34話 鬼の手 奥の手
リザードマンを加えた俺たち一向は、探索の最中オーガ二体に遭遇した。
一体はホルン・トリスケ組が遠ざけ、ほかの面々で残る一体を相手取ることになった。
全身甲冑のスケルトン、ホブスケが振るうのは死のアイスブランド。
確率で所持者が死ぬという呪いの品だ。
5回目に『死のアイスブランド』が振られたそのとき。
ホブスケの頭上に状態異常を知らせるウィンドウがポップした。
『統率Lv2』により拡張されたUIだ。
『死の』エンチャントとはどういう仕様なのか。
実のところ、俺は検証したくてたまらなかった。
ホブスケに指令を飛ばし、剣を振るうのを止めさせてみる。
これでカウントダウンが止まるか?
<<スケルトンウォーリア: curse (3)>>
<<スケルトンウォーリア: curse (2)>>
止まらない。
一秒ずつカウントダウンは進行する。
『死なせる』効果は分類上はcurse――呪いとして発現するみたいだ。
石化のときと同じだな。
いきなりぽっくり逝くわけじゃないらしい。
今度はその場に剣を捨てさせてみた。
これで呪いの品は離れたが、死は解除されるか?
<<スケルトンウォーリア: curse (1)>>
解除されない、と。
確率をひいたら最後、カウントダウンは止まらないらしい。
そしていよいよ、そのときは訪れた。
<<スケルトンウォーリア: curse (0)>>
<<スケルトンウォーリア: death>>
death――死。
初めて見る文言だが、これ以上ないほどに分かりやすい。
カウントゼロで即死するらしいが果たして……?
「むむ?」
状態異常のウィンドウが消えた。
数秒待つ。
ホブスケは崩れさることも、爆発することもない。
HPゲージも至って正常。
今日も元気なスケルトンです。
検証に付き合ってくれてありがとう。
「なるほど……アンデッドにdeathは無効、と」
一人納得。
この世界における死は、アンデッドを活動停止させる意味じゃないらしい。
であれば『死の』アイスブランドは俺にとってノーリスクで使える武器ということ。
そもそも分類上呪いなら、耐性で無効化できるだろう。
なんてったってLvM――MASTERなので。
「さっきから何をしている!?」
魔法攻撃を飛ばすリゼルヴァが呼びかけてきた。
おっと検証に夢中になるあまり攻撃の手を緩めていたみたいだ。
「検証が終わったところだ、これから畳みかけるぞ!」
「検証?」
怪訝像なリゼルヴァ。
怒られそうな雰囲気をごまかすべく攻勢をかけることにした。
ホブスケにアイスブランドを拾わせて攻撃を再開させる。
「”シャドーブラスト”!」
斧の薙ぎ払いを飛び越えながら魔法をぶち当てる。
さらに腕を浅く斬りつけておく、これはマヒ毒狙いだ。
包帯による機動力と両爪のマヒ、そして闇魔法。
アイスブランドがなくても結構戦えちゃう俺なのである。
「こいつあんまり強くないなあ、リゼルヴァ」
「フジミの動きが規格外なのだ、私に余裕は……ない!」
後衛のリザードマンたちが標的にならないよう、リゼルヴァは相手の手が届くギリギリの範囲で戦っている。
気ままに一撃離脱ができる俺と比べ、仲間のことを考えていて偉いな。
そうこうしているうちに、オーガがピタリと動きを止めた。
まるで雷に打たれたように膝立ちで天を仰いでいる。
「マヒ入ったな、一気にいくぞ!」
こうなればこっちのものだ。
包帯で片足を絡めとりバランスを揺さぶってやる。
マヒによって踏ん張りが効かず、倒れる巨体。
その首を狙って前衛三人が殺到する。
「おらあっ! 浅いか」
包帯を使ってジャンプ、回転しながら太い首を爪で斬りつける。
血が噴き出るが両断するには至らない。
続いてホブスケがアイスブランドを打ち下ろす。
鮮血の勢いが増したが、直後に傷口が凍ってしまった。
……出血を狙いたいなら氷属性は適さないな。
「シェアアアアア!」
最後にリゼルヴァがちゃっかり持ち出した『退魔のハルバード』を叩きつけた。
退魔の効果が乗ったかは不明だが、完璧な一撃だ。
割れるような音とともにオーガの首は転がり落ちる。
憎しみに満ちた顔が俺たちを睨むが、ゲームセットだ。
「トロール並みの回復力はー、無いな」
断面を覗き込むが再生する気配はない。
なんだ、あっさり勝てたな。
魔族化されてたらしいけど、どの辺が強化されていたんだろう。
「よしホルンたちに合流しよう」
早いとこ助けてあげないと。
トリスケがいるとはいえ心配だ。
オーガの亡骸に背を向けて歩き出した時だった。
「マスター! 後ろ後ろ!」
リザードマンの肩に乗るドクンちゃんが、俺の後方を指して叫んでいる。
なんのコントだよ。
「おいおい、まさかオーガが蘇ったとでも――ぐえ」
そのまさからしい。
振り向くことを許されず、俺は巨大な手に鷲掴みにされた。
木の幹のように太く、ごつごつした手指。
間違いなくオーガのものだ。
尋常じゃない力で俺を締め、持ち上げている。
ふくろうのように頭蓋骨を回転させ、振り向いた俺。
目の前には、巨大な眼球があった。
オーガのものではない。
奴の首は依然として転がっている。
しかし胴の断面から謎の黒い粘体があふれ、頭部を模すように固まっているのだ。
その中心にはオーガの顔面よりも大きな目玉が据えられていた。
巨大な瞳がばっちり俺を見つめていた。
「この世界のオーガってこういう感じなん……?」
「魔族化だ! まだ終わってないぞ!」
リゼルヴァの怒号が二回戦の始まりを告げた。




