14話 オデ、トロール、クウ
卓越した剣さばきと知略によって難なくトロール攻略した俺たち。
フジミ=タツアキのソードマスター伝説序章が幕を開けた。
しかし次なる部屋に向かうにあたり、俺は一つの選択を迫られていた。
「アタシのときめきポイズンのおかげでトロールを倒せてよかったわね!
なんか都合のいい導入があった気がするけど」
「あっはい、すんません」
祝勝会兼、第二回お食事会。
トロールの肉を頬張りながら俺たちは意見を交換していた。
皮が分厚くて解体に手間取ったが、とってもオイシイ。
固いが深みがある……ジビエって感じだ。
「まさか分かれ道になってるとはね」
「しかも開けた先が不思議空間だもんなぁ」
トロールの部屋には先へ進むためのレバーが2つあった。
これまでは一本道だったが、ここにきて分岐にあたったのだ。
俺たちは一瞬だけ扉を開け、それぞれの部屋をのぞいた。
結果、俺たちは二回もびっくりした。
扉の先は一つが砂漠、一つが湿地だったのだ。
何を言っているのかわからないと思うが、俺も何を見たのかわからなかった。
魔法に詳しいドクンちゃんにも分からなかった。
「でもまぁ、ここはアイテムボックスの中だしな。何が起きても不思議じゃない、か?」
「そういうことにしときましょ。どうせ進むしかないんだし」
前進あるのみ。
すべては異世界生活を満喫するため。
そのための脱出手段が見つかることを信じて……!
ということがあり、どちらに部屋に進むかを食事がてら相談していたのだ。
新しいスキルでできることも整理したいし。
脱出への決意を新たに、トロールのもも肉を噛みちぎる。
弾力がすごすぎて顎の筋肉が痛くなりそう。
俺、骨しかないから関係ないけど。
「せめてトロールがスケルトンにできれば心強かったのにな」
「頭潰したらダメなんて、残念ねー……ジュルジュルジュル」
骨髄を吸うドクンちゃん。
『死霊術Lv1』で覚えた魔法『クリエイトスケルトン』。
生物の死体をスケルトンとして操れる呪文だ。
これまで、人間かゴブリンかホブゴブリンの死体しか利用できなかった。
しかしトロールを倒したことで、トロールのスケルトンが作れるはずとウキウキしていた。
が……。
<<失敗:対象の状態が不適切>>
頭を切り離したトロールは、なんとまだ生きていた。
驚異的にもほどがある生命力だ。
生首を跡形もなく滅多打ちにしてようやく息の根を止めた俺たち。
しかし生首が粉々の死体では、クリエイトスケルトンは失敗してしまうのだった。
あの怪力、ぜひ戦力に欲しかった……!
とはいえ俺たちの戦力は若干強化されていた。
久しぶりにステータスを見ておこう。
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フジミ=タツアキ(未使用)
Lv :20
種族:アンデッド
種別:ワイト
称号:転生者
ユニークスキル:セカンドライフ 生命吸収 マヒ毒付与
スキル:不死 自然回復Lv2 闇魔法Lv2 死霊術Lv2 剣術Lv1
MP回復Lv1 MP拡張Lv1 統率Lv1 恐慌強化Lv1
毒耐性Lv5 呪耐性Lv5 魔法耐性Lv1 物理耐性Lv1
火耐性Lv-3 聖耐性Lv-3 (鑑定Lv1)
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……うん、(未使用)は取れてないね。
もはや転生者以上のアイデンティティと化してるね。
大きく変わったのはユニークスキルが増えたことだ。
レベルが上がったことでワイトのユニークスキルが増えた――というか解放されたらしい。
<<マヒ毒付与:通常攻撃がマヒ毒を帯びる>>
マヒ。数ある状態異常のなかでも強力とされることが多い。
しかし俺はこのスキルについては有用性を疑っている。
”通常攻撃”という文言をみてほしい。
これはどうやら、俺自身の体で直接傷つけないといけないらしいのだ。
つまり噛む、ひっかく、殴るなどしないと発揮されない。
……そして俺の手には剣がある。
素手よりもリーチも威力も勝る、武器を持っているのである。
剣を捨て、麻痺ほしさに生身で特攻するだろうか?
マヒ毒付与の残念性能、おわかり頂けたと思う。
ちなみにスキルの検証はゴブスケで行った。
「何なんだよ、この残念スキル……」
「使い道次第よ、想像してみて?」
トロールの骨をしゃぶりながらドクンちゃんは述べる。
「狭くて暗いダンジョン、麻痺持ちのワイトたちがなだれ込んできたとしたら?
前衛がマヒにされたら一瞬で隊列が崩されるわよ」
「たしかに……敵だと強いけど仲間になると弱いライバルみたいなもんか」
なりふり構わないモンスターだからこそ光るスキルってことか。
その点、俺はワイトでありながら立ち回りが人間だ。
スキルを活かせないのも仕方ない……のか?
ほかに新調したのは『統率Lv1』『闇魔法Lv2』『死霊術Lv2』だ。
『統率Lv1』は配下のモンスターを強化するスキルだ。
これは使い魔のドクンちゃんと、クリエイトスケルトンで作ったゴブスケが対象だ。
ドクンちゃん曰く「アタシらしさが増した」とのこと。聞くだけ無駄だったわ。
『闇魔法Lv2』と『死霊術Lv2』はそれぞれレベルを上げたことで呪文のレパートリーが広がった。
『死霊術Lv2』はスケルトンの強化、新しい戦闘呪文、さらには――
「いくぞー、スケルトンズ」
がちゃりがちゃり、と。
駆け寄ってくるスケルトンが二体。
そう、同時に二体まで「クリエイトスケルトン」できようになったのだ。
一体はこれまで通り、ゴブリンのスケルトン(通称ゴブスケ)。
もう一体はホブゴブリンのスケルトンだ(通称ホブスケ)。
ホブスケの鑑定結果はこんなかんじ。
<<Lv14 種族:アンデッド 種別:スケルトンウォーリアー>>
どうやら上位のスケルトンらしい。
ホブスケはゴブリンの上位個体の死体だからか、背丈も高い。
だいたい俺と同じくらいだ。
きっと大活躍してくれるだろう。
ちなみにトロールが守っていた宝箱だけど、中にはこんなのが入っていた。
<<フルプレートメイル(使用済み) アイテム レアリティ:アンコモン>>
<<金属製の全身鎧>>
なんと剣に続いて全身鎧である! 素晴らしい!
兜からつま先まで全て揃っているのだ……血まみれだけど。
ただ残念なことに、脇腹の部分に人差し指くらいの穴が開いていた。
千枚通しのような武器で貫通させられたのだろう。
穴からの出血具合からして、装着者は生きてはいないだろう。
そしてもう一つ残念なことがある。
「くっそ重いぃぃぃ……これぇぇ」
鎧ワンセットを装備してみたところ、歩くのがやっと。
とても敵の攻撃をよけられそうになかった。
なので俺は兜だけ被って、残りはホブスケに着せた。
どうやらホブスケのほうが筋力(?)があるらしく、キビキビ動いている。
しかもトロール愛用のこん棒も持たせた。
1メートル近いサイズのこん棒は振り下ろすので精いっぱいだが、威力はお墨付きだ。
重装備で動けるなんて、さすが元ネームドモンスター。
「よし、いよいよ行きますかー!」
「オッケー!」
ぴょんと俺の肩に飛び乗るドクンちゃん。
兜をかぶり直し、いざ次の部屋へ出発!
砂漠か、湿地か。
どーちーらーにーしーよーおーかーなー……
「きゃあああああああああ!!」
唐突に響く女の悲鳴。
俺はすぐさま走り出した。
目指すのは湿地の部屋だ!