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114話 昇って墜ちて、また降りて


 空中戦をエンジョイしていた俺だけど、ゼノンに撃墜されました。

 畜生。

 ……なんで空中戦してたんだっけ?


「”シャドウブラスト”!」


「”マインドリーク”!」


 俺とマン爺、それぞれが放った魔法が命中した。

 物理攻撃はもちろん、ほとんどの魔法を無効化していた鎧騎士たちが容易く倒れる。


<<Lv47 リビングアーマー 種族:魔法構築物 種別:ゴーレム>>


 前のめりに倒れた一体の兜が外れて転がる。

 しかし兜の中に当然おさまっているはずの頭部はない。

”生ける鎧”――名前通り、肉体をもたず全身甲冑だけが自立して動く奇怪なモンスターなのだ。


「精神攻撃に激ヨワで助かったぜ」


 今の俺は両足が粉々なせいで立つことすらできない。

 マン爺の背中におぶさって、口から魔法を発射するだけの固定砲台だ。

 それにマン爺もマン爺で、俺よりか頑丈なものの、高所からの落下ダメージとゼノンの狙撃のせいで走ることが難しい。

 時折、どす黒いツバを吐くけど本当に大丈夫なんだろうか。


「飛ぶよりは楽なものじゃ」


「ならいいけど」


 颯爽と地下から飛び立ち、そのまま空へ舞い上がったはよかったが、まさかこのマンティコア……飛ぶのが致命的に苦手だとは思わんかった。

 本人曰く、まだ体の扱いに慣れていないかららしいけど……とんだポンコツモンスターじゃねえか。


 どさくさに紛れてゼノンらしき鎧に射抜かれた俺たちは、屋根をぶち破ってリビングアーマーひしめく一室に落下したのだ。

 全身ズタボロな状況で地下コロシアムみたいな面々と遭遇したら危うかっただろう。


「”マインドリーク”」


 マン爺がまた一体、近づいてきたリビングアーマーを倒した。

 ”ご自由にお持ちください”状態になった全身鎧……着てみたいけど仕掛けがあったらと思うと勇気が出ない。

 装着したとたん、鎧の内側から触手が生えてくるイカガワシイ罠がないとも限らんからな。


 ……にしても、こいつら最新バージョンのゼノンによく似ている。

 たぶんゼノンはこいつらを新たなボディにしたんだろう。


「精神?魔力?を攻撃する魔法ってイマイチ強さが分からなかったけど、覚えててよかったわ、”シャドウブラスト”」


 今度は俺が一体片づけた。

 宝箱内部から伸びるカニのような脚が、鎧の破片を挟んでは箱の中へしまっていく。

 ダンジョン内のアイテムを食べるモンスター、フュージョンミミックのフーちゃん。

 同じく高所から落ちたせいなのか、食べるペースが遅い気がする。


「手札を熟知しておくことは重要じゃぞ。スキルを覚えにくいモンスターなら尚のこと」


「なかなか試し撃ちするチャンスもなくてねー」


 ”シャドウブラスト”はいつだったか覚えた闇魔法だけど、使用頻度は少ない。

 闇魔法のダメージを与えつつ敵の魔力(MP)を削るというお得そうな呪文だ。

 

 魔力が削られると何が起こるか。

 魔力が枯渇した生物は体調を崩し、最終的には昏倒する。

 敵前で昏倒などしたらどうなるか論じるまでもない。

 生命力と別の側面から相手を無力化できるのは強そうに思えたけど、実際に”シャドウブラスト”で削れる魔力は微々たるものだった。


「だいたいのモンスターって魔力が尽きるころには、肉体的に虫の息だしブン殴ったほうが早いんだよね」


 俺の”シャドウブラスト”がしょぼいだけかもしれないが、普通に威力の高い魔法を撃つほうがコスパがいいと思う。

 昏倒を狙わずとも倒せればいいわけで。


「表面上の効き目では地味に見えるじゃろう、が撃たれる側はプレッシャーになるのじゃよ。迂闊に魔法を使いすぎては昏倒させられる、とな。魔法を操る相手ほど魔法の使用を躊躇させられたはずじゃ」


「なるほど、牽制ってことね」


 相手がMPを攻撃してきたら魔法を控えざるを得ない、と。

 相手が魔法偏重型なら効果的なのか……いや、そういう相手は魔力いっぱい持ってそうじゃないか?


「とにかく、こういった無生物は魔力即ち精神力に乏しい場合が多い。つまり格好の的というわけじゃな”マインドリーク”」


「で、その”マインドリーク”はどんな魔法なん?」


 体が再生するまでの時間潰しに鎧の山を築く俺たち。

 マン爺のありがたい魔法講義を受け、眠くなってきたころ。

 敵はすっかり片付いて、探索再開できるほどにボディも再生していた。

 ギリムの鎧を装着するか、リビングアーマーを着てみるか迷ったけど、やっぱり冒険はやめておく。

 一方でフーちゃんはガツガツ鎧を飲み込んでいる……合成結果が楽しみだ。

 鎧しか出ない気がするけど。


「む、この部屋は行き止まりじゃったか」


 壁を見渡したマン爺が意外そうにつぶやいた。

 そうなのだ。

 大量のリビングアーマーを詰め込んでおきながら、この部屋にはお宝も何もない。

 ただ一つ扉があるだけで、つまりはリビングアーマーを格納するだけの倉庫ってことになる。


「まあ、そういうこともあるだろ」


 さっさと部屋を出ようぜ、と言いかけて気がついた。


「メ」


 フーちゃんが壁の一部をつついているではないか。

 あからさまに”ココに何かあるぜ”と言いたげに。

 疑惑の壁の前に立ち、『生命探知』をアクティブにしてフル観察。

 ……敵の気配はない。


「ェイシャ、オラァ!」


「なんと」


 一息に蹴りを入れれば呆気なく石壁の一部が崩れ去る。

 ぽっかり開いた穴の先には地下へ続く階段があった。

 やらかしてから思ったけど、もうちょい慎重に蹴るべきだったわ。

 こんな感じで下水道に滑り落とされたもんね。


「俺の完全記憶能力によれば、ちょうどこの部屋は怪しい地下室の上方に位置していた気がするぜ」


「さすが転生者じゃな」


「……お、おぅ」

 

 嘘です、一昨日の晩御飯も思い出せないレベルのアホです。

 ドクンちゃんなら突っ込んでくれるんだろうけど、マン爺はあっさり信じてくれたようで気まずい。

 転生者に夢見すぎじゃないですかね?

 あと根が良い人なんだろうね。


 さて、隠し通路の先に何があるにせよ、隠されているということは即ち価値があるということ。

 ひょっとしたら伝説の剣的なご都合的切り札が手に入るやもしれん。


「剣で思い出したけど、魔剣って知ってる? マン爺」


 雑談できる程度には長い下り道だった。

 フーちゃんをマン爺の背中に乗せ、俺を先頭にして進んでいく。

 降りていくうちに緩やかな螺旋を描く階段へ至る。

 随所の壁に設けられた松明が煌々と階下までを照らしていた。

 足元が安全なのは結構だけれども、夜目が利くアンデッドにとってはお節介でしかない。

 火は嫌いなんだよ。


「魔族の始祖が振るったという、次元を切り裂く武器と言われておるアレか……”マインドリーク”」


 下から登ってきたリビングアーマーを一蹴。

 バラバラになった鎧が甲高い音を立てて底へと転がり落ちていく。


「まだいるのかよ。リビングアーマー工場でもあんのかね」


「精神魔法への耐性を除けば優れた兵士じゃからの、あながち無いとも言えん」


 と言いつつも楽勝で階段を下っていく俺たち。

 だって登ってくるのが丸見えなんだもの。


「で話の続きだけど、その魔剣がアイテムボックスにあればいいなって思ってるんだけど知らない?」


 勇者と親交があったのなら彼の武勇にも詳しかろう。

 魔王を倒したくらいだから、ついでに奪ってるんじゃないの魔剣。


「残念ながら聞かん話じゃ。むしろ魔剣については魔族のほうが探し求めていると聞く……あるいは、一部の魔族によって秘匿されているとも」


 都合よくはいかなかったか。ますますゲイズからの情報が重要になるな。

 それはそれとして。


「秘匿? なんで? 仲良く使って人間滅ぼせばいいじゃん」


「一枚岩でないのは魔族も同じということじゃな」


「やだねー、大人ってやつは」


 肩をすくめた。

 異世界に来ても、種族が違っても、そういう面倒事はお決まりらしい。

 願わくば関わり合いにならずに気ままに暮らしたいものである。


 ついに1レベル上がったころ、俺たちはようやく下層にたどり着いた。

 道中、倒しまくってきたリビングアーマーたちの残骸が散乱している。

 マン爺から飛び降りたフーちゃんが一心不乱にそれらを(ついば)みはじめた。

 下水道と同じくらい、ひょっとしたらもっと深くまで潜ったかもしれない。

 にも関わらず、大量の松明で照らされているせいで無駄に明るい。暑いし。

 明らかに過剰な光源だと思う。


(もしやゲイズは夜目が利かないのでは?)


「また扉だ。しかも超ゴツい」


 3メートルはありそうな分厚い金属の扉が行く手を阻んでいた。

 不気味な装飾が鈍く光を反射し、威圧感を与えた。

 太陽から幾匹もの蛇だか竜が伸びているような意匠が実に見事だ。


「蛇の象られた扉……前にも見たような」


「おそらくゲイズの趣味じゃろう」


「あっ!」


 そうか、思い出した。

 『愚者の瞳』が祭られていたダンジョンだ。

 たしかコレに似た扉の隙間からレバーを引いてダンジョン逆走を決めたんだった。

 あの頃からゲイズと関わりがあったのねぇ。

 

 しみじみしつつ扉を眺める。

 本当に見事な造形だ。


「なんだか文化遺産みたいな――」


「待て!」


 指で触れる直前、マン爺が鋭い声とともに何かを投げつけてきた。

 リビングアーマーの兜だ。

 さすがに当たる俺じゃない。


「どういうつも……えっ、なに、どした?」


 人様にモノを投げつけておきながら、一切謝らないマン爺。

 なぜか緊迫した面持ちで一点を注視している。

 俺の後ろを見ている?

 なんだこいつ、と思いつつようやく違和感を覚えた。


 ……さっきの兜、どこ行った?

 扉にぶつかった音も、そのあと落ちた音もしてなくないか。


「おいなんか喋れよ……」


 恐る恐る振り返った俺の足元には、溶けてどろどろになった金属塊だけがあった。

 熱されたチーズのように半分とろけた兜。

 その原因こそ、さっきまで俺が触れようとした扉に違いない。

 扉に接触した兜は、音もなく溶かされ、落下したのだ。


「かように強烈な防護をかけられた扉、何を封じているのやら」


「うへぇ……」


 うかつに触れていたらどうなっていたことか。

 この扉こそが強力な武器なんじゃないかと、背筋が凍る俺であった。

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