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41話 スタコラサッサ

 ダンジョンの出口から入場し、いきなりボスと戦う羽目になった俺。

 全身筋肉に加えて剛毛の鎧は半端な刃を通さない難敵だ。

 しかしリゼルヴァは迷子のリザードマンと脱出し、ホブスケはバラバラにされてしまう。

 そのうえ出口がアクシデントで塞がれてしまった。

 覚悟を決めた俺はミノタウロスと正々堂々戦う……はずもなく。

 逆走を貫くべくダンジョンの『入口』へ向かって全力疾走を始めたのである。


「うおあああああああ!」


 言うまでもなくダンジョンは罠がいっぱいだ。

 石橋を叩いて渡るがごとく床を叩いて進むくらいがちょうどいい。

 間違ってもなりふり構わず走り抜けたりしてはいけない。

 こんな風に。


「うおっ!?」


 目の前を矢が横切った。

 鼻が生えていたら持ってかれていただろう。

 びっくりして心臓止まるかと思った。


「ドクンちゃんはここだよー。マスターの中、なんだか色々入ってるのね」


「ピンチになったら使ってくれ」


 ……俺の心臓は使い魔として胴体に収納されている。

 ついでに有用そうなアイテムも少しばかりしまっていた。

 空洞の胴体はポケットみたいに使えて便利である。

 それはさておき。


 何があろうと止まることは許されないのだ。


「モオオオオオ!」


 床を鳴らしながら猛牛は追いすがる。

 この通路は大型モンスターの侵入を想定した広さじゃない。

 

 しかしミノタウロスはというと、角と肩で通路を削りながら、体に罠の矢を浴びながらも突き進んでくる。

 まさに狂牛。


 あれに轢かれたら、それはなめらかな骨灰になってしまうだろう。

 喉仏も残らないに違いない。 


「こういうミニゲームよくあるよな! 後ろから岩とか転がってくるやつハハハハハ!」


「追い詰められてハイになってる!」


 前方にスケルトンの群れが見えてきた。

 粗末な槍を構えた集団だ。

 はぐれリザードマンはあいつらから逃げてボス部屋に逃げ込んで来たんだった。

 

「どけええええええ」


 向こうは悠長に槍で迎撃する構えだが、こちらに立ち止まる暇はない。

 瞬時にルートを判断しアドリブで実行。


 壁に向かってジャンプ。

 そして壁を蹴って更にジャンプ。

 人、これを三角飛びと呼ぶ……由来は知らん。


 スケルトンの頭上を行き、やつらの頭を踏みつけて更に加速。

 マミーズアクロバットで難なく飛び越えた。


「よし抜けた!」


 残されたスケルトンたちが、こっちをもたもた振り返る。

 が、彼らの背後には壁のようなミノタウロスが迫っている。


「ブモモー!」


「あーあ」


 包帯の隙間から見たドクンちゃんが落胆する。

 スケルトンたちはミノタウロスに激突され、あえなく飛び散った。

 あまりの質量差。

 もはやコミカルに感じる光景だ。

 

「くそっ、なんの足止めにもならねーか……うわっなんだ!」


 壁から煙が噴き出してきた。

 痛みはないが視界が悪化して戸惑う。

 同時にウィンドウがポップした。

 

<<poison (-)>>


<<resist>>


 もっててよかった毒耐性。

 煙を走り抜けた背後から、大きな咳が聞こえてきた。

 どうやらミノタウロスには辛かったらしい。


「グモオオオオオオオ!」


「えっ、なんで怒ってんの!?」


 なぜだか速度をあげる猛牛。

 毒ガス浴びせたのは俺じゃないよね!?

 ……俺か? 俺になるのか?


「ええい、”シャドースピア”!」


 走りつつ頭だけを真後ろに向ける。

 そして闇魔法発射。


「グモオオオオ!」


「ダメだ、怯みすらしねえ。何が彼を駆り立てるのか」


「これじゃない?」


 胴の隙間から、ドクンちゃんが何かを差し出して見せた。

 金属製のクルミっぽいが、いつのまに拾ったんだ?


「逃げる前に拾っておいたの、祭壇に飾られてたやつ」


「ナイスだけど、だから追ってくるわけね納得」


 床から突き出た槍を回避。

 そのアイテムは状況打破に使えるだろうか。

 ドクンちゃんが鑑定してくれる。


<<愚者の瞳:アイテム レアリティ:レジェンド>>


<<視力と引き換えに不可視を得る>>


「えっ、レアリティレジェンド!? で、どう使うの!?」


「わかんない、ただの金属の球に見えるけど」


 初めて聞くレアリティだ。

 貴重なアイテムに違いないが、使い方が分からなければ役に立たない。


 球、か。

 爆弾系のアイテムなら投げつければいい。

 けどもし違ったら……踏み潰されるぞ。


 あと『視力と引き換えに』って一文が気になる。

 この状況で視力を失ったら、転んで轢かれてゲームオーバーだ。

 どうやら打開策にならないっぽい。

 

「マスター、分かれ道だよ!」


「えぇぇ、入り口はどっちだー!?」


 Y字路が見えてきた。

 リザードマンがやってきた道を選べば入口に行けるはず。


 どっちの道を選んでも入り口に続いてくれたら嬉しいけど……。 

 右か左か。

 ダメだ、まったく分からん!


「勘だ右!」


 俺に続いてミノタウロスも右折。

 果たして選択は正しかったのか。


 結果はすぐにわかった。

 少し走ると壁が見えてきたのだ。

 ドクンちゃんの涙声がする。


「マスタぁー……行き止まりだよぉ」


「まだだ! まだ分からんよ!」


 近づくにつれ、よく見えてきた。

 確かに行き止まりだが左手に扉がある。

 そこから通路が続いているかもしれない。

 でなくとも部屋にはなっているだろう。


「うおおおおお”ブラインド”! だめだ意味ねぇ!」


 目くらましをかけてもそのまま突っ込んできやがる。

 俺と違って罠を避けられず全身傷だらけのミノタウロス。

 しかし勢いは衰えるどころか増している。

 あれか、アドレナリン的なあれなのか。


 突き当りの部屋に滑り込めるか?

 扉に鍵でもかかっていたら、手間取ってるうちに即お陀仏だぞ。


「グモオオオオ!」


「うおおおおお間に合えっ!!!」


 鼻息が近づく。

 扉まであと少し。

 あと、少し!


「これで喰らえー!」


「グモアアアアアアア!」


 背後で瓶の割れる音。

 そしてデカい悲鳴。

 ドクンちゃんが『フレイムスパイダーのポーション』を投げつけたようだ。

 体力が一時的に回復する毒薬である。


「ナイス!」


 半ば体当たりするように扉へ突っ込む。

 取っ手があるからスライドすれば行けるはずだ。 


「しゃあああああああああっ!」


 おかげで間一髪、俺は扉の向こうへ滑り込んだ。

 レバーや仕掛けが必要じゃなくてよかった。


「ゴモアアアアアア!」


 閉じた扉の向こうから激しい衝撃と怒声が聞こえてくる。

 しかし破られる気配はない。

 頑丈な扉で助かったぜ。

 扉を開ける知能がないのも僥倖だった。


「はあー……死ぬかと思った」


「死んでるけどね」


 くだらないやりとりに、笑みがこぼれる。

 ひとまずの窮地は脱したぞ。


 部屋の中は真っ暗だ。

 モンスターになったからか俺は夜目が効く。

 とはいえ瞬時に見えるようになるわけじゃない。

 人間のときよりめちゃくちゃ早く暗闇に慣れるだけだ。


「なんか、いるよ」


 ドクンちゃんが息をのむ。

 たしかに闇の中に無数の気配がする。

 はあはあという不穏な息遣いも。


 大きな影が見える……多いぞ。

 扉に背をつけて警戒する。

 

 そのとき、ぱっと明かりが灯った。


「うおっまぶしっ」


 壁面に設けられた松明が一斉に点灯したのだ。

 まるで俺を歓迎しているかのように。


 そこに映し出されたのは……



<<Lv31 種族:妖精 種別:オーク>>


<<Lv38 種族:妖精 種別:オーク>>

<<Lv30 種族:妖精 種別:オーク>>


<<Lv35 種族:妖精 種別:オーク>>

<<Lv37 種族:妖精 種別:オーク>>

<<Lv32 種族:妖精 種別:オーク>>


<<Lv34 種族:妖精 種別:オーク>>

<<Lv39 種族:妖精 種別:オーク>>

<<Lv34 種族:妖精 種別:オーク>>

<<Lv32 種族:妖精 種別:オーク>>


        ・

        ・

        ・


「モンスターハウスだ!!!」


 大部屋いっぱいにひしめく、豚頭の巨漢たち。

 そこはオークたちの巣窟だった。

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