンミミックのフーちゃんなら、マシなアイテムにリサイクルしてくれるかもしれない。
いやでも、工具じゃないものに『鍛冶スキル向上』がついて意味あるのか?
「とりあえず土産のオークとオーガ食べようぜ、俺は少しばかり疲れました」
「すぐに手配しましょう」
アイテムボックス内で空腹感を感じることはない。
たぶん収納物の腐敗や破損を防止するための機能だろう。
それでも心の充足感を得るためには、食事はたいせつなイベントだ。
その夜、リザードマンたちと焼き肉パーティーを開いた。
みんな実に楽しそう。
彼らの表情について、今ではだいぶ読み取れるようになった俺だ。
顔こそイカツイが気のいい奴らだよな。
「では誰が一番の美女だと思うか、我的には――」
「いや、ホルンさんほど目は肥えてないっす……」
とはいえリザードマンは性的な目で見れないなあ。
聖獣のくせに守備範囲すごいな、ユニコーン。
お土産はオーガとオークだ。
ミノタウロスはグチャグチャにしちゃったので諦めた。
「硬い! さすが筋肉モンスター」
「フジミの顎は軟弱だな」
オーガ肉はめちゃくちゃ硬くて食べるのに難儀した。
一方、リゼルヴァ達は気にせず噛みちぎっていた……恐ろしい。
「あれっ? オーク肉足りなくない? 腕と足一本ずつあったよな」
「族長どこいくのー?」
「(ギクッ!)」
忍び足で立ち去る族長を発見。
その手にはオークの足が一本。
豚足持ち逃げ現行犯の族長は、あえなく御用となった。
「すみませぬ! 頭の中の魔族が……」
「雑な言い訳出たなあ。そんなに美味いのか、オークは」
実際、オーク肉は美味だったのだ。
インテリジェンスお爺の族長が独り占めしようとするほどに。
「おいしー!」
「肉汁のモンスターハウスやぁ……!」
噛むほどにジューシー。
肉汁が肉に絡み旨みが旨みをよんで美味いが美味くておいしい。
言語が崩壊するほどの味わいだ。
「これがまた、秘蔵の酒に合うのですじゃ」
族長が例の毒酒をあおる。
うわ、ほんとうに飲んでるよ。
少し観察してみたが、族長は泡を吹いて死ぬどころかますます食が進んでいる。
「どうですかな、マミー殿も一杯?」
「えっ、えぇぇ……」
「……フッ」
戸惑う俺を横目にリゼルヴァが酒をあおった。
そのとき鼻で笑われた気がする。
「よっしゃ飲んだるわ! かんぱーいクッサ! けどウマっ!!!!」
<<poison <->>>
<<resist>>
やっぱ毒じゃねえか!!
「ホホホホ、よい飲みっぷり」
族長をはじめリザードマンたちは大盛り上がりだ。
ならいいか。
アイテムボックスとかいう謎の空間であっても、おいしい食事と仲間がいれば耐えられるってもんだ。
俺たちは大いに食い、笑った。
ついでにまたリゼルヴァをボッコボコにした。
そして俺は三回目の『アレ』を迎えることになる。
<<進化条件を満たしました 進化を実行しますか>>




