43話 愚者の瞳
ミノタウロスから逃げた先はオークの巣窟だった。
新たな危機に直面したが、ドクンちゃんの機転で切り抜けることに成功。
引き換えに『いかがわしい粉』という尊いアイテムを失った俺であった。
あと心が汚れた。
「――っしょい!」
最後の一組を切り伏せ、ようやく地獄から解放された。
何が悲しくて盛っているオークを屠殺して回らにゃならんのだ。
そんな異世界ファンタジーある……?
「こっちも終わったよー」
ドクンちゃんの担当分も終わったらしい。
小ささ故に非力な彼女だが、変幻自在の触手を鼻から脳へ刺すことで始末していた。
やることがちょくちょくエグいんだよなあ。
「この部屋から別の部屋には続いてないみたいね」
「戻るしかないな」
つまりミノタウロスと再戦するということ。
その前に片づけておきたいことがある。
金属製の球体を懐から取り出す。
ミノタウロスが最奥で守っていたアイテムだ。
見た目はくすんだ金色で、くるみのようにシワが彫られている。
球の中央に大きなくぼみがある。
大きさは人間の目玉くらい、重量はとても軽い。
『愚者の瞳』。
レアリティは初の『レジェンド』。
効果は『視力と引き換えに不可視を得る』というもの。
強力アイテムと思われるが使用方法が不明なのだ。
「たしかに目ん玉っぽいけど、どう使うんだろう……ドクンちゃん知らない?」
「目ん玉っぽいなら入れてみればいいじゃない」
「はい?」
発言を理解するのに時間がかかった。
つまり、義眼のように眼窩に押し込めと言っているらしい。
また無茶を言い出したぞ、このコミカル心臓は。
「でも俺、両目とも現役だし引っこ抜きたくないぜ?」
「アンデッドなんだから一個くらいとれても大丈夫でしょ」
「目ん玉の形してるから突っ込めっていうのは流石に――痛っ」
触手を使って背後に回り込んだドクンちゃんが、これまた触手で勢いをつけてドロップキックをかましてきた。
まるでバネのように触手を操るとは……俺の動きを取り入れてやがる。
後頭部に衝撃。
直後、視界が暗転。
すると部屋の明かりが消えたように何も見えない。
「いきなりなに――あっ、あれ!? 暗い!?」
まさか両目が取れたのか? そんなギャグ漫画みたいなことある?
しかし顔を触ってみると眼球の感触がない。
ワイトのころに戻ったみたいだ。
……だとしたらあの頃はどういう仕組みで見えていたんだ?
さておき床を手探りするさなか、ドクンちゃんが何かを蹴り飛ばすような音が聞こえた。
「マスター、一つあったよ」
「おお、サンキュー……サンキューではないな」
お前のせいだもんな、目ん玉落ちたの。
受け取った一つの眼球を右目に押し込む。
む、なんだか硬くない?
「おい何も見えないぞ」
これ俺の目玉か?
抗議するものの、返答は思いがけない反応が返ってきた。
「あれ!? マスターが消えた!」
「はい? 俺はここにいますよ、ふざけてるの?」
おふざけはいいから眼球を返しなさい。
「ドクンちゃんキック!」
「いたいって」
なぜかまた蹴られた。
なんだこの仕打ち。
「マスター聞いて、『愚者の瞳』をつけたら透明になったみたいよ」
「やっぱりこれ『愚者の瞳』かい!」
そんな気はしていたけれども。
ドクンちゃん曰く、『愚者の瞳』をはめた瞬間から姿が消えたらしい。
今度こそ本物の眼球をとってきてもらい、片目に戻した。
が、見えない。
姿も透明なままだという。
「両方の目を戻してみよう」
これで視力戻らなかったら困るどころじゃないぞ。
自分由来の眼球を眼窩におさめた。
どきどきしたが、ちゃんと視力は戻った。
「あ、透明じゃなくなったよ」
「なるほど、『愚者の瞳』をつけてると問答無用で見えなくなるのか……姿も視力も」
『視力と引き換えに不可視を得る』、意味がようやく分かったぞ。
たしかに透明になるのは強い。
でも視力がないと立っているのがやっとだ。
間違ってもミノタウロスと追いかけっこなんてできない。
敵をやりすごす場面なら使えそうだけど、ダンジョンの奥に祭るほどかコレ?
しかもレアリティ:レジェンドって。
「まあいっか! じゃあミノタウロスにリベンジするとしようぜ!」
「その自信……なにやら秘策があるのね! マスター」
もちのろんさ。
ヒントはそこらでくたばっているオークどもだ。
いつもならカブりつくところだけど、今回は違う。
……あんなものを見せられて食欲が湧かないのもある。
リザードマンたちへ、腕と足を数本お土産にするとしよう。
「これだけリソースがあれば問題ない、楽勝だ」
この部屋のオークは24匹もいた。
全員倒してようやく部屋の広さが把握できたくらいだ。
「あいさー!」
ふふふ、目にもの見せてくれるわ!




