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129話 愚者にして亡者

 『愚者の瞳』。

 人間の目玉を模した金属製のレジェンダリーアイテム。

 眼窩に装着することで、使用者は不可視の姿を得る。

 引き換えに使用者自身もまた視覚を失う。 

 眼球など抜け落ちて久しい俺の眼窩には、今それがはめられていた。


 ファンガス(に寄生された手下ども)迎撃のため更に手を焼くゲイズ。

 おおよそ計画通りに事が運んでいることに安堵する俺。

 ホルンとマン爺の波状攻撃に加えてファンガスの感染。

 すべて防ごうとするならMPの加速的消費は避けられず、甘んじて受けるにはどれも命取りになる威力だ。

 魔法による殴り勝ちか、ファンガスによる寄生か。

 この時点で二通りの勝ち筋が見えている。


「”マインドリーク”……グ、む」


 不安材料の一つが挙動の怪しいマン爺だ。

 聖女の登場で我に返ったみたいだけど、あれはタダの幸運でしかない。

 マン爺が暴走して無差別攻撃でも始めようものなら、ゲイズともども全滅しかねない。

 つまりマン爺が正気のうちにゲイズを倒し、ファンガスから逃げなければならない。


「ドコだドラウグルぅぅぅ!!」


 ゲイズの怒声とともに炎波が床一帯へ広がる。


(『マスター床から炎くるよ!』)


 前方のドクンちゃんが触手を器用に使ってジャンプ回避した。

 魔法の挙動は見えないので念話で共有してもらう。

 倣って俺もジャンプ回避。

 

(やっと気づかれたか。でも見られてなきゃどうってことないな)


 見えない敵に対する攻撃は大味にならざるを得ない。

 ならば避けるのも簡単だ。


 ”デーモンサイン”で消されたドラウグルは言うまでもなく囮だ。

 ”クリエイト・スケルトン”で作成したスケルトンを『幻惑の杖』でドラウグルに変化させ、マン爺が”分解”対策の”魔術障壁・改”をかける。

 最後に俺の鎧とアイスブランドを装備させ、ドクンちゃんを添えた本格的ダミーである。 


 本物の俺は裸一貫で『愚者の瞳』を装着して完全に姿を消していた。

 『愚者の瞳』は視力と引き換えに不可視となるアイテムで、まさにゲイズ特効アイテム。

 扱いが難しいけど、ちょくちょく使う練習をしていた。

 獣性の感覚と『生命探知』に加え、ドクンちゃんの念話で情報を補うことで、視覚なしでもなかなか動けるようなったわけだ。

 

 入室時は囮の真後ろに隠れて、交渉し、戦闘前にはゲイズの後ろへ移動して囮を操作していたのである。

 ゲイズが囮を倒してから、本体|《俺》の生存に気が付くまで遅かったのは僥倖だった。

 思った以上にこちらを舐めていたらしい。

 おかげでファンガスが到着する時間を十分に稼げたというものだ。


「やはリ『愚者の瞳』か! まとめて焼き払ってくレる!!」


 範囲攻撃の予備動作を見せたゲイズだが、すかさず飛んだ聖魔法が詠唱を遮る。

 続く”テレキネシス”がゲイズを殴りつける。


「グォ、ゥ」


(二人ともナイスフォロー)


 声に出さずにサムズアップ。

 たしかに『愚者の瞳』で視線や単体魔法は無力化できる。

 しかし広大な範囲攻撃で部屋ごと焼かれようものなら避けようがない。

 だからマン爺とホルン、ファンガスの三面攻撃を用意したのだ。

 ゲイズが範囲攻撃に移ろうものなら、すぐに止められるように。


(『計画通り、ねマスター!』)


(『油断するのは早いぞ』)


 勝ち誇るのは負けフラグなので厳禁。

 ちゃぶ台返しの最悪のシナリオを俺は想定している。


 すなわち、ゲイズの自爆。

 アンデッド相手に敗北を悟り、道連れとする最後の悪あがき。

 上級魔族の傲慢さを鑑みて実現性は低いと見ているが、追い込まれるほどに可能性が高まる。

 これを決意される前に勝たなくてはならない。

 マン爺の暴走と並ぶ、もう一つのタイムリミットと言えよう。


(とはいえトドメの一撃、どうしたもんか)


 自爆を決意させる前に倒すには、一撃で決定打を叩き込まねばならない。

 不可視化している俺は安全な反面、丸裸かつ素手だ。

 アイスブランドは『愚者の瞳』の効力を受けないから拾うわけにもいかない(透明人間の服が透けないのと同じ理屈)。


 当初の目論見だと、囮を動かしているうちにゲイズの弱点部位を見つける手はずだった。

 例えば頭頂部や背面だ。

 前世だと戦車は前面の装甲は厚いものの、背面は軽量化=弱点になっていると聞いたことがある。

 全身甲冑の関節部分を突くなんてのもお約束だった。


 しかしゲイズを観察しても眼球以外の弱点を見つけられなかった。

 球状の体はどこも均一に厚い鱗に覆われており、アイスブランドでも効果が薄い。

 その鱗の密度も高く、関節は無さそうだ。


(底面は見えないけど、どうせ厚いだろうな)


 かといって俺如きの魔法じゃ、熟練魔術師のゲイズにゃ通じない。

 最大の弱点と思われる主眼を物理攻撃するためには、正面から攻めるほかない。

 必殺技”フロストバイト”を撃ち込むには……。

 

 片目にはまる『愚者の瞳』を撫でて考える。

 そして数十秒後、すべての準備を整えた。

 これからの流れはホルンとマン爺には共有できていない。

 でも十分やれるはずだ。


「!?」


「フジミ!?」


 ゾンビのように歩くモンスターに紛れ、アイスブランドを拾い上げる。

 同時、『愚者の瞳』を引き抜いた。

 不可視が切れると同時、姿を現した俺に注目が集まる。


「さあ、終わりにしようや!」

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