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125話 死線

『分解』 


 対象物を瞬時に分解する恐るべき魔法。

 恐ろしいことに、ゲイズは相手を睨むだけでそれを放つ。

 例えば矢ならかわしようがあるが、視線ともなれば話が違う。

 ぶっちゃけ不可能だ。

 どれだけ反射神経が人間を超えていようが関係ない――ゲイズに姿を晒した時点で”詰み”なのである。

 綱渡りの情報交換は終わり、双方は同じ結論にたどり着いた。

 レイスを手中に収めた者だけが、脱出への手がかりへ至る。

 

 薄氷は割れた。

 俺が攻撃を始めるとき、ゲイズの攻撃はすでに到達している。


<<disintegration>>


 ゲイズは迷いなく”分解”の力を行使した。

 ドクンちゃんの脅しも通じなかった、というよりそれも踏まえた上での決断だろう。

 情報を引き出したドラウグルは用済みであり、喋るレイス(ドクンちゃん)さえ手に入ればどうとでもなる、といったところか。

 視線にあてられた俺は為す術なく崩れ行くのみ。

 ゲイズの表情はまるで揺らがない。

 そもそも勝負にならないのだから、勝利の喜びもない。

 奴にとっては、ただ作業的に一匹のモンスターを消しただけのこと。


「!?」


 しかし、陶器が割れたような音が無感動な勝利を覆した。

 ”分解”の視線を受けてなお、一片たりとも欠けることなく。

 

 俺は猛然と地を蹴り、矢のように進む。


(マン爺の魔術防壁・改(マジック・シールド)、バッチリ働いたな!)

 

 さすがの元大魔術師、マン爺の防御魔法は完璧だ。

 本来は魔法全般への抵抗力を高める”魔術障壁”を、ゲイズに対抗するためにアレンジしてくれたのだ。

 名付けて”魔術障壁・改”は、一度だけ”分解”の効果を無効にする。

 他のどんな魔法からも護ってはくれない。”分解”だけ、一回こっきりの使い捨て。

 

 けれど、機能を絞りに絞ったが故に詠唱速度と消費魔力はバツグンに軽やかだ。


 他の視線を防げないデメリットは……踏み倒せばいい。


 <<paralysis>>

――<<resist>>


<<charm>>

――<<resist>>


<<curse>>

――<<resist>>


 なぜなら俺は不死者だから。

 麻痺も呪殺も魅了も通用しない。

 暗闇にかかったところで『生命探知』で代用できる。


 狙うは”分解”と”即死”そして”解呪”を司る目玉。


 部屋の入口からマン爺が一瞬だけこっそり顔を出し、すぐ引っ込んだ。

 すると再び”魔術障壁・改”が俺を覆う。

 いい流れだ。 


 状態異常に強い俺を主軸にして、唯一の穴である”分解”はマン爺がピンポイントでカバーする。

 理想は二人がかりで攻撃したいけど、マン爺は俺ほど耐性が高くない。

 二人分の防御魔法を展開しつつゲイズ相手に立ち回るのは難しいだろう。


(本当なら、戦わせること自体させたくないんだけど)


 モンスター化した代償に、マン爺は本能――破壊衝動に吞まれかけている。

 力を使うほどにモンスターへ近づいていくのだ。

 人間性の喪失はゼノンすら恐れる事態であり、絶対に避けたい事態だ。


「速攻!」

 

 だからこそ、できる限り速やかに終わらせねばならない。

 ゲイズに肉薄する。


「小賢しイ……!」


 九つの目に睨まれる。

 気圧されるな。

 アンデッドが死を恐れるものか。


 入室直後の1回目、さっきの2回目で”分解”を司る目玉は特定できている。

 眼球など粘膜にすぎない。

 間合いに入ればアイスブランドの一太刀で破壊できるだろう。


「シュッ!」


「ヌルイ」


 少しばかりの焦りが失敗を引き寄せる。

 斬りつけたものの、安々と喰らってはくれない。

 叩きつけた刃は別の触腕に阻まれた。

 大蛇程度の太さなら両断できると踏んでいたが、思ったより厚い鱗だ。

 やはり先端――眼球を狙わなければダメージを与えられないか。

 

(『マスター、下!』)


 脳内にドクンちゃんの警告。

 いつの間に詠唱を終えたのか、俺とゲイズの足元に光る文様が浮かんでいる。

 ――魔法陣。

 

 半歩下がった直後、俺のいた床から火柱が噴き上がる。

 黒味がかった禍々しい炎が掴みかかるように伸びてきた。

 とっさに上半身を真後ろに折りたたんでからのバク転で回避。


「外せる関節は全部外さんと避けられねぇな……にしても炎使うのかよ」

 

 魔族化したモンスターが火に弱かったことから、親玉たるゲイズは火を嫌うものかと思っていた。

 ドラゴンの卵を積極的に排除しようとしていたし。

 けれど使えないわけじゃないらしい。

 しかしあの炎、単なる火属性じゃなかろう。


「うわ」


 ドクンちゃんの驚きとともに炎は形を変え、分裂し、蛇とも竜ともつかない姿をとる。

 ゲイズを取り囲む4匹の炎蛇が大口を開けた。

 リゼルヴァの炎とは違い、なんとなく邪悪さを感じる。


 ゲイズが使うくらいだからアンデッドが触れても安心……なわけないか。

 とぐろを巻く炎蛇は消えることなく絶賛俺を威嚇し続ける。

 厄介なことに場に残るタイプの魔法らしい。

 

 ゲイズは機動性に乏しく四肢こそもたないが、ああいう呪文があれば近接戦もなんなくこなせるだろう。

 状態異常に強くとも所詮はアンデッド。

 火を見せつけれたら足がすくむ――


「!?」


 などど悠長なことは言ってられるか。

 炎蛇の迎撃より早く隙間を縫い抜け、駆ける!


「不愉快ダ、消えロ」


 ゲイズの眼が瞬いた。


 ――パリィィン。

 高い音とともに”魔術障壁・改”が身代わりに弾けた。

 ”分解”を受けたのだ。


 一歩間違えば簡単に死ぬ状況下。

 それでも絶対にひくものか。

 たった二つの目で、俺は睨み続ける。

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