36話 実食 オーガ肉
魔族化したオーガ一体を倒した俺たち。
残り一体をひきつけるホルン・トリスケに合流し、これを慎重に撃破した。
タネさえ分かれば魔族化オーガは大した敵じゃねぇな。
勝利の後は晩餐会だ。
「リザードマンの皆さんはオーガって食べたりします……?」
「挑戦してみよう」
「よかったー、ひかれなくて」
リゼルヴァの返事に胸を撫で下ろす。
アンデッドな俺とドクンちゃんは、基本的に生きとし生けるもの全てを食してみたい。
リザードマンたちに嫌悪されたらどうしようか思っていた。
連戦で消耗した俺たちは野営することにした。
アイテムボックスという謎の空間にも昼夜の概念があるらしい。
一丁前に星がまたたき、得体のしれない鳥の鳴き声が聞こえてくる。
火魔法を使えるリゼルヴァが薪に着火してくれる。
実にうらやましい。
オーガ肉を手際よく串に通しては、くべていく。
「俺、属性魔法の要求SP高くて手が出ないんだよねぇ、火とか雷とか撃ちたいのに」
「代わりに闇魔法が使えるのだろう? MPが低いリザードマンからすれば魔法が使えるだけで脅威だ」
「でもリゼルヴァは火魔法得意だね」
「……私はたまたまだ」
言葉の通じないリザードマンが同調するようにグエグエ鳴いた。
なんとなくリゼルヴァを誇っているような雰囲気である。
暗褐色の村人が多い中でリゼルヴァだけは鮮やかに赤く、そして強い。
もしかしたら特別な個体なのかもしれないな。
「肉を食うなど、野蛮な」
香ばしい煙から距離をとる聖獣ホルン。
ベースが馬ということもあり彼は完全草食らしい。
「ホルンちゃんも食べてみればいいのに……というよりも」
「ドクンちゃん、その先はいけない」
よだれを拭うドクンちゃんをたしなめる。
たしかにホルンは美味しそうだ。
馬刺しなんて久しく食べていないもの。
しかも聖獣……さぞかし高貴なお味が――
「なぜ我を見つめながら涎を垂れ流す?」
「おっと、いかんいかん」
今は調理に集中だ。
焼きあがったオーガは実に食欲をかきたてるビジュアルだ。
表皮は緑色だが中の肉はきれいな赤身で歯ごたえを期待させる。
滴る肉汁、それが含む熱い脂を舌で味わいたくて堪らない。
焼き肉が行きわたると、俺たちは声をそろえて食前の祈りを捧げた。
「いただきまーす」
「シェリクシススケロ」
リザードマンが何に祈っているかは謎だ。
逆にアンデッドが食事の祈りを捧げるなど変に思われたかもしれない。
「デリシャス!」
「ンマーーーイ!」
「シャーーーッ!」
そんな些細な疑問が吹き飛ぶほど、オーガ肉は素晴らしい味わいだった。
リザードマンは鋭い歯をもってるだけあって食べるのが早い。
というか食べつつ次の肉を焼いている……要領いいな。
「なぁ今まで食料どうしてた?」
「その辺の草で凌いでいた、湖を見つけるまでは……ガフッガフ」
クールなリザードマンも今は焼肉に夢中だ。
そういえば聞いていなかった疑問がある。
「……ていうかどれくらい閉じ込められてんだ?」
「今日で一週間くらいだろうか、体感だが」
「そっか、俺と一緒くらいだな」
ドクンちゃんいわく、通常アイテムボックス内は時が止まっている。
しかしイレギュラーである俺が収納されたことで、一部のアイテムが動き始めたらしいのだ。
リザードマンたちが収納されたのは魔王討伐以前。
なので俺と同じ期間しかアイテムボックス内の記憶がないのはおかしい。
俺と同じような時期に停止が解けたのだろう。
「つまり停止していた頃の記憶はないのね」
目玉をパクつきながらドクンちゃんが補足する。
俺の分も残しておいてね?
「しかし勇者も杜撰だよなぁ、モンスター減ってるのに気がつかないのかね。けっこう殺して回ったぞ俺ら」
「この感じだと収納しすぎて中身把握できてないんでしょ」
魔王を倒した勇者は、いわばゲームクリア状態だ。
序盤に拾った地味アイテムの数など気にしていないのかもしれない。
とはいえ片っ端からアイテムを取り出されては、脱出の糸口を失ってしまうかもしれない。
この環境を利用していることを感づかれないようにしたい。
あからさまに勇者が使いそうなアイテムは消費しないよう気をつけねば。
「ゲッ! クエ!」
と、突然リザードマンの一人が苦しみだした。
仰向けに倒れ、喉をかきむしっている。
食べかけのオーガのモツ(どの内臓かは不明)が転がっていた。
「どうした、毒か!?」
「しっかりしろ!」
毒というより喉に詰まった感じだ。
バシバシ背中を叩いてやる。
もう一匹のリザードマンも加わる。
リゼルヴァも加わる。
ドクンちゃんも加わる。
……リンチの様相を呈してきた。
「ゴッホ!」
その甲斐あってか、ついに詰まっていた異物が飛び出した。
放物線を描くのは肉片……をまとった金属だ。
「あっ」
皆が見守る中、それは肉を焼く炎に吸い込まれていった。
最初に我に返ったのは俺だ。
「お前らぼーっとしてんじゃねぇ! お宝だお宝――熱ッッッッ!!!!」
「アハハ、マスターなんで火に手突っ込んでんのーアンデッドのくせに!」
俺の火耐性はマイナス5です。
「そそっかしい奴だ……ほら取れたぞ」
リゼルヴァが枝を使ってブツをかき出してくれた。
金色の指輪だ。
小粒の鉱石がついている。
「マスター、探知の指輪もってるのに気がつかなかったの?」
「うるせぇな、どこ探しても見つからなかったから諦めてたんだよ」
リザードマンの族長から譲り受けた『探知の指輪』。
付近にレアめなアイテムがあると知らせてくれる便利アイテムだ。
実際、オーガと戦闘してから指輪が震えていることに気がついてはいた。
しかし宝箱が見つからないので、一旦諦めていたのだ。
「まさかこいつらが喰ってるとはな、ふざけやがって」
指輪は当然人間サイズ。
オーガの極太な指じゃあ入らないよぉ、ってやつだな。
はらいせに飲み込んだのだろうか、迷惑なことだ。
吐き出したリザードマンも含めて興味深そうに指輪をのぞき込む。
「この中で鑑定使えるよって人ー……俺だけかい」
「正確には使い魔であるアタシよ」
ドクンちゃんがもっている『鑑定Lv1』は、主人たる俺とシェアされているのだ。
「へいへい、じゃあ鑑定しますよっと」
<<双唱の指輪:アイテム レアリティ:レア>>
<<装着者の唱える呪文が二回発動される>>
「おおっ強そう!」
これって単純に魔法攻撃力2倍ってことでは?
鑑定結果を他の面々に教えてやる。
するとリザードマンズは気落ちしていた。
そっか、君たち魔法使えないもんね。
リゼルヴァだけは難しい顔をしている。
「とりあえず使ってみたらどうだ」
「そうだね、”シャドースピア”!」
指輪を装着し手近な木へ試し打ちする。
すると、確かに二本の”シャドースピア”が同時に突き刺さった。
想像の通りだ、が……
「MP消費も倍だコレ……」
「なるほどねー」
ドクンちゃんは察していたような反応。
きっちり二発分のMPを消費する、と。
瞬間火力は上がったが、総火力は変わらないわけだ。
俺たちは一晩を過ごし、翌朝もう一体のオーガを村に持ち帰るべく発った。
さすがにオーガの巨体はホルンには重すぎるので(そもそもオスは嫌だと拒否されたが)、
堪能したほうのオーガをスケルトンにして運ばせることにした。
俺が作成できるスケルトンは三体までだから、村に残したゴブスケのスケルトン化を遠隔で解いたのであった。
<<Lv46 種族:アンデッド 種別:スケルトンオーガ>>
ついでにオーガ持参の大斧はスケルトンオーガにもたせることに。
「こいつは”オニスケ”でいいか」
おもむろに出来立てスケルトンによじ上るドクンちゃん。
「たかーい!」
「……」
無関心を装いつつも、リゼルヴァは羨ましそうに見上げていた。




