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18話 カウントダウン

 

 スキュラを倒し、宝箱を手に入れた俺。

 用途不明の瓶詰精霊にうっとりしていると、空気の読めない勇者が水を差しに現れた。

 大人の対応で停戦を申し入れたつもりが、うっかりマジ切れさせることに。

 そして送り込まれたコカトリス Lv45。

 対するワイト Lv20……と愉快な仲間たち三匹。

 勇者よ、少しはレベル差を考えてくれ。


「グギアア!」


「あぶねっ」


 直進する灰のようなブレス。

 コカトリスのクチバシから放たれたものだ。

 横に大きく跳んで回避成功。

 強烈な風が吹き抜けていった。

 範囲は広いが威力はそれほどでもないようだけど……。

 

 視界に状態異常を示すメッセージが表示された。


 <<curse (60)>>


 curese――呪い?

 毒のときと同じく、(60)がカウントダウンされるものと思っていたが、

 数秒待つとそのまま表示は消えていった。

 どうやらカウントダウンが開始される条件があるみたいだ。


「ゴ、ゴブスケー!」


 ドクンちゃんの悲鳴。

 見れば俺の忠実なる手下――スケルトンの一体がブレスをもろに受けていた。

 白骨死体から作られたスケルトンは、今やブレスと同じ全身灰色に染まっている。

 俺が命令を飛ばしても微動だにしない。


 ……石化したのだ。

 俺は思い出すことになる、コカトリス最大の武器を。

 

 魔獣コカトリスの吐息は浴びるものを石化させる。

 石化を解く手段は多くない。

 たいていの作品じゃ専用の呪文やアイテムが必要だ。

 この世界での具体的な手段は不明。


「あー、なんか石化に効く薬草あったような……ダメだ、忘れた」


 この部屋には草が茂っているが、目当ての薬草が都合よく生えちゃいないだろう。

 ダメ元で地面の雑草を鑑定してみる。


<< 草 >>


 いま、鑑定スキルに煽られた?

 そりゃ貴重な薬草なら宝箱に入ってなきゃおかしいわな。

 つまり石化したら打つ手なし、ゲームオーバーだ。


「とりあえず散開しよう! ドクンちゃんは袋から使えそうなモノ探して!」


「ゴブスケ、仇はとるわよ……」


 石化したゴブスケからアイテム袋を受け取るドクンちゃん。

 俺とスケルトンウォーリア――ホブスケは挟み込むように移動する。

 ホブスケに投げナイフを使わせ、コカトリスを牽制。

 この部屋に落ちていた品だけど早速役に立ったぜ。


 ホブスケのメインウェポンは特大こん棒だ。

 こいつでホブスケが接近戦を担う。

 俺は近~中距離で魔法を打ち込む……よし、この作戦でいこう。 

 

「ギギイイイイイ!」


「くっ!」


 コンパクトな薙ぎ払いブレス。

 煙幕のように俺へ吹きつけてきた。

 風圧に足が止まるがダメージは0。

 その代わりに『curese (60)』の表示がされる。

 次いでカウントダウンが猛烈に進んでいき、(41)で止まった。

 ちょうど、まわりに漂っていたブレスの残滓が消えるのと同じタイミングだ。

 その後ゆっくりカウントが回復していく。


 おそらくブレスを浴び続けることで『curese (60)』のカウントダウンが進行する。


「カウント0で石化か……呪耐性に感謝だな」  

 

 幸い俺=ワイトには『呪耐性Lv5』が備わっている。

 『フレイムスパイダーの毒ポーション』を浴びた時には、毒ダメージをかなり軽減できた。

 呪いも同じように何かを軽減できているんじゃなかろうか。

 比較対象がいないから分からないが、石化までのカウントダウン速度が遅くなる。

 もしくはカウント回復が早くなっている、あたりの効果が妥当だろう。


「よっ、と! しぶとい蛇だな」

 

 背後をとると尻尾の蛇が攻撃してきた。

 スキュラの蛇と比べ、大蛇といえるサイズ感だ。

 なんどか斬りつけた程度じゃ死にそうにない。

 もし絡みつかれたから脱出は困難だろう。


 大蛇に阻まれ、思うようにコカトリス本体にダメージが与えられない。

 魔法を打ち込んでも、蛇が盾になるように動きやがる。


 一方でホブスケは驚くべき身のこなしで攻防をこなしていた。

 『死霊術』か『統率』、どちらの強化によるものか明らかに強くなっている。

 それでもなかなか棍棒を叩きこむ隙はないようだ。


 ドクンちゃんの毒液も効きが悪い。

 目に直接当てないと効果は期待できないだろう。


 格上への実力差を覆すには、まだ何か足りない。

 このまま押し切れるのか?

 一抹の不安が頭をよぎる。

 しかしコカトリスはさらに厄介な状況を作ろうとしていた。


「マスター、あいつ飛んじゃったよ!」


「こりゃマズいな……」


 湿地のぬかるんだ地面を嫌ったのだろう。

 コカトリスは長大な翼を広げ、部屋中央へと羽ばたいた。

 池の上空から俺たちを睥睨するコカトリス。

 あの高さでは俺の魔法しか届かない。


 やつは大きく息を吸った。


「……そうか」


 空なら何者にも縛られず、そして――


「ブレス打ち放題ってことかよ!」


 石化の暴風が吹き荒れる。

 

 <<curse (60)>>

 <<curse (59)>>

 <<curse (58)>>

 <<curse (57)>>


 猛烈な勢いで石化カウントダウンが始まった。

 このままだと30秒くらいで石になってしまう。


「なんか無いか!?」


 遮蔽物は、ない。

 部屋を出るか? 間に合うか?


「マスターこっち! 石化を防げるわ!」


 灰色の風の向こうで、光る一帯がある。

 そこからドクンちゃんが呼んでいた。

 強風に煽られながら近づいていく。


「それ、女神像の回復フィールドじゃねぇか!」


「いいから!!!」


「おい! バカ――」


 『木彫りの女神像』は祈ることで自動回復フィールドを作り出すアイテムだ。

 基本的には徐々にHPを回復できるありがたい効果なのだが、俺にとっては違う。

 この像の力は聖なる属性をもつため、アンデッドの俺には逆にダメージを与えるのだ。

 回復フィールドに踏み込むということは、石化に加えてダメージのカウントダウンまで抱えるということ。

 なんのメリットもない。


<<curse (40)>>

<<curse (39)>>

<<curse (38)>>


 躊躇する俺を触手で引きずりこむドクンちゃん。

 案の定、聖属性の力によりHPが徐々に減っていく。

 言わんこっちゃない。

 が……。


<<curse (60)>>

<<curse (60)>>

<<curse (60)>>


「石化のカウントダウンがリセットされた?」


 しかも(60)から減らない。

 

「たぶん、石化にかかった瞬間に治してるんだわ」


「状態異常を治す効果があるのか!」


 石化ブレスと回復フィールドが同時に存在する場合、

 ブレスにより石化状態が始まるが瞬時に回復フィールドがそれを治す。

 すると今度はブレスが石化状態を始め……という処理が繰り返されるようだ。

 ただし俺はダメージを受け続けるんだけど。


 つまり石化カウントが進んだら回復フィールドに入り、ダメージが蓄積したら――


「ブレスだけを受ける、と……!」


 回復フィールドから出ると、再び石化カウントダウンが始まる。

 引き換えにHPが徐々に回復してく。

 『自然回復Lv2』の効果だ。


 こうやって出たり入ったりを繰り返せば時間が稼げる。

 とはいえ『自然回復Lv2』の回復速度は、女神像が与えてくるダメージ量に追いつかない。

 さっさと打開策を捻りださなければ。


「……よし、いける!」


 次なるブレスを放つため、コカトリスが大きく息を吸った。

 ホブスケに合図を飛ばし、一斉に池に向かって走り出す。

 その上空、コカトリスが口を開いた。


 <<curse (59)>>

 <<curse (58)>>

 <<curse (57)>>

 

 カウントダウンが始まる。

 まだだ、もっと距離を詰めないと。


 <<curse (31)>>

 <<curse (30)>>

 <<curse (29)>>

 <<curse (28)>>


 コカトリスに近づくほど風の勢いは強まり、カウントダウンも早くなる。

 もう少し……!


 <<curse (16)>>

 <<curse (15)>>

 <<curse (60)>>

 <<curse (60)>>

 <<curse (60)>>


 ドクンちゃんが一瞬だけ俺をフィールドに入れた。

 ナイスフォロー。


「よし”ブラインド”!」


 俺の新技、『ブラインド』。

 闇魔法Lv2で解禁された魔法の一つだ。

 対象の視界を一瞬だけ真っ暗にするという地味な呪文だ。

 けど1秒程度の目くらましでも、戦闘じゃ命取りになる。


「グ!?」


 空中のコカトリスが硬直した。

 不意に視覚を失い、姿勢の制御が不安定になる。

 バランスを崩したところに二の矢を打ち込む。


「いっけぇ!」


 ドクンちゃんが『木彫りの女神像』を投擲した。

 輝く回復フィールドを纏った女神像は、放物線を描いてコカトリスの顔面へ。

 

「ギエエッ!???」


 『ブラインド』で真っ暗だったコカトリスの視界が、今度は光で満たされた。

 急激な変化に更にバランスを崩す。

 よし、徐々に高度が下がってきた。

 ダメ押しだ。


「”シャドースピア”! そしてホブスケGO!」


 闇魔法と同時、大きく跳躍したゴブスケがドロップキックを放つ。

 魔法と物理、衝撃を受け完全にバランスを崩すコカトリス。


「ギギギッ!!!!」


 きりもみしながら巨体が水面へ落下した。

 激しい水しぶきの向こうでコカトリスに組みつくホブスケが見える。

 いくらスケルトンウォーリアとはいえ、押さえつけるには体格差がありすぎる。

 そこで次の策を用意していた。


「クリエイトスケルトン! カモン、キュラスケ!!!」


 俺の命令を受け、水底から骨の蛇たちが首をもたげる。

 全部で八匹。

 コカトリスの大蛇に比べれば細いが、水中はアイツの得意フィールドだ。

 

 仄暗い水の底から、新たなる配下が現れた。

 浮上したスケルトンと八匹の骨蛇……それらは水面下で繋がる一つのモンスターだ。


 <<Lv30 種族:アンデッド 種別:スケルトンスキュラ>>

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