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111話 モンスターコロシアム

 パーティーから分断された俺とフーちゃん。

 迷い込んだ地下水道で見つけた広大なドーム。

 次々と入場する獰猛な怪物たち。

 そう、まさしくここはモンスターにとっての闘技場だったのだ。


 モンスターは俺含めて五体。(ここぞとばかりに箱になりきっているフーちゃんは除く)

 全員が敵同士。

 言葉が通じる通じない以前に、殺し合いがしたくてたまらない奴らの集まりだ。

 

 パーティーから離れた俺は、一匹のアンデッドとして存分に暴力に酔いしれていた。


「”ブラインド”!」


「ウグォ!?」


 視界を奪い、たるんだ腹にアイスブランドの一撃を撃ち込む。

 肉を裂く感触が途中から変わるのは、剣の魔力によって傷口が凍結したからだ。

 出血を止めてしまうデメリットはあるが、こいつ相手なら逆に有効に働くみたいだ。

 普通の切り傷と違い、魔力で凍った傷は自然治癒を妨げる。


 エントリーナンバー1、ケイブトロール。

 身長2メートルいかないくらいの人型に近いモンスター。

 豚面オークの鼻を削いで耳と口をデカくしたような凶悪な顔だ。

 相撲レスラーばりの体格から繰り出されるパワーは脅威だが、真の特徴は再生力。

 物理ダメージによる傷は瞬く間にふさがってしまうのだ。

 しかも普通のトロールよりも賢いようで、たまに土属性っぽい魔法を使いやがる。

 こいつを倒すには魔法を活用するしかない。

 豪快なパンチを俺は冷静にかわした。


「オオオオォォォ!」


「……!」


 ケイブトロールの拳を真っ向から受けたのはエントリーナンバー2、フレッシュゴーレム。

 大柄なトロールより頭二つ分高い。つまり参加者の中で一番デカイこいつも人型モンスターだ。

 デカイ、太い、重いに加えて強烈に臭いのが特徴。

 俺は平気だけど、嗅覚もちの生物は近づくだけで鼻か頭がぶっ壊れかねない。

 激臭の原因は死体をごちゃごちゃに寄せ集め、継ぎ合わせた醜悪極まりないボディによる。

 ”材料”は色々なようで、背中にゴブリンが埋まってたり、膝にスコーピアンがいたりする。

 一応、ざっくり人間を模してはいるけど目も鼻も口も耳もない。だから喋らない。


 殴ったトロールの手が爛れていることから分かるように、腐った肉は毒だか酸だかを含んでいるみたいだ。

 トロルよりは攻撃が通りそうだけど、手痛いしっぺ返しを喰らうことになるイヤらしい相手だ。

 ちなみに全身死体ってことでアンデッドぽいビジュアルだけど、

 あくまで肉製(フレッシュな)魔法構築物(ゴーレム)のよう。


「ガァァァッ!」


「あぶねっ!」


「ウグォォォ!」


「!」


 薙ぎ払う炎。

 身軽な俺は間一髪逃れたが、殴りあってたトロールとゴーレムはもろに火傷を負っている。

 離れたところから焼き払ってきたのは、エントリーナンバー3、キメラ。

 ヤギと鶏の頭がライオンの頭部に並んでいたり、尻尾が蛇だったり、蝙蝠みたいな羽が生えている四足のモンスターだ。

 合成されている点でフレッシュゴーレムと似ているけど、こっちは別に腐ってない。

 どうやら魔法が得意なようで、炎やら風やらをバシバシ飛ばしてきて鬱陶しい。

 あるいは激臭に近寄りたくないだけかも。


「ギャォン!」


 いい気になっていたキメラの背中に、ナイフ状の鱗が降り注ぐ。

 キメラを上空から狙うエントリーナンバー4、廉価版ドラゴンことレッサー・ワイバーンの仕業だ。

 ワイバーンとは、かの有名なドラゴンに似ているモンスターでドラゴンの進化前ポジションに据えられることも多い。

 実際、リザードマンの進化ツリーにあったようだし。

 

 前世ではこいつら(の親戚とか)をハンティングするゲームに熱中していたものだ、懐かしい。

 そんなワイバーンの頭に”レッサー”がついた彼は、天井すれすれを優雅に舞っている。

 地上で争う俺たちへ短剣のような鱗を投下してみたり、急降下して鉤爪でちょっかいかけてみたり。

 

 ……察するに、特筆すべき武器は持たないらしい。

 レッサーだからね。しょせんはドラゴンの進化前の劣化版よ。


「メ」


 全力で存在感を消して部屋の隅に避難しているフーちゃんも同感らしい。

 レッサーなワイバーンなぞ、所詮は安全地帯をうろちょろするしか能のないビビりよ。

 今だって、ちんたら稲妻を纏ってバチバチ小爆発しながら彗星のように落ちてくーー


(なんだありゃ、死ぬなコレ)


 突っ込みを入れる前に直感し、獣性を解放する。

 エントリーナンバー5、氷を操る中堅アンデッド=ドラウグル()は緊急事態だから割愛するけど頭がいい。

 頭がいいのでレッサー・ワイバーンの異常事態にいち早く気がついた。


 急降下してくるアレは、もはやワイバーンの形をしていない。

 巨大な閃光花火とでも言おうか。

 膨大なエネルギーの塊が隕石のように迫る。

 とてつもない威力だと肌で分かる。

 躊躇なくアイスブランドを捨て、目の前の腐った背中を全力で駆け上がる。


「よっ!」


 そしてデカい後頭部を踏み台に大ジャンプ。

 空中に逃れた俺は、防御姿勢をとりつつワイバーンと思しき光源を注視。


 軌道からしてキメラ狙いのようだ。

 不意打ちに気づいた地上組3匹だが、もはや回避は間に合うまい。

 炎で迎え撃つつもりなのか、身構えているキメラだが……分が悪いように思える。


「グォ」


「?」


 トロールとゴーレムが間の抜けた顔で宙を見上げた。


 ――直後、コロシアムど真ん中に着弾する謎の発光体。

 目もくらむ閃光と衝撃、遅れて爆ぜるような音が走った。

 頭蓋の中がぐわんぐわんと揺れたせいで、平衡感覚を失い、俺は姿勢制御を失敗した。


「ぐへ」


 人間なら確実にマズイであろう、首から着地を決める俺。

 外れた首を直し、煙に霞む周囲を見渡す。


 衝撃は一瞬で、地下の薄闇と静寂はすでに戻っていた。

 しかし異臭が鼻をつく。

 腐臭じゃなく、肉が焦げた匂いだ。


「ガ、グ」


 誰のものとも分からない呻きが聞こえる。

 ゴーレム、トロールも膝をついてダウンしていた。

 二匹とも火傷を全身に負って白煙を上げている。

 傷の深さからして、俺の華奢骨ボディじゃ耐えきれたか怪しいものだ。


 元気なのは空中にいた俺だけか?

 やはり濡れた地形が稲妻っぽい魔法の被害を広げたんだろう。直感的に飛んだのは正解だった。

 フーちゃんは相変わらず隅のほうで置物と化している……無事かな。


「死ぬかと思った……レッサーワイバーンの命がけの特攻、じゃないよな」


 爆心地の中央には真っ黒に焦げた塊が二つ見える。

 シルエットからしてレッサー・ワイバーンとキメラの死体だろう。

 その焼死体を押さえつけ、かじり喰らうモンスターがいる。

 猛獣の四肢に翼を生やした姿形は、キメラによく似ていた。

 キメラっぽいモンスターは、夢中で焦げ肉を喰っているせいか、

 それとも初っ端の大技で全員仕留めたと思っているのか、

 辺りをまるで警戒していない。


 傲慢な新手から目を離さず、そして注意を惹かないよう、俺は慎重にアイスブランドを回収する。 


 ――カチャリ

 剣を持ち上げた金属音に、そいつはピタリと食事を止め、ゆっくり顔を上げる。

 こちらを向いた獣の頭部。

 そこには老人の顔面が醜く笑っていた。


<<Lv.86 智を織る指ヨェム 種族:魔族 種別:マンティコア>>

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