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122話 気まずさと心強さと

 水浴びと焼肉でリフレッシュした俺たちは、いよいよゲイズ攻略の策を練る。

 しかし視線が攻撃手段という、無茶ぶりじみた強敵相手では俺の手札はあまりにも貧弱すぎた。

 手札が貧弱なら増やしに行けばいいじゃない。

 再び地形把握を兼ねて古城を彷徨い、ようやくお目当ての”手札”を見つけた。

 

「よもや聖女に叩き伏せられようとは、夢にも思わなんだ」


「その声、本当に大魔術師様なのですね」


 激闘の末、やっとの思いでファンガスに操られる魔獣を屈服させた。

 本来、勝ち目の薄い相手だ。

 が、ファンガスに支配されたことでバカになって――高度な魔法や戦術を使えなくなっていたおかげで、どうにか抑えることができた。


 ”浄化”の聖魔法を施してしばらく。

 立ち上がれないほどに打ちのめされたマンティコアが、ようやく人の言葉を取り戻した。

 ファンガスに蝕まれた挙句、俺たちにボコられた体は見るに堪えない。

 それを癒す聖女も、頭から爪先まで浮浪者のようにボロボロだ。


 勇者に敗れ、アイテムボックスに収納された二人。

 一人は魔族化され、一人は恋心を裏切られた。

 互いに変わり果てた姿に、気まずい沈黙が流れている。

 耐えきれない俺が割って入った。


「ま、まあ二人とも生きてはいるんだしさ、再会を喜んだら!? な?」


「……」


「……そうでしょうか」


 マン爺は黙り、聖女は懐疑的。

 しまった、失言したっぽい。

 誰かヘルプ!

 ホルンに助けを求めたが、迅速に目をそらされた。

 なんてこった。


(マスター、アタシに任せて)


(ドクンちゃんさん!?)


 全幅の信頼を置く使い魔へ目くばせすると、バチンとウィンクを返すではないか。

 心強いぜ、得意のマスコットキャラムーブで場を和ませてくれよ。


「そんな全てを失ったクソ惨めなアンタたちを拾ってくださった慈悲深いマスターが、恩返しするチャンスを与えてくれるそうよ。さ、マスター」


「外道かよ」


 場を和ませるどころか、二人の傷心に塩をねじ込んだ挙句、俺を血も涙もない人間扱いする地獄のようなパスをくれたドクンちゃん。

 自信満々の笑みに腹が立つが、ここで話を進めないと気まずい沈黙のままだ。


「ゲイズを倒すため、マン爺にも協力してほしい。ここから脱出するためには避けて通れない相手だ」


「目玉の大魔族に挑むなど、お主らしい酔狂よ。 ……ワシは構わんが、そちらのユニコーンは異論があるのではないかな?」


 マン爺の視線を追ってホルンを見ると、戦闘が終わったのに敵意剥きだして角を光らせている。

 案の定というべきか。

 やはり聖獣。悪そうなやつはだいたい友達になれない。


「その汚い口を今すぐ閉じろ、不敬にして不浄なる贋物よ」


「すまんマン爺、こいつ邪悪っぽいもの全般嫌いなもんで。根はいい子だから大目にみてやってくれ――ウォイ、手の平に穴!」


 なだめようとしたら角で穿ってきやがった。

 まん丸の穴が手の平に空いてしまったではないか。

 俺が手を再生している間、流れるようにドクンちゃんが自己紹介を始めた。


「アタシ、ドクンちゃん。見ての通りマスターの本体よ」


「それっぽい嘘つくのやめなさい」


 胸を張る心臓型モンスターに突っ込みをいれる。

 やたら硬いボスとセットで出てくる心臓型モンスターとかありがちだけども。

 元魔術師のマン爺が興味深そうにドクンちゃんを観察する。


「なるほど、話に聞いた通り妙なフレッシュミミックじゃ。”使い魔従属契約”が対象選択型術式であるにも関わらずこのような例外的個体が――」


「でもでも対象不適正時における遡及解決の法則によれば――」


 ドクンちゃんの魔法オタクぶりが発揮され、お二方で有意義すぎる意見交換を始めてしまう。

 理解できているはずの異世界語なのに何を言っているのかわからなくて狂いそうだ。

 話を戻すべく最後のメンバーを抱きかかえて持ってきた。


「そしてこちらがフュージョンミミックのフーちゃんです……おい聞けジジイ!」


「メ゛ェ」


「なんじゃっ!?」


 フーちゃんそっちのけで魔術トークに花を咲かせるお喋りマンティコア。

 いらついた俺が蓋を拳で叩くと、中から噴出した溶解液がマン爺の髭を焦がした。

 あと俺の爪先も。


「……というわけで、まずゲイズについて詳しく教えてくれ。次に、俺が考えた作戦について相談したい」


「いいじゃろう。しかしその前に一つだけ聞きたいことがある」


「なんだよ」


 ようやく始められると思ったのに出鼻をくじかれた。

 しかしマン爺の真剣な表情に態度を改める。


「ワシを撃ち落した鎧のモンスター、あれは何じゃ……いや、あれはゼノンではないか?」


 質問というよりは確認だった。

 考えてみれば勇者を教えていたマン爺が、同じく勇者を教えていたゼノンと面識があってもおかしくない。


「その通りだ。でもアイツは敵だよ、ゲイズの味方でもないけど」


「やはりか……死んだとは思っていなかったが、まさか本当に不死者になっておったとは」


 俺とマン爺は苦々しい顔を作る。

 生前(?)から剣聖は素行に問題があったのか?


「あの者が失踪する前、ワシのもとに訪れたのじゃよ。”不老不死になるにはどうすればよいか”とな」


「その願いを叶えたのがゲイズらしいぜ」


「では本当に、あの魔族は剣聖だったのですね……」


 聖女が絶句している。

 マン爺が認めるまで、聖女は頑としてゼノンがかつての英雄であると信じなかった。

 勇者の狂いっぷりに加え、剣聖まで人間を裏切っていたなんてショックなんだろう。

 外の世界でどれだけ人気があるんだアイツら。


「力ある者が力に狂う、代償なのかもしれん」


 ならば脱出のため力を求める俺も狂うのだろうか。

 ただ殺され封じられただけなのに。

 マン爺のつぶやきを聞かなかったことにして、俺は本題を切り出した。

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