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124話 割れるべき薄氷

 ゼノンのアンデッド化を助け、代償に傀儡とした目玉の魔族ゲイズ。

 危険でありながら、アイテムボックスからの脱出について有力な知識を持つであろう重要人物だ。

 格上のゲイズを前に、億することなく進む俺。

 その覚悟が必殺の視線を躊躇させた……と思いたい。


(興味がなくもないようだけど……)


 睨んだままのゲイズから追撃が飛んでくることはない。

 酔狂なドラウグルにどう対応すべきか考えあぐねているのかもしれない。


 ”暗闇”状態――ブラインドだけは受けたものの、視覚なしでも立ちまわれるよう特殊な訓練を積んでいるから問題なし。

 しかし”分解”だけはどうしようもない。

 実態を持つすべての標的を砂状に分解する、高等破壊魔法。

 たとえ”即死の呪い”を防いだとて、分解による即死は避けられない……とんだオーバーキルだ。

 ”分解”の対策こそ作戦の肝。

 そして考えた末の対策(こたえ)がこれだ。


 歩みを止め、毅然とした態度で敵を見上げる。


「マスターに酷いことしたら、アタシなんにも喋らないからね」


 肩から頭へよじ登ったドクンちゃんが威勢を張った。

 ゼノンとマン爺、二人が口を揃えて言っていた。

 『ドクンちゃんは特異な存在でありゲイズが欲するはず』と。

 レイスの憑依体であり、他のレイスを吸収しているという点がまず重要。

 しかし、それ以上に特別なのはドクンちゃんが情報の出力(話すこと)が可能ということ。


「下等な被造物風情が……いイだろう、戯れに付き合ってやる」


 低音の中に金属が捻じれるような不快な声色。

 思った通り、喋るレイス(ドクンちゃん)を目の当たりにしてゲイズは初めて口を開いた。

 やはりレイスを収集していても直接情報を吸い出すような方法は見つけていなかったらしい。


 (アグレッシブ人質作戦、ひとまず成功だな)

 『上位魔族ほど他種族を侮る半面、探求心が強い』というのはマン爺から聞いた通り。

 ドラウグルごとき楽勝という自信、喋るレイス(ドクンちゃん)の希少性が取引への心理的ハードルを下げたのだろう。

 ゲイズから情報を引き出し、なおかつ俺の安全も確保するという一石二鳥、いや()()の妙案なのだ。


 銃口を突きつけられ、自らを人質とした取引はこうして始まった。

 

 ……


 …………


 ………………

 

「――そういうわけで魔王は綺麗さっぱり消し去られたぜ」

 

 俺の半身と一緒にな。

 まず仕掛け人の俺から情報を提示した。

 懐かしいかな、魔王の最期と勇者についてだ。

 ゲイズにとって勇者の勝利は予想がついていたようで、むしろ現在の勇者の乱心に興味をひかれたようだ。

 魔族にとって一番の脅威が自滅してくれるのは僥倖だろう。

 アイテムボックス脱出後の立ち回りについて、ゲイズは考えを巡らせていたようだ。


「マスターのおかげでアイテムボックス壊れたんだから、感謝しなさいよね」


「そういえば、そうだっけ」


 俺という異物のせいで勇者はアイテムボックスに入れることはできても、出すことが出来なくなってしまった。

 収納したアイテムの数だけ戦術が広がるアイテムボックスというスキルにおいて、出す機能が失われるというのは大きな損失だ。

 このあたり、魔族の皆さんは感謝してほしい。


「ソの程度か?」


 などど言いつつもゲイズは情報交換に応じた。

 こちらが伝えたのは愚者の瞳の在りか、レッドドラゴンの在りか、レイスたちの詳細、そしてアイテムボックスの考察について。

 ……もちろん嘘も込みで。


 愚者の瞳は見つけたけど未回収ということにしたし、レッドドラゴン(リゼルヴァ)のもとへ行きつく方法は『砂漠のあっちの方に扉があった』レベルに留めた(実際その程度しか分からないし)。

 一方でゲイズからはアイテムボックス内の大規模捜索成果、集めたレイスの総数と得られた情報、そしてアイテムボックスに関する考察を聞けた。

 ゲイズは同じく封印されたモンスターを魔族化(自身の分身を寄生させて操り人形と)してモンスターを捕獲し、更に魔族化させることでアイテムボックス内を調べていた。

 その勢いたるやコツコツ一部屋ずつ攻略していた俺たちがアホらしくなるほどで、すでに小部屋は数十、広いエリアは十以上掌握していた。


「で、外と繋がる『門』とか『魔剣』とかはなかったのか?」


「あれば脱出しテいる」


(たしかに)


 肝心な外界と繋がる門のようなものも、それを可能できるほど強力なアイテムも見つからなかったらしい。

 となれば残された手掛かりはアレだけってことになる。


「……でも手掛かりが一つだけあった。それこそ謎のレイスってわけだ」


 俺の言葉にゲイズは沈黙で返した。

 数々のエリアを制圧したゲイズは大量のレイスを所持している(保管場所は教えてくれなかった)が、レイス自身から情報を抽出する術をもたない。

 かたや俺の集めたレイスはずっと少ないが、会話を通した情報の入手が可能。

 ゲイズにとってドクンちゃんは重要な交渉材料であることを再認識した。


「アタシが思うに、この空間は――」

 

 取引の終盤、焦点はアイテムボックスの推察に移る。

 ここからは専門家にバトンタッチし、持論を展開して頂いた。

 ドクンちゃんとマン爺が導いた仮説は、驚くべきことにゲイズによって補完された。


「アイテムボックスは多様な空間が歪に繋がリあい構成されているが、全体を捉えたトき確かに魔法的な規則性が認めラれる。一方で構造物・地形の変化、並ビに被収納物の出現は必ずしも規則性はなく突発的または恣意的なもノだ」


 あかん、意味が分からん。

 規則性があるのないのどっち?


 一応神妙な面持ちで頷きつつ、ドクンちゃんへ念話で解説を求めた。

 そして無視された。

 どうやら考えるのに忙しいみたいだ。


 俺が理解できる範囲で話を拾ったところ、しばしばゲイズの捜索部隊は、それらを殲滅されるのにおあつらえ向きのモンスター、トラップの待ち伏せにあって消耗させられたらしい。

 勇者が収納したのだから強力なモンスターがいてもおかしくないが、それを差し引いても不自然な配置だったという。

 

 ようやく俺も、ゲイズが何を言いたいのか分かってきた。

 ドクンちゃんと俺は静かに目を合わせ頷いた。 


 ――つまり、


「アイテムボックスの中には、何者かの意思が介在している……?」


 無論、勇者ではない。

 あいつは今じゃアイテムボックスに収納することしかできない、いわば制限付きユーザーだ。

 介入者はオーナー、または管理者(アドミニストレーター)に相当する権限者か。

 

 その”何者か”へ繋がる鍵こそ、すべての空間を行き来するレイスたち。

 そして散らばった鍵の欠片は、今この場に集まった。


 ――手に入れるのは、勝者のみ。


 ゲイズの九つの目が、ゆっくり俺を見据えた。

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