11話 ここで装備していくかい?
スライムの次の部屋には宝箱が5個もあった。
しかもまたも敵の姿が見えない。
ゴーレムの爆風で頭だけになった俺は、ドクンちゃんとゴブスケ2号だけが頼りだ。
慎重に立ち回らなくてはならない……が。
宝箱の誘惑に勝てず開けまくった結果がこれだ。
=====
モンスター鑑定のスクロール 3個
フレイムスパイダーの毒液 10個
折れたアイアンソード(銘入り) 1個
いかがわしい粉 1個
=====
……最後の一箱はワケあって開いてない。
理由はのちほど。
これらは勇者が直々にアイテムボックスへ収納したアイテムたちだ。
やつの冒険劇を想像できてなかなか面白い。
なんだかイケナイブツも出てきたしな……くくく。
さて順に見ていこう。
一つめ、『モンスター鑑定のスクロール』。
これは割愛。
二つめ、『フレイムスパイダーのポーション』。
「<<体力を大きく回復する 同時に猛毒状態になる>>……コレどう使うのかしら」
「俺なら出会い頭の敵に投げつけるな。勇者ならどうせ即死させるから使わなそうだけど」
「にしてもため込みすぎよね、瓶10個って」
三つめ、『折れたアイアンソード』。
「やったあ折れてるけど剣だあ! 早く振り回したい!」
「マスターこれ何か彫ってあるよ……『旅立ちの約束と誓いをここに刻む』?」
「業物かな? 鑑定してみようぜ」
「<<決意の刻まれた剣 勇者の覚悟と同じく決して折れることはない>>……え?」
「折れとるやん!」
四つめ、『いかがわしい粉』。
「<<いかがわしい気分になる粉>>……これだから男ってやつはヤダヤダ」
「オイ勇者ぁー、おぉーーーーい!」
「マスター喜びすぎ」
「だってこれ……おい勇者ぁーー……ププッ」
上々の収穫だ。
ちなみにレアリティはぜんぶコモンだった。
どれも使い道がありそうでワクワクする。
さて、問題は最後の一箱だ。
ドクンちゃんが無防備にも開けようとしたそれを、俺は静止した。
宝箱の異常に気づいたからだ。
「よく見てみ、動いてるだろ」
「あっ、ほんとだ」
注意深く観察すると、宝箱がゆっくり上下しているのだ。
ちょうど呼吸をするかのように。
「お手本のようなミミックだろ?」
「わたし食べられちゃうところだったよー」
こちらが先に気づいて幸運だった。
距離をおいていざ鑑定。
<<Lv6 種族:魔法生物 種別:フュージョンミミック>>
予想通りミミックだ。
ゲームなどでは、宝箱に擬態し冒険者を襲う狡猾なモンスターだ。
が、『フュージョン』ミミックという字面は初めて見た。
モンスター好きとしてはどんな習性をもつのか非常に気になる。
「”モンスター鑑定のスクロール”使おう」
「オッケー」
ドクンちゃんの太い血管が伸びる。
触手状のそれは、ゴブスケに抱えられた俺の眼前へとスクロールをかざす。
読み上げると同時にスクロールが光り、やがて燃え尽きた。
スクロールは消耗品なのだ。
引き換えに鑑定結果がポップする。
<<フュージョンミミック:トレージャーミミックの亜種 主にダンジョンに生息する>>
<<強力な消化器官をもちアイテムを好んで食す 外敵には消化液を吐き身を守る>>
<<短時間に複数のアイテムを消化すると、一つのアイテムとして排泄することがある>>
おぉ、詳細だ。
どうやら危険度は低そうだな。
複数のアイテムを一つにするから『フュージョン』なのか。
ゲーム風に言うと武器合成屋さん、ってところか。
新しいアイテムを生み出す……くぅ、ゲーマー魂をくすぐるぜ。
「なんか食わせてみようぜ」
「でもアイテムそんなに持ってないよー」
手持ちのアイテムを確認する。
俺たちはゴブスケに袋を持たせ、役立ちそうなものを運ばせている。
手持ちのアイテムはというと……。
さっき開けた宝箱の4種類と、木彫りの女神像。
あとは革ひもとかゴミの類か……面白みに欠けるなぁ。
「あっ、これもあるよ」
ドクンちゃんが石を取り出した。
拳ほどもあるそれは、もちろんタダのデカい石じゃない。
<<ストーンゴーレムの欠片:アイテム レアリティ:コモン>>
<<わずかな魔力を帯びた石>>
ゴブスケに持たせる鈍器のつもりで取っておいたのだ。
ゴーレム部屋に同じものがたくさん転がっているから、一つなくなったところで問題ない。
「ひとつはこれとして、もう一つは……剣か」
『折れたアイアンソード』
ほとんど柄しか残っていないゴミだ。
彫りこまれた意味深な文言に反し、見事に折れており使いようがない。
勇者の元・愛用品と思われるが、ありがたく拝借しよう。
「お食べ」
ボーリングのようにそれらをミミックへと滑らせる。
ゴーレムの欠片と折れた剣。
アイテムの存在を察知したミミックは、そろそろと蓋を持ち上げた。
カニのようハサミが二本、箱の中身から伸び出てきた。
そして二つのアイテムを器用に挟んで収納した。
その後、蓋を閉じたミミックは再び呼吸するだけになる。
「なんかヤドカリみたいで可愛いな」
「そぉ? アタシのほうがカワイくない?」
なんとなく不機嫌なドクンちゃん。
マスコットキャラのポジション争いに危機感を覚えているのか?
待つことしばし。
「おっ」
やにわに激しく震えるミミック。
まるで爆発する前兆のようだ。
身構える俺たちをよそに蓋を大きく開け――
ゲップ。
盛大にお行儀が悪い。
同時に剣のような物を吐き出した。
ゴブスケに取りに行かせ早速鑑定する。
<<ストーンソード アイテム レアリティ:アンコモン>>
<<決意の刻まれた剣 帯びた魔力により敵を切断する>>
<<勇者の覚悟と同じく決して錆びることも折れることもない>>
「ちょっとパワーアップしてる?」
見た目は石の剣だ、折れてない。
刃はちゃんと切れそうな薄さをしている。
どうやら魔力によって切れ味を発揮しているようだ。
「マスターよかったね、念願の剣が手に入って」
「あぁ、欲を言えば鉄製のがよかったけど」
ついにマイソードが手に入った!
日本だと鉄製の剣は輸入できなかったからなぁ。
税関での苦い体験を思い出すよ……。
「じゃあミミックやっつけて、あたしの”欠片”もゲットしよ」
ドクンちゃんの一部である”欠片”は、フュージョンミミックにも憑依しているはずだ。
ミミックを倒して憑依を解除することで、記憶と力を失ったドクンチャンは完全体に少しづつ近づくの
である。
近づくのである、が。
「いや、今は見逃そう」
「なんで!?」
却下する俺。
愕然とするドクンちゃん。
「だってまだ楽し……利用価値ありそうだし。この先で詰まったとき、きっと打開策になる」
「ちぇっ」
しぶしぶといった様子だが分かってもらえたようだ。
当のフュージョンミミックはというと、寝息のような音を立てている。
ご飯を食べて眠くなったのかな?
これからどんなアイテムを作ってくれるか楽しみでワクワクするな……!
こうして3つ目の部屋は和やかに攻略されたのだった。