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105話 瞳を求めるもの

 <<Lv.43 種族:聖獣 種別:ユニコーン>>


 ホルンの復活により大勢が決した。

 ニヴがHPと引き換えに唱えた”クリエイト・ドラウグル”さえ聖獣の力の前には児戯でしかなかったのだ。


「”ディバイン・レイン”!」


「……オォ……ッ」


 まばゆい光の雨が降り注ぎ、ドラウグル化したジフトを溶かし去る。

 アンデッドがドロドロに崩れていく様は中々むごたらしい。


(俺と同等のモンスターが瞬殺されるのは、居たたまれないものがあるな)


 本領を発揮するホルン……頼もしさ半分、怖さ半分といったところか。


「おのれ、なぜ聖獣がアンデッドに従う!?」


 頼みの綱を瞬殺され、憎々しげにホルンを睨む二ヴ。

 身を削りながら魔法を連発したことで、ヤツの命はそもそも長くはなかった。

 前衛であるジフトを2回倒した時点で勝負はついていたといえる。


「我が従うのは我自身と、麗しき女神と乙女のみ!」


(まあまあ多いな)

 

 誇らしげなホルンはさておき、俺は俺で猛攻をかける。

 やはりニヴは支援型のようで、接近戦じゃこちらに軍配が上がった。


 獣性なくして追い詰められるほどに相手は消耗しきっており、完全に戦闘力を奪うのは容易だった。

 最後には二本の腕と脚を何本か斬りおとされ、MPも枯渇し目つきも朦朧としている。


「これで勝ったつもりですか……かくなる上は……!」


 美しかったアルビノのスコーピアンは今や青い血と砂にまみれ、ボロ布のように変わり果てていた。


「ブラフが下手だぜ」


 ヤツにはもう、抵抗するだけの力はない。

 首筋に剣をあて、俺が告げると自嘲気味に笑い返してくる。


「魔族に下り、魂を売って、ようやく手に入れた力をもってしても、ドラウグルごときに敗れるとは……」


 ひび割れた唇から呻くような笑いが漏れた。


「……」


 俺には何も言えない。コイツらは俺がここに至るまでの波乱万丈を知るまい。

 同じように俺はスコーピアンが抱えてきた苦悩など、まるで知らないのだから。


「魔族の(しもべ)たるアンデッドが魔族に背くなど、フザケているのですか? 汚名をかぶり、蔑まれ、それでもなお存続のため誇りを捨て魔族の駒と成り下がった我ら一族を、コケにしているのですか!? おのれ! おのれおのれおのれおのれおのれ――」


 発狂。

 ……俺は静かに、怨嗟を断ち斬った。


 ……

 …………

 ………………

 

 激闘から数日。

 クロウラーもスコーピアンも、追手は誰もいなくなった。俺たちは粛々と砂漠を進む。

 ドクンちゃんがサソリ兄弟から奪った記憶通りなら、もうすぐ砂漠エリアを抜けられるはずだ。

 今になっても兄弟の……特にニヴの目が頭に焼き付いて離れない。

 色んな怒りや悲しみが交じり合った、複雑な感情だった。こんなにも後味の悪い勝利は初めてだ。


「おセンチなの、マスター?」


 クロウラーの巣を抜けて――サソリ兄弟に引導を渡してから、寡黙になった俺を心配しているのか。

 はたまた単純に暇なのかドクンちゃんが話しかけてきた。にしても『おセンチ』て。


「魔族に利用され、勇者には封印されで、あいつらも散々だったよなぁ……って思っただけだ」


「だから白いスコーピアンをスケルトン化しなかったのかい? 死してなお操られるのが哀れだから? 君って意外と武人気質なんだねぇ」


 ゼノンが感心しているけど、武人気質だとかそんなんじゃない。


「寝覚めが悪いだろ、あんな死に方したヤツ連れて歩いたら」


 二ヴが死に際に見せた、複雑な感情の目。あれだけ激しい感情をぶつけられたことが初めてで……言ってしまえば気圧されたのだ。

 死体を利用する気が起きないほど。


「それなー」


 雑に同意しつつドクンちゃんはサソリの脚にかじりつく。

 ホルンに担がれるフーちゃんも蓋の間から同じものを食していた。


 ……砂漠エリアで再認識した。俺が転生した異世界は思いのほか過酷で、並みいる悪者をバッサバッサとやっつけて美人のネーチャンとキャッキャウフフからの二人は幸せなキスをしてオシマイとはいかないようなのである。


「考えたところで、しゃーねーな」


 ドクンちゃんにならって弁当を頂くことにしよう。

 赤いスティックは一見してカニ足だが、まごうことなきスコーピアンの脚部である。運びやすいようにヘシ折ったピクニックサイズだ。


「この通り、まさしく喰うか喰われるかってことよな。うーん、淡白な味わい」


「アイツらの血でディップすればよかったねー」


「喰らうのは寝覚めが悪くないのか……?」


 草食聖獣のホルンは相変わらず不快そうだ。昨日の敵は今日の肉。誇りがどうの言ったところで自然の摂理は覆せないのだ。


「ゼノンも食えよ、ウマいぜ、パチモンのカニカマみたいで」


 前を歩くデュラハンにも勧める。

 先の戦いでは中立と言いつつホルンとドクンちゃんを守ってくれた。その働きに免じて分け前をくれてやろうというのだ。

 かように懐の深いアンデッドがいるだろうか……。


「いや僕は結構」


「なぬ」


 断りやがった。

 人が懐の深さを見せてやればコイツ……!


「なんでだよ、食べたそうに見てたじゃん」


「君ほど割り切れてなくてね」


 解せない。

 アンデッドたるもの血肉を食らうことは何にも勝る喜びのはず。

 ひょっとして偏食家?


「歳だし体型気にしてるんじゃない?」


「もはや骨と皮だっつーの」


「そもそも”カニカマ”とは何なのだ」


 いつもの賑やかさを取り戻した俺たちであった。

 たしかに境遇はヘンテコで過酷だけど、くだらない話ができる仲間に恵まれたのはラッキーだなとつくづく思う。



 ……さて、報酬の話をしよう。

 サソリ兄弟にはドクンちゃんの分身体が憑依していた。

 彼らを倒したことで分身体がもっていた記憶、すなわちサソリ兄弟のアイテムボックス内における活動記録をドクンちゃんは吸収した。

 そこから判明したことは大きく三つ。


 まず悪いニュース。


「ゲイズとかいうやつ、メチャツヨみたいよ。マスター、やめといたら?」


「マジでぇ? 最悪サインもらうだけにしとくかぁ……」


「心底、魔族をなめきってるよねフジミ君」


 失礼な。あの有名モンスターだぞ? 尊敬しているに決まってる。

 

 魔族ゲイズ。

 前世の知識で言うところの『xホルダー』と呼ばれるモンスターに酷似しているらしい。

 ざっくり姿を表現すると、巨大なイソギンチャクの幹が一つの眼球、細かく伸びる触手の先端に小さい眼球といった目玉づくしのグロモンスターだ。

 今までグレムリンだのなんだの『魔族化』されたモンスターからは黒い眼玉が生えていたが、どうやら主たるゲイズの象徴でもあったようだ。


「サソリ兄弟の記憶によれば、見せしめにミノタウロスが睨まれただけで爆死させられてるよ」


「ば、爆死?」


 前世の攻撃バリエーションにないぞ。


「ま、まあミノタウロスの爆殺なら俺もやってるし――」


「それも内側から」


「内側から!?」


 相手を爆発させる相手は死ぬ的な? ちょっとビビッ……及び腰になった俺だ。

 けれど残りは良いニュースばかりだ。

 どうやらゲイズは脱出する方法に心当たりがあるらしい。

 というのも『ゲイズの配下を増やすこと』が『脱出につながる』ようなことを度々口にしていたようなのだ。


 中でも気になる発言が……


「”レイスを集めよ”か……それってやっぱり」


「ドクン殿のことか?」


「まさかアタシ以外にアタシコレクターがいたなんて」


 大げさに肩を抱くドクンちゃん。

 たしかに彼女はアイテムボックス内におけるイレギュラーに思える。


(不具合で出られなくなった挙句、アイテムボックスを荒らし回る俺とは別のベクトルでな)


「たしかに、増やした配下にドクン殿の分身が憑依していれば上々。憑依していなくても、増やした配下で憑依されたモンスターを探せば良いと。敵ながら無駄がない」


 ホルンに同意。

 なかなかドクンちゃん集めが得意なやつだ。


「とはいえドクンちゃんに感づいてるのは意外だったな」


「普通のモンスターは憑依されてることすら気がつかないのに、デキルわね」


 ドクンちゃんの素――レイスは無色透明不定形の人畜無害モンスターだ。

 俺がドクンちゃんと出会えたのは偶然にすぎないのに……。


「さすが目ざとい、なんつって」


「ゲイズは特に魔法偏重型の魔族だ、空間魔法にも見識があるんだろう」


 小ボケをスルーされつつゼノンが補足しやがった。

 そして良いニュースはまだある。

 レイスと同時にゲイズが集めさせていたもの。それが『ドラゴン』と『瞳』。

 ゼノンが頷く。


「ドラゴンは全ての魔族にとって仇敵だ。率先して排除したいんだろう」


 ドラゴン? というと――


「リザードマンの村襲ってきたとき、ゼノンも『ドラゴンのカギ』が何とか言ってたよな」


「そうだったかな?」


 ちょくちょくシラ切るのなんなんコイツ。

 気になるのはもう一つのアイテムだ。


「『瞳』ってなにかなー、ドラゴンの目玉のこと?」


 ドクンちゃんの思案ポーズ。俺も額に指をあてて真似する。


「うーん、これは刑事の勘だけど何らかの隠語っぽいニュアンスを感じる」


「ケイジ……?」


 首を捻るホルンは置いておいて。

 竜の血が事実上の『竜の黒卵』だったように、生ものの目玉じゃなくて『瞳』的なアイテムがあるのかも。


「ドラゴン以外の、魔族を退ける力となれば聖なる品だろう」


 頭に『聖なる品』を生やすホルンが推測する。

 たしかにユニコーンの角はすさまじい聖属性アイテムだった。持っているだけで指が溶けたもんな。

 角をもう一回折ってゲイズにブッ刺せば倒せたりしないかしら……。


「おい、なんだその目はフジミ」


「いや別に」


 感づかれるところだった。危ない危ない……角を取り戻したホルンをキレさせるのはご法度だぜ。


「『瞳』か……噂程度なら聞いたことがあるよ。もしかしたら邪眼を持つモンスターへの特攻アイテムなのかもしれない」


 さすが解説力に定評のあるゼノン、有力な情報をどうも。

 ゲイズの最大の武器、見るだけで対象を殺す邪眼を無力化するアイテムか。

 たしかに実在するのならゲイズにとって迷惑極まりないだろうな。

 ……でもゲイズは実際アイテムボックスに収納されちゃってるんだよね。

 ひょっとして勇者は『瞳』を使ったのか?

 だからこそゲイズはアイテムボックスのどこかに『瞳』があると確信して捜索させていた?


「視線を跳ね返すと言えば鏡の盾とかかね? まあ何にせよ、持ってないんじゃ考えても――」


「ねえマスター」


 俺が思考を切り替えたところで、ドクンちゃんが呼びかけてきた。

 ホルンが背負うアイテム袋にいつの間にかもぐりこみ、何かを探していたようだ。


 そして細い手で掴む出したるは黒っぽい玉。


「コレってことないかな?」


 一同の注目を浴びる魔法の品物。

 それこそ……



<<愚者の瞳:アイテム レアリティ:レジェンド>>


<<視力と引き換えに不可視を得る>>



「……そ、それやーー!!」


 いつ拾ったっけコレ。

===

 愚者の瞳:41話

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