19話 勝てばよかろう
スキュラに続いてコカトリスとの連戦。
恐怖の石化ブレスをかい潜り、コカトリスを池へ叩き落すことに成功した俺。
スケルトン化したスキュラを召喚し形成は逆転した。
このまま勝負をつけたいところだが……。
「そのまま引きずり込め!」
骨の蛇たちが巨体に絡みつく。
まるで鎖の束のようだ。
水面を叩いて抵抗するコカトリスだが、水中はスキュラの独壇場。
そう簡単には逃げられないぞ。
加えてホブスケが馬乗りになり、特大棍棒で殴打を浴びせる。
「でも全然力尽きる感じしないよ!」
ドクンちゃんの不安は俺も感じていた。
Lv45の相手に対して、俺たちの攻撃がどれくらいHPを削っているのか見えないのだ。
このままスケルトン2体が振り払われ、池から脱されては絶望的だ。
”シャドースピア”で援護しながら考える。
もっと効率的にコカトリスを疲弊させるにはどうすればいい?
そうだ、これを使ってみよう。
『瓶詰の妖精』の栓をつまむと、思いっきり引っこ抜いた。
閉じ込められているのは氷の妖精だから、うまくいけば池を凍らせてくれるかもしれない。
そうすれば完全に動きを封じられ、タコ殴りに集中できる。
「精霊が味方なら、の話だけど」
自由になった瞬間、無差別攻撃とかしないだろうな……。
瓶から自由になった青い光は徐々に姿を変える。
ろうそくの火くらいの大きさから、拳大の蝶へと変貌したのだ。
ガラス細工のように優美で透明な蝶は霜を帯び、まさしく精霊というに相応しい。
<<Lv20 種族:精霊 種別:アイシクルバタフライ>>
蝶はひらひらと俺の周囲を舞う。
コカトリスを指さしてみる。
「アイツ! アイツをお願いしますよ! ……いてっ」
蝶は一回俺に体当たりをかますと、要望通りコカトリスへと飛んで行った。
「きっと瓶を振った仕返しよ」
行く末をドクンちゃんを見守る。
水面すれすれを飛ぶ蝶だが、池が凍るということはなかった。
そこまでのパワーはないのかもしれない。
じゃあキレイなだけかよ、というと違った。
「ギ、ギギグエエェェェェ!?」
コカトリスの大きくなる悲鳴に反して抵抗が段々と鈍っていく。
蝶はコカトリスの周りを優雅に舞っているようにしか見えないが……?
「マスター、見て! 羽が凍ってきてる!」
ドクンちゃんの言う通り、コカトリスの羽先が白く変色していた。
羽に付着した水分が凍ったのだろう。
氷によって動きを奪われ、重りをつけられたコカトリス。
その抵抗は目に見えて弱まっていった。
「おおっ、ナイスバタフライ!」
とはいえスキュラの耐久度も心配だ。
絡みついている骨の蛇が減りつつあることに気がついた。
鋭い爪攻撃が水面下でスキュラにダメージを与えているのだろう。
それにホブスケも大蛇の攻撃で削られている。
決着を急ぐべく、俺は援護射撃を開始した。
頭上からホブスケの棍棒。
腹下からはスキュラによる引きずり込み。
遠距離からは俺の闇魔法。
そしてアイシクルバタフライによる凍結拘束。
「いけいけー!」
そしてドクンちゃんの鼓舞。
かなり卑怯くさい集中砲火により、ついにコカトリスは水中へ姿を消した。
しばらくたって浮かんできた巨体に息はなく、ただの骨に戻ったスキュラの破片が絡みついていた。
「ありがとうキュラスケ、お前の雄姿は忘れないぞ」
モン娘もどきが、とか思ってごめんよ。
溺死以外でコカトリスを倒すのは困難を極めただろう。
ホブスケと一緒にコカトリスの死体を引き上げる。
ホブスケの片腕はもげ、頭もぐらぐらしていた。
完全回復するには時間がかかるだろう。
ついでに新たなゴブスケを作成しなければ。
「お、戻ってきた」
「おかえりー」
アイシクルバタフライが誇るように周囲を舞う。
どうやらこれからも力を貸してくれるようだ。
瓶の蓋を開けると掃除機のように蝶は吸い込まれ、小さな光に戻った。
俺たちは休息がてらコカトリスの肉にありつくことにした。
「そういえば、もう死体食べても経験値入らないよね? 『掃除屋』のユニークスキルないから」
「だって食べるの楽しいじゃん……羽むしっといてくれる?」
「アイサー!」
ホブスケとドクンちゃんが猛烈な勢いでコカトリスの羽をむしる。
一面に舞い散る羽毛。
めちゃくちゃデカい毛布が作れそうな量だ。
この部屋には色々雑多な道具が落ちていた。
その中には調理器具も含まれている。
「じゃじゃーん、火打ち石! まさか異世界にきて挑戦するとはな」
取り出したるはフライパン、そしてたぶん火打石。
火打石なんて初めて触るが、サバイバル番組で見たことがある。
ファンタジーらしく火の魔法が使えればよかったが、仕方ない。
「マスター、前の部屋に松明あるよ……」
「あっ」
これまでの石造りの部屋には松明が設けられていた。
すっかり失念した俺に、ドクンちゃんがため息をつく。
「ていうか焼きたいなら今までもできたじゃん」
「……う、うるせえ! 今夜は焼き鳥パーティーだ!!」
「イエェエエエエエイ!!」
こうして俺は、異世界に来て初めて文明的な食事にありついたのだ。