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16話 噛めば噛むほど

 

 女性の悲鳴に駆けつけた、ジェントルワイト俺。

 そこには今まさに溺れている女性の姿が。

 自らの命をなげうって、すぐさま助けに飛び込んだ。

 しかし悪しきモンスター、スキュラの罠だったのだ。

 誠実な心を踏みにじり、八匹の蛇が俺に牙を剥く。

 水中というスキュラに有利なフィールドで、全身を拘束されてしまうとは。

 あわやここまでか。


 そのとき颯爽と飛び込む仲間がいた!

 頼れる前衛、スケルトンウォーリアのホブスケだ……!


 ホブスケの素材はゴブリンの上位種たるホブゴブリンだ。

 それもネームドモンスターという強力な個体。

 力においては俺の上を行く。


 派手な水しぶきとともに、スケルトンがスキュラに挑む。

 モンスター対モンスターの構図ってアツイよね。

 

 ホブスケがスキュラの人間部位に組みつく。

 容赦なく女の細い首を締め上げると、蛇たちが怒り狂ったように蠢いた。

 人間部分はスキュラにとって囮にすぎないと思っていたが感覚はあるのかもしれない。 

 加えて、鎧をまとったホブスケの体重でスキュラの姿勢制御が不安定になっている。


 ホブスケの登場で蛇たちの拘束が緩んだ。

 この機を逃さず反撃に出なければ。


「シャドースピア!」


 蛇の塊が苦悶に踊る。

 もう少しで片手が自由になる。


「シャドーレイピア!」


 俺の新技、『シャドーレイピア』。

 シャドースピアの上位版で、射程が若干短いけど威力が高い。

 蛇の数本がちぎれて舞った。


 効果は覿面だ、さらに締めつけが弱まる。

 自由になった手で腰にさすストーンブレードを抜き、ホブスケに手渡した。


(やったれ!)


 右手で人間部分の首をつかむホブスケ。

 左手のストーンブレードを胴へ突き立てる。

 寸分の遅滞なく正確な刺突。

 その動き、まさに機械のよう。


 スキュラが激しく暴れ、血が煙幕のように水に舞う。

 緑がかった血はドクンちゃんの毒液を思い出させた。


 俺の純情を踏みにじった報いはこれだけじゃないぜ。

 蛇の一匹を捕まえると思いっきり噛みしめてやる。


 ……むむっ、一度だけじゃかからないか。

 形勢不利を悟ったのか、俺たちを振り払って逃げようとするスキュラ。

 水中で逃げに徹せられては厄介だ。

 逃がすわけにはいかない。


 すり抜けようとする蛇を何度も噛むと、ついに狙い通りになった。

 死にもの狂いで抵抗していたスキュラが、完全に沈黙したのだ。

 ぷかりぷかりと水中を漂うだけ。

 わずかに末端が痙攣している。


 ――死んだわけじゃない。

 ワイトのユニークスキルにより、マヒしたのだ。

 

(これが『マヒ毒付与』の効果じゃ!)

 

 『マヒ毒付与』。

 俺の直接攻撃がマヒ毒を帯びるスキル。

 爪や歯を使った攻撃じゃないとマヒを与えられないから弱いと思っていた。

 しかし戦術に組み込めば、マヒはかなり強力な状態異常だ。


 その後、無抵抗なスキュラをホブスケが滅多刺しにしてゲームセット。

 俺たちの完全勝利だ。


 (相手が悪かったな、スキュラよ)


 水中に引きずり込んだ時点で、相手が人間なら勝負がついていたかもしれない。

 けれどアンデッドの俺には呼吸という弱点がない。


「ぶはあ」


 水面から顔を出すと、なんとなく息を吐いてしまう。

 眼窩から水が溢れ出すのがちょっと快感。

 ホブスケと共にスキュラの死体をけん引していく。


「このバカマスターが! なにやってんのよボケカスハゲェー!」


 岸には俺を待つ人影があった。

 荷物持ちのゴブスケと、怒り狂うドクンちゃんだ。

 今にも破裂しそうなほど真っ赤に脈打っておられる……。


「ちょ、やめてやめて。ごめんて」


 水から上がろうとすると、ドクンちゃんが触手でバチバチ叩いてきた。

 こいつもスキュラの親戚かな?


「……心配したんだから」


「悪かったよ、迂闊なことして」


 すねる心臓。

 これが美少女だったら正統派ヒロインなんだけどなぁ。

 ぐにぐにと撫でてやると満更でもなさそうに触手を揺らした。

 

 正統派ヒロインでは、ないな。


 その後、謝り倒してようやく俺は許されたのだった。 

 さて。


「この風変わりな部屋を探索しますか! 宝箱もまだだしな」


「アイサー!」


 スケルトンズと心臓がぴょこぴょこ跳ねた。




***


 魔王城。

 勇者にとって最終決戦の地だった。

 魔王が倒されてからも城の周辺には悪しき残滓が残り、

 今ではそれに惹かれた危険なモンスターの生息域。

 とはいえ、いまさら勇者が出向く場所ではない。


 しかし勇者は再び現れた。


「ゴアアアアア!!」


 猪の顔をした大男が吠える。

 呼応して暗い森のあちこちから咆哮が上がった。

 対峙する勇者は顔色ひとつ変えない。


「だめだ、きっとコイツじゃ足りない」


 もっと強いヤツはいないのか。

 呟いて雑に剣を一閃させる。


 ――そよ風が枝葉を揺らした。

 

「ゴ、ゴフ!?」


 猪頭のモンスターは一拍遅れて気づく。

 自身の体が両断されていることに。 

 そして痛みを感じる間もなく、肉塊と化す。


「どこだ、どこにいる……」


 アンデッドのような足取りで森へ消えていく勇者。

 それを人知れず見守る人影があった。


「勇者様、どうして……」


 修道服の首元にはロザリオが輝いていた。


***

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