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108話 空から来るモノ

<<愚者の瞳:アイテム レアリティ:レジェンド>>


<<視力と引き換えに不可視を得る>>


 視覚と引き換えに不可視の体になる、クセの強いアイテムだ。

 しかしゲイズの邪眼が「目でとらえる」ことを発動条件とするのなら、これ以上のメタアイテムはあるまい。


 強敵ゲイズへの特攻アイテムが手の内にあったという衝撃の事実からしばし。俺たちはついに砂漠エリアに別れを告げていた。

 森から砂漠へ入ったときと同じように、唐突に砂丘が消えて風景が一変した。


 雲に覆われた灰色の空と針葉樹の林。

 整然と敷かれた石畳、そびえる高い壁と堅牢な跳ね橋が一つ。そして奥にそびえるは――


「古城……!」


 かつてなく体が震える。

 恐ろしさと興味あるいは忌避感と好奇心。


「カタカタカタカタ」


「フジミ君、アゴ」


「おっと失礼。武者震いが」


 下あごを抑えるものの震えが止まらない。

 この奥に邪眼の魔族――ゲイズが待つのだ。


「ところで根城と居城って何が違うんだろ」


「急にどーでもいーこと言うよねマスター」


 空気を読まない呟き。ドクンちゃんに呆れられてしまった。

 続くホルンまでため息をつく。


「どちらに”(しろ)”同じことだろう」


「ホルン、今うまいこと言ったな? 国語の先生かテメェはよぉ」


 角が戻って機嫌がいいのかもしれない。

 さておき扉をくぐり、石畳を踏み、次なるステージに近づいていく。

 巨大建造物の圧倒的な存在感は、まるで城主の実力を表しているかのようだ。


「本当に入るのー?」


 そびえる城を同じように見上げながらドクンちゃんが問いかけてきた。どうやら不安でいっぱいと見える。

 そんな使い魔に俺は鼻の下をこすりつつ笑い飛ばしてみせた。


「最強アンデッドたるフジミタツアキ、俺様の雄姿を手とり足取り目玉に刻ませてくれるわ!」


「絶対本人に聞こえるところじゃイキらないよねマスターって」


「ゲイズとやらに手足はないらしいぞ」


 ハハハ、こいつは一本取られた。 

 無駄話を挟めば緊張も少しは和らぐというもの。

 しかし、どうやらお喋りがすぎたみたいだ。


「む、騒ぎを聞きつけて何か飛んできたぞ」


 たしかに遠くからバサバサと羽音がする。目を凝らせば棟に設置された彫刻が動き出し、次々と空へ繰り出していた。


「しかも、たくさんいるよ」


「あれはガーゴイルだね」


「ほほぉ、かの有名なガーゴイル!」


 視力全開で標的を補足。たしかに翼を持つ人型が槍を携えているではないか!

 久しぶりに知っているモンスターと出会えたことにテンションが上がってしまう。


「『動く像』タイプのモンスターは色々いるけど、ゴーレムと並んで定番なのがガーゴイルだ。凶悪な猿っぽい動物に翼が生えるっていう、古典的な悪魔をモチーフにした石像のモンスターだけど……ややこしいな。ヨーロッパ辺りのナンタラ様式の建築物には組み込まれていたりしたんだとか。たしか雨を伝わせて流す役割だったかな? ある意味、実在するモンスターとも言える……って悪魔の姿してようが結局のところ石像だよなハハハ」


「なんか急に喋りだしたよキモッ」


 おっと心の声がお漏らししちゃってたらしい。

 最近殺伐ムード続きだったから嬉しかったんよ。にしても使い魔のくせに辛辣すぎないかいドクンちゃんや。


「コホン、つまりは飛べる石像(ストーンゴーレム)にすぎないってことよ。カッチカチなだけでな」


 俺の評価にゼノンも同意した。


「ストーンゴーレムと違うのは、空から焼き殺そうとしてくるくらいのものさハハハ」


「ハハ……えっ、焼きえっ?」


 半笑いで見上げる先。

 空の所々で光が灯る。間もなく火球となったそれらは、速度を増しながら俺たちに降り注ぐのであった。

 地面ではじけた火の粉が舞う。


「熱ッッ!? ハイ撤退! 砂漠に帰るぞ砂漠大好き!……って出口どこいった!?」


 光速で『撤退』の文字をマイ・ディクショナリーから導いた俺。

 しかし悲しいかな、砂漠につながる出入口は忽然と消えていた。森林エリアから入ったときと同じ現象だ、と気づくがもう遅い。


「だから熱ッッッ!」


 頭頂部を炙りつつ炎が近くに着弾。なけなしの毛髪が全て天パになってしまった。


「マスター、このままだと囲まれちゃうよ!」


 退路はない。ならば――


「撤退だとぉ? 怖気づいてんじゃねぇ! 男なら前進あるのみだろうが! 突撃ィ!」


 明らかに罠であろう。

 俺たちを迎えるように降りたままの跳ね橋、その先の城内へと全力でひた走る!


「撤退の次は突撃……コヤツは何度手の平をかえすのだ」


「うるせえ、臨機応変に課題に対応できるって言え!」


 当然のように乗せてくれないホルンと並走しながら、檄を飛ばす。

 飛んでくる火球を右へ左へ、時にジャンプも交えて躱しつつ前へ前へ。

 やってることはアクションゲームで楽し気なヤツだが、実際は火球に一発でも当たれば致命傷の鬼畜面である。

 

「アチチ! 強火で焼いちゃヤダー!」


 ドクンちゃんがダメージを負うと何故だか香ばしい匂いがして気が散る。

 焼き鳥でいえばハツだからな……。


「マジックプロテクション!」

 

 ホルンの嘶き。

 するとドクンちゃんとホルンが仄かに光る膜に覆われた。

 舞い上がる炎は、まるで膜に触れるのを嫌がるかのようにくねり二人を傷つけない。


「おいホルンなんだそれズルいぞ、俺にもかけろや!」


 見るからに対魔法の防御魔法じゃないか。

 こいつ聖属性魔法以外にも使えたのかよ。


「悪いが、この魔法は二人乗りだ」


「嘘つけー!」


 どういう意味だよ、底意地の悪い坊ちゃんみたいな断られ方されたわ。


「うおおおおお!」


 前後左右で炸裂する炎にじわじわHPを削られ――


「あっっぶね!」


 振り下ろされるガーゴイルの槍をかわし――


「ごらんフジミ君。あのガーゴイルだけ、えげつない程メス型だよ。製作者の趣味かな」


 ――デュラハンの茶々に付き合わず。

 ハリウッド映画さながらに爆発を背負い、ようやく入り口が迫ってきたところで――


「!? うおっ」「きゃあ」「くっ」「むむ」

 横殴りの衝撃。ガーゴイルの仕業じゃない。

 もっと大規模な、地震を思い出す感覚だ。


 全員たまらず態勢を崩す。

 跳ね橋から堀へ転がり落ちなかったのは幸運だとか考える前に



 ゴオオオオオオオォォォ



 豪風、いや爆風と爆音が骨を震わせる。


(なんだこれなんだこれ!?)


 前世で一度だけ体験した記録的災害を思い出させる。

 洪水、地震、地滑り……ともかく災害級の危機を直感した。


 見渡せば空の向こう、林の上空に異様な雲が出現していた……さっきまでは確実になかったものだ。

 爆風にのって枝やら石が飛んでくる。

 ビシビシと顔面に当たるそれらに構わず観察する。


 気球のように丸い、白い巨大雲。

 正確な大きさはわからないが、発せられた衝撃波からしてかなりの規模だ。

 案の定、飛び回っていたガーゴイルたちは全て墜落してしまった。しかも落ちた衝撃で再起不能になっている。

 振動のせいか、城の一部も少し損壊が見られた。


「爆弾、か?」


「びっくりして心臓止まるかと思ったあ」


 ドクンちゃんギャグに同意する。

 死ぬかと思った。


「ゲイズの攻撃だろうか」


「こんな大規模破壊魔法、家の近所で使うバカはいないよ」


 そりゃそうだ。にじむ白雲をみんなで眺める。

 正体不明の大爆発、不気味だけど助かったから結果オーライとしておく、か?

 とりあえず第二波はなさそうな気配だ。


「ねぇマスター、なんか聞こえない?」


「またぁ?」


 気を取り直したそばからドクンちゃんが不吉なことを言う。

 耳をそばだてるが、爆音の余韻が聴覚を邪魔する。どうせ新手のガーゴイルだろう。


「…ァ……ァァァ……――!」


(鳥か?)


 不快な金切り声。

 遠くから届く高音が近づいて来る。

 雲のほうへ目を凝らすが、特に鳥っぽい影は見当たらない。

 まあ鳥とは限らないか。甲高い声で鳴く動物なんていっぱいいるし。


 極論、人間だって――


「マスター、空から女の子が!」


「嘘だろ!?」


 声の主はもっと上のほう、ほとんど俺たちの真上から迫ってきていた。

 青い空に一点、はためく白と金の布。

 さらに視覚を研ぎ澄ませば、白い服を着た金髪の人型だとわかる。甲高い音は彼女の悲鳴だったのだ。

 爆発に吹っ飛ばされてやってきたと言わんばかりの、すさまじい勢いで落下してくるではないか。


「フジミくん、受け止めないと。一世一代のアレだよ」


「たしかに千載一遇だけどさぁ、ありゃ無理じゃねぇ?」


 ゼノンにそそのかされようが俺は乗り気じゃなかった。

 ヒロインは空から降ってくる、とはよく言ったものだが受け止められる速度には限度がある。


 イキって受け止めようとしたところで二人とも……人間側は100パー死ぬだろうな。

 謎のヒロインには悪いが『九死に一生』とはいきそうにない。


「みなさん姿勢を低くして頭を庇いましょう」


「わあマスター冷酷ぅ」


 リアリストと言ってくれ。

 いそいそと俺の体内に避難するドクンちゃん。

 対称に、ホルンは激突間近の彼女を見据えていた。

 まるで挑むかのように。


「……おいホルンまさか」


「乙女の守護者たるユニコーンの生き様、所詮アンデッドには理解できぬか」


 どうやら彼女を受け止めるつもりらしい。

 女好きもここまで行くと天晴れだ。


「カッケェけど死ぬぞ今までありがとな骨は森に撒くね」


「マスター冷徹ぅ」


 人の生き様にケチをつける時間はないので好きにさせておく。

 ひょっとしたら奇跡が起きるかもしれないしね。


「きゃあああああああ」


 絶叫が鮮明に聞こえる距離になった。

 恐怖と風圧でぐちゃぐちゃに歪む顔もよく見える。

 かわいそうに、やはり若い人間の女性だ。

 

 一同ホルンから距離をとって結末を見届ける。

 俺はおもむろに『木彫りの女神像(毒)』とスコーピアンクィーンの体液(瓶詰)をスタンバイする。

 着弾まであと数秒。隕石と化した少女が突っ込んでくる。

 来るぞ、と息をのんだそのときホルンが呟いた。


「フジミ、皆の手前ああ言ったが実は爆発で腰が抜けて立てな――」


「きゃああああああああ」


 パアァァァァァァァン


 破裂するような、なんとも形容しがたい嫌な音が響く。

 しかし奇跡は成就していた。


 まるで磔刑に処された聖人のように、少女は五体満足で一本角に縫い留められていたのだ。


「おお、おごごごごご」


 角が貫通した腹と、開いた口からどす黒い血を吐く少女。唇の端から泡を飛ばしてる。

 よかった元気そうだ。


「おぉ、奇跡起きたな!」


「どこがだい?」


「ホルンちゃん首縮んでる!大丈夫!?」


 返り血で顔面真っ赤のホルンは彫像(ガーゴイル)のように動かない。

 白目を向いて失神しているようだ。そして首が若干胴体にめり込んでしまっている。


 衝突の直前に弱音を吐いていた気がするけど、有言実行を成すとは……今回ばかりは負けたぜ。


「しゃーねー、ホルンに免じて助けてやるか」


「ぐっげえ、なんのこれぇ……! ガボッ、聖女にこんな仕打ち、絶対に許しませんわよゴボォォ」


 人間女が何か言ってる。

 血ヘド吐くわ、汚れた髪を振り乱すわ、わめくやら頑丈さからして一般人じゃないな。

 ていうかこの子怖いんですけど……。


「どこで見た顔だなあ」


 血の泡を飛ばす顔面を間近から見つつ、ゼノンが首を捻る。

 そんなに近寄ったら噛まれない?


「遊んでないでゼノンも手伝いなさいよ!」


「ぎゃああああああ!」


 ドクンちゃんが引っこ抜こうとするたび、少女は絶叫と血をまき散らす。

 さすがに元気過ぎない? 気絶してくれないかな……。

 女神像とスコーピアンクイーンの体液で、おっかなびっくり二人を回復させていった。


 面倒なヤツが増えたなぁと内心ぼやきつつ。

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