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27話 肌も露わな

 だだっ広い森林部屋を進む俺たち。

 元ユニコーンのホルンを加えたまったり旅は、モンスターの遭遇により終わりを告げた。

 不意打ちをしかけてきたのは巨大植物モンスター『ヒドラプラント』。 


 ホルンが聞きつけた騒ぎの元は、このモンスターか?


 悠長に考えていると、ツタが動いて巨大な口へ運ばれる。

 さすがにマズイ。

 足を掴みあげるツタを切りたいところだが、剣を振っても届かないだろう。


「俺の腕は他にもあるんだぜ……っと」


 背中の包帯を伸ばして、腰の剣を抜き放つ。

 そのまま足をつかむツタを斬りつけると、さっくり切断。

 拘束が解かれて地面に落とされた。


 痛みを感じたのか、それとも餌を逃して悔しかったのか。

 ヒドラプラントが牙むいて吠える。

 連動して、あちこちの茂みから続々と緑の柱が現れた。

 ……あれもツタか?

 数にして四本。

 すべてが冗談のように太い……まるで植物アナコンダだ。

 それぞれが独立しているかのようにうねり、伸び縮みしている。

 その様はたしかに多頭の竜――ヒドラを連想させた。


「お前らフォーメーション!」


「はいさ!」


「む、承知」


 ホルンくんはまだ皆と打ち解けてないのかな?

 反応がまだまだ鈍いね。


 前衛は俺&ドクンちゃん、トリスケ、ホブスケ。

 後衛はゴブスケ、ホルン、ついでにフュージョンミミックだ。


 ドクンちゃんがひらりと俺の肩へ飛び乗った。

 そして俺は敵正面へ走りだす。

 トリスケとホブスケが左右から続く。

 ゴブスケはホルンに跨ってクロスボウをセット。

 フュージョンミミックはホルンの背に括られたまま何もしない。

 こいつの戦闘能力は無きに等しい。

 しいて言うならゴブスケのお尻を支えている。


 俺を迎え撃つヒドラプラントの顔が、少しだけ膨らんだ。

 閉じた口の間から紫の液体が滴っている。

 いかにも毒液だ。


「ドクンちゃん、中に入っといて」


「はいよー」


 俺の胴体は空洞なので、ドクンちゃん(しんぞう)を収納しておくのに便利だ。

 ……そもそも、そういう生き物だったんだけどね俺。


 予想通り、ヒドラプラントの口から毒液が放たれた。

 左右のスケルトンズは横跳びで回避したがギリギリだ。

 巨体のせいか毒液の放出量も半端ではない。

 敵の正面一帯が濡らすほどの攻撃範囲だった。

 俺はそれを丸かぶりしたわけだが……。

 

<<poizon (-)>>

<<resist >>


「ちゃんと無効化できてるな」


 毒のカウントダウンが始まらずに、状態異常ウィンドウが消えた。

 マミーに進化したとき、俺は二つの耐性がMASTERレベル(たぶん上限)に達していた。

 毒耐性はその一つ。

 通常は毒を無効化し、相手のレベルが俺より低い場合は反射するのだ。


 俺の体内からドクンちゃんが這い出して来る。

 安全に毒液を防げたようでなにより。


「次の攻撃は――っと単調だねぇ」


 振り下ろされたツタを軽く跳んで回避。

 衝撃で地面の小石がちょっと浮いたぞ。

 当たったらペシャンコにされそうだ。


「マスター横からもう一本!」


「はいよ!」


 足の包帯をバネにしてハイジャンプ。

 丸太のようなツタが、足元を抉っていった。


 と、そこでドクンちゃんが異変に気づいた。


「マスター、なんで全裸になってるの?」


「はあ? 何言って……きゃっ、包帯が溶けてる!?」


「悲鳴が乙女!」


 俺の体を覆う包帯が、水に溶けるタイプの水着のように消えていた。

 毒液のせいか。

 ……ん、例えがおかしいって?


 それはさておき、マミーのトレードマークを奪われた俺は、シンプルなゾンビになっていた。

 ダストゾンビ時代を思い出すけど、身体能力は断然上だ。

 背中の包帯も溶けたのでアイスブランドは手で持つしかないな。


「くっそ! ヒロインにヒットしてたらラッキースケベコンプリートだったのに……!」


「たぶん服ごと溶かされるわよ」


 それは見たくないなあ。

 機動力が下がって、ツタの突破が面倒になった。


「アレを出すか……トリスケ!」


「ギグエ!」


 奥の手解禁だ。

 トリスケのクチバシから灰色のブレスが放たれる。

 かなりの風圧だが、あのブレスにダメージは一切ない。

 ただし……


「一本固まったわよ!」


「ナイス!」


 顔面を庇ったツタが、先端から石化を始めた。 


「巨大なモンスターだと石化までに時間かかるな」


「ゴブリンのときは10秒くらいだったのにねー」


 コカトリスの石化能力はスケルトンになっても健在だ。

 全身骨のどこからブレスが湧いているのか謎すぎるが強いのでヨシ。

 

 続けてどんどんツタを石化させるトリスケ。

 それを叩きにくるヒドラプラントだが、フォローできちゃうのが俺だ。


「”シャドーブラスト”!」


 黒球が弾け、トリスケ狙いのツタを阻んだ。

 飛び立ったトリスケは、空中から石化ブレスを浴びせ続ける。

 負けじと毒液がぶちまけられる。

 

<<スケルトンコカトリス:poison(60)>>

<<HP:96%>>


 あら?

 トリスケの頭上に文字が表示された。

 毒状態に陥ったことを告知しているのだろう。

 今までこんな表示はなかったが……。


 『死霊術』か『統率』のスキルレベルを上げたせいかもしれない。

  どちらかというと『統率』の効果かな?


 毒状態のカウントダウンに対して、HPの減少は緩やかだ。

 俺ほどじゃないにしろトリスケも毒耐性をもっているんだろう。

 この調子なら放っておいても大丈夫そうだ。

 ていうか仲間の所持スキルくらい確認したいものである。


「”ブラインド”!」


 ブラインド。

 一秒間の間だけ、相手の視界を真っ暗にする闇魔法だ。

 視覚があるか不明だが試してみる。

 するとヒドラプラントの動きを一瞬止まった。

 どうやら有効なようだ。

 

「よし、突撃!」


 トリスケを更に上空へ飛ばせ、俺とホブスケが一気に接近する。

 狙うはデカい頭――花だ。

 ブラインドが解けたヒドラプラントは動揺している。

 さっきまで狙っていたトリスケを見失ったからだ。

 

「クエエ!」


 機を逃さず、頭上からトリスケの不意打ち。

 四肢の鉤爪をヒドラプラントの顔面に突き立てる。

 尻尾の大蛇とクチバシ攻撃がそれに続く。


「ホブスケ、セット!」


 走る俺の前方、ホブスケが中腰で待ち構える。

 組まれた手のひらに片足を乗せた。

 同時、ホブスケが腕を振り上げ俺を放り投げる。

 更に自分の跳躍力を加え、高く高く俺は飛ぶ。


 巨大な花に迫っていく。


「爪追加ぁぁぁ!」


 着地地点はもちろんヒドラプラントの顔面。

 五指の爪とアイスブランドで滅多斬りにしつつ、闇魔法を連打。


「”シャドーレイピア”! ”シャドーレイピア”! ”シャドーレイピア”!」


 近距離高威力の魔法。

 アイスブランドによる斬撃と氷ダメージ。

 そして爪によるマヒ毒付与。


「マスター、マヒ入ったわ!」


 巨体が弛緩して地面に伏した。

 マミーのマヒ毒に侵され、ビクンビクンと痙攣している。

 こうなればあとは集中砲火あるのみ。

 ホルンとゴブスケも加わってタコ殴りタイムに突入する。


 俺たちの最大火力を受け続け、ヒドラプラントの花は落ちた。

 

 ……


 ……


 ……


「ドクンちゃんたちの大勝利ー!」


「いやー快勝ですな」


 パーティーメンバーと勝利のハイタッチを交わす。

 ホルンだけは「触るな干物」と拒みやがったので、タテガミを撫でくり回してやった。

 溶けた包帯もほとんど復活した。

 どういう原理なのか、ほとほと謎である。

 

「……勝利の余韻に浸っているようだが、まだ騒ぎは聞こえるぞ」


 耳をすませたホルンが告げる。

 

「近づいてきてない?」


 何かを聞き取ったドクンちゃんが同意した。

 鈍い俺はまだ聞こえない。


「そこだ、くるぞ」


 ホルンが鼻先で茂みを示した直後、そこから顔を出したのは――


「また蛇かよ!」


「違う、リザードマンよ」


<<Lv29 種族:亜人 種別:リザードマン>>


 黄色い瞳と目が合った。

 驚いたのか、黒い瞳孔が収縮している。


 瞳の持ち主は、暗褐色の蛇……の顔をした亜人だった。

 頭頂部に水かき状の小さなヒレがある。

 首から上は蛇の顔で、下はほぼ人間に見える。

 二本足で直立し、粗末な槍と革の鎧をまとっている。

 露出している部位は鱗に覆われて光を反射していた。

 特徴的なのは立派な尻尾だ。


「ククルクキェグ!」


 どうやら向こうにとっても予期しない遭遇だったようだ。

 何かを叫ぶと踵をかえしてしまった。

 マミーと心臓と馬とスケルトン三体。

 森で出くわしたらそりゃ驚くよね。


「おっ? 逃げんのか!?」


「やめなさいドクンちゃん」


 なぜか好戦的なドクンちゃんを諫め、リザードマンの後を追うことにする。

 騒ぎの真相に迫るために。

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