42話 大乱こ……乱闘
ミノタウロスから逃げる俺。
間一髪で飛び込んだ部屋には、いまだかつてない光景が広がっていた。
無数のオークだ。
その数、少なくとも30は下らない。
「モンスターハウスだ!」
モンスターがすし詰めになった部屋を一部のゲームでそう呼ぶ。
入ったが最後、四方八方からタコ殴りにされ光の速さで絶命するトラップだ。
可能な限り速やかに脱出するのが望ましい。
「ギュモオオオオオオオ!!」
しかし背中を預けた扉の向こう。
いまだにミノタウロスの怒号が響いている。
前門の豚、後門の牛。
果たして部屋の中と外、どちらが安全なのだろうか。
(どうせならモン娘系に囲まれたかった)
よってたかってモン娘に喰われるというのも、なかなか業が深い。
俺にそこまでの性癖はないが。
「マ、マスター……」
注がれる熱い視線にドクンちゃんが怯えている。
部屋中の赤い瞳を俺が釘付けにしていた。
フゴフゴという鼻息の音が徐々に高まっていく。
決して仲良くトーキングする雰囲気じゃない。
「ここんところパワー系多いな、ドクンちゃん俺の代わりに双唱の指輪もってて」
双唱の指輪を外すと、ドクンちゃんに渡しておく。
オーク。
でっぷりとした人間の体躯に、豚の頭が乗ったモンスター。
力はあるが知能は低い。
前に戦ったオーガやトロールを弱くした立ち位置だ。
やたらと本能に忠実なのがよくある設定で、特に繁殖力と食欲が高いとされがち。
とはいえ俺はカラッカラのアンデッド。
彼らのお口に合わないと思いたいが……。
「ブヒ……じゅるり」
だめだ、ヨダレ垂らした。
完全に喰う気だわ。
マミーからすれば格下だけど、さすがにこの数は辛いぞ。
「ブヒイイイイイ!」
「喰われてたまるか! ”ブラインド”、”ブラインド”!」
俺を囲む三匹が一斉に掴みかかってきた。
うち二匹に目くらましをかけ、一匹をかわす。
「ドクンちゃん、使えそうなアイテムある!?」
「えっとね、毒ポーション、鑑定スクロール、さっきの球……あっ、サンダークラウドのスクロール!」
「使っちゃって!」
あったね、そんなの。
肋骨の隙間からドクンちゃんの詠唱が聞こえる。
その間、ブラインドを織り交ぜつつオークをよけ続ける。
一度でも捕まれば八つ裂きにされてしまうだろう……スリル満点だ。
「”サンダークラウド”!」
俺の胴体から光が漏れた。
発動したスクロールが光って燃え尽きたのだ。
同時、部屋の天井に霧が広がっていく。
霧は明滅する線をまとい、成長していく。
最終的に縦横2メートルほどになり、密度が増した。
サンダークラウド――小さな雷雲だ。
雷雲から破壊の力があふれ出す。
稲妻が駆け抜け、そのたびにあちこちでオークの悲鳴があがった。
「ブヒッ!?」
混乱によって攻撃の手が緩んできた。
ナイスだぜドクンちゃん。
”ブラインド”に加え、アイスブランドも駆使してオークを牽制する。
斬りつけると俺のHPとMPが少し回復する。
『生命吸収』『精神吸収』スキルの効果だ。
慎重に立ち回ればMP切れに陥ることはない。
「ん? マスターこの小袋なあに?」
「……あっ」
ドクンちゃんが俺の中からアレを見つけたようだ。
ここぞというときのために秘蔵していたチート級アイテム。
ある意味俺の切り札だ。
そういえば持ってたの忘れてたわ。
冷汗が頬を伝う。
「”いかがわしい粉”……持ち歩いてたの? 肌身離さず」
<<いかがわしい粉:アイテム レアリティ:コモン>>
<<いかがわしい気分になる粉>>
おっとドクンちゃんの声が冷たいぞ。
「い、いまはそんなことを追及している場合じゃないだろ!」
オークの手をよけつつマヒ毒を打ち込む。
よし、一体マヒにしたぞ。
サンダークラウドが徐々にしぼみ始めた。
「こんな粉燃やしちゃおうよ」
「ドクンちゃんさん!?」
そんなご無体な。
いつかモン娘と巡りあったとき、確実にチャンスをモノにする約束された勝利の粉だよ!?
それを捨てるなんでとんでもない!
「なに勘違いしてるの? 早く松明とって!」
「へ、へい!」
有無を言わさない圧力に俺は屈した。
たまにすごい迫力だすのよね、使い魔とは思えないさ。
跳躍して松明をとるとドクンちゃんは床に置けという。
指示通り置いた松明の炎へ、無情にも夢の小袋が投入された。
「あっ……」
みるみる燃えていくハッピパウダー。
立ち上る煙は、いつか俺が見るはずだった夢の素だ……。
さようならマイドリーム。
眩しいエンジェルたち……。
もくもく
もくもくもく
もくもくもくもく
「煙多くないかい!?」
「だからそれが狙いだってば!」
煙が?
ドクンちゃんの言いたいことがようやく理解できた。
視界にポップしたウィンドウだ。
<<poison (-)>>
<<resist>>
毒?
この煙に毒が含まれていると?
なるほど、密室に毒煙を充満させて一網打尽にするわけか。
なおかつ俺は耐性で毒無効にできるもんな。
冴えてるじゃないの、ドクンちゃんや。
「ブ……ヒ?」
煙を吸ったオークたちが動きを止めた。
くくく、苦しめ苦しめ。
そして無防備になったところを切り刻んでくれるわ。
「ブ、ヒ……ブヒヒ!」
「あれ?」
少し待ってみたが、一向に苦しむ気配がない。
むしろ目が血走って元気になってないか?
その理由はすぐに思い至った。
<<いかがわしい粉>>
そう、この粉を吸うといかがわしい気分になる。
煙を吸ったオークも当然……
「ブヒヒブッヒイイイイ!」
「ピギイイーーーーーー!」
オークが別のオークに喰らいついた。
喰らいつかれたオークもお返しとばかりに喰らいつく。
互いを貪りあう、二匹の獣。
その高ぶりは食欲ではない、性欲だ。
そう彼らは……一つになった。
「うへぇ」
大変にショッキング。
俺の胸からドクンちゃんが誕生した以来の衝撃だ。
不快感、恐怖。
マミーの俺がオークに気圧されていた。
彼らの本気の、ぶつかり愛に。
そこからは地獄だ。
あちらこちらで、くんずほぐれつ。
上になり下になり。
前から横から後ろから。
オスだかメスだか分からない嬌声の大合唱。
俺の硬派なダンジョン攻略史に残る汚点だ。
「ねっ、燃やしてよかったでしょ」
「ま、まあ結果オーライとしよう」
こんな形で粉を使うとはね。
複雑な思いとムカつきと覚えながら、恋人たちを始末して回った。
入手時期
サンダークラウドのスクロール:23話
いかがわしい粉:11話




