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102話 因縁の兄弟

 クロウラーダンジョン最奥部を制圧し、救出を企てていたはずのスコーピアンクイーンを色々あって殺っちゃった俺たち。

 クイーンの体液でホルンの角が治るという幸運もあったけど、完全にくっつくには時間がかかりそうだ。 

 明かり一つない地中の殺風景さに飽き飽きしているし、さっさと脱出してしまおう。

 今度は正々堂々、ゴールからスタートへ戻るのだ。


「こんな複雑な迷路、よく覚えられたよね」

「聖獣にとっては至極容易なこと……次の角を左」


 性獣めが。

 クイーン会いたさに俺を追ってきたホルン。

 驚くべきことに脳みそのシワのように複雑なダンジョンの入り口から最奥部まで道順を暗記したんだとか。


(エロの力を差し引いても俺より頭よくね……?)


「マスター歯ぎしりしてるの?」


「おっと失礼」


 さて帰り道ではクロウラーどもをバッサバッサと切り倒しつつ進んだわけだけど、出口に近づくにつれスコーピアンも見られるようになった。

 ちょくちょくクロウラーを引きつけてくれるので、ありがたく先を急がせてもらう。


「ここは任せて俺は先に行くぜ!」


「加勢は不要だな」


「クイーンの件がバレる前にずらからないとだもんね」


 どうやら俺が突入してからしてほどなく、スコーピアンたちが一斉に攻勢をかけたらしい。

 入口付近で戦い、負傷したクロウラーが奥へ逃げてきているようだ。

 遡ってきた俺たちと鉢合わせてしまったのは、彼らにとって不幸という他ない。

 俺としては戦闘が楽チンでありがたかったが。


(ゼノンがいるってのも大きいけどな)


 先陣を務める元剣聖ことデュラハンのゼノン。

 神官の死体を手に入れ、ついにただの生首じゃなくなりやがった。

 今のビジュアルは、生首入り兜を脇に抱えた首なし死体だ。

 パッと見、首がとれただけのゾンビに見える。が、片手で剣を振るうさま、強さは剣聖を体現していた。

 防具は金属製じゃなく、片手剣と同じく乳白色の有機的な全身鎧を身にまとっている。


「そう、武具になるのは金属だけじゃないのさ。こんな風にね……<<デュラハナイズ>>」


 スコーピアンの死骸にゼノンが手をかざす。

 すると死骸の甲殻が一部抉られたように消え、代わりにゼノンの腕部に張りついていた。


「こうやって自身を構築するスキルがデュラハンの特徴かな」


「へえ、素材のモンスターが強ければ強いほど性能がいいとかあんの?」


「原則的にはね」


 察するに、ゼノンの剣も同じように死体の骨から作られたんだろう。

 色々な生物から武具を作る、か……なかなか熱いな。


「次の広間を抜ければもうすぐ出口だ」


「ほんとだ! ちょっぴり明るくなってきたね!」


 このメンバーで唯一、夜目が利かないドクンちゃん。

 暗闇を抜けられるのは本当にうれしそうみたいだ。

 ……幻のメンバー、フュージョンミミックのフーちゃんは外をほっつき歩いているのだろう。

 

 ホルンの記憶通り、間もなく開けた場所に出た。広さにして教室一つ分くらいか。

 すみに植物やら何かの破片やらが散らばっているいるだけのすっきりした空間だ。

 使用用途はわからない。

 もっとも、気にすべきは何があるかじゃなく何がいるかであった。


「出たわね、サソリ兄弟」


 ドクンちゃんが言う通り、部屋の出口には二匹のスコーピアンが待ち構えていた。

 鎧と見まごうほどの厚い筋肉、柱のような戦斧を携えた個体――ジフト。

 対照的に病的に白く華奢な個体――二ヴだ。

 ちなみにどっちが兄で弟なんだろうか……どうでもいいか。


「まだ暗いのによくわかったねドクンちゃん」


「適当に言ってみたら当たったみたいね!」


 ……とはいえ、この状況で俺たちを待ち構える二人組といえば奴らしかいまい。

 すんなり帰らせてはくれないようだ。


「クイーンはどうした」


 大柄なほうが態度もデカく聞いてきた。

 こいつは初対面でいきなりホルンを殺そうとするわ、見下した態度とるわでイケ好かない。

 こちとらサソリ仲間を助けてやった恩人だぞ、内心気に入らなくても友好的に接する努力はしろよ。

 例えこの身が腐ろうともその辺のモラルは弁えたい俺である。


「マスターなんとか上手いこと言っ――」ドクンちゃんの小声をさえぎり剣を抜いた。


「クイーン? あんまり気色ワリィからブチ殺してやったぜ、お前らも同じところに送ってやるよ!」


「なんだと!?」


「貴様、その返り血、クイーンのものか……!」


 気色ばむサソリ兄弟。対してドクンちゃんは絶句。


「マスター!? なんで急に柄にもないこと……」


「いやドクン殿、それは違う。クイーンの死、遅かれ早かれ真実にスコーピアンたちは気づくだろう。ならば他のスコーピアンが戻ってくる前にそこな兄弟と戦っていまうのが得策ということだ」


 さすがホルン、ナイス解説。

 人外パーティきってのインテリというだけあるぜ。

 そういえばまだ角治らないの?……どうやらまだっぽいね。


「なるほど確かにそうかも! てっきりゼノンが復活したからイキってるだけかと思っちゃった。なんならマスターいなくても勝てちゃいそうだもんね」


 ……。さすが人外パーティーきっての策士ドクンちゃん。

 それ以上の解説は恥ずかしいからやめてくれ。


「なんだ、そういうことなら僕はおとなしくしていよう」


「いや戦えよ」


 クロウラー相手のゼノンは完全に手を抜いた戦いっぷりだった(それでも尋常じゃない実力を感じ取れたけど)。

 参考までにサソリ兄弟相手にどう立ち回るか、ゼノンの動きを見てみたい。


「じゃあ、今のままじゃ実力的にフェアじゃないから僕はこっちにつくとしよう」


 ……おい。

 言うや否やゼノンは一瞬にしてサソリ兄弟の隣へ移動する。


「なっ……!?」

 

 あまりの素早さと突飛さに一同は絶句。

 ”サソリ兄弟側に立つ”――その行為はゼノンが俺と敵対することを意味する。


「この恩知らず!」


 ドクンちゃんもお怒りだ。

 俺としては”またか”くらいの気持ちだった……がすでに激高している奴らがいた。


「ふざけるな!」


「人間風情が!」


 言うまでもなくサソリ兄弟だ。

 ジフトの斧とニヴの毒針が同時に閃く。

 奴らにとって”ゼノンが隣に立った”ということは俺とは逆の意味で神経を逆なでた。

 即ち、”兄弟の実力はドラウグル一匹にも劣る”……と(けな)されたわけだ。


 「残念、お呼びじゃないようだ」


 双方向から繰り出された攻撃をこともなげにかわすゼノン。

 注視していたにも関わらず身のこなしを捉えきれなかった。

 続く攻撃もよけながら悠々と距離をとったゼノンは壁に背を預ける。


「じゃ、僕は中立ということで手出ししないから。どうぞごゆっくり」


 そしてのんきに手を振った。

 

「わけのわからんやつだ」


「同意見」


 つくづく目的のわからないデュラハンである。

 俺を鍛えてやろう、という趣旨を感じてはいるけれど根底にある目的がいまいち見えない。

 そういえば何でホルンを援護してここまで導いたんだ? それも謎である。


「まあいい、ゲイズ様への背信……タダで済むと思うなよ」


 針よりも鋭いジフトの視線を受けてもゼノンは動じない。


「ハハ、脅すくらいなら僕の助太刀を素直に受ければよかったじゃないか」


(それもそうだよな)


 ゼノンは魔族――ゲイズに操られ配下として働いていた。

 リゼルヴァの炎により体を燃やされたことで束縛から解放されたものの、いまだ主人(ゲイズ)のもとに帰っていない。

 同じくゲイズに仕えるスコーピアンからしてみれば明らかな離反行為であり、処罰の対象なのだろう。


「あぁ、それに僕なら”タダで済む”からお気遣いなく。消息不明のデュラハンについて、君たちが主人に報告することはありえない。だって君たち兄弟は、このドラウグルに打ち負かされて惨めたらしく死ぬんだから」


 「勝手にあおるなって」


 案の定、安い挑発を受けて兄弟の殺気が一段増した。

 その目は俺を瞬殺し、次にゼノンを殺すと物語っている。

 二ヴが手振りとともに詠唱を始め、ジフトが戦斧を腰だめに構えた。


 ――カチリ。

 同時、空っぽのはずの脳内で響く音。

 組み合わさった歯車が外れるような、高く短い音だ。


「グルァァァl!」


 俺の口が勝手に吠えた。

 放たれた獣性は速やかに殺戮を始める。

 平常時の俺じゃ気づけない、高速の不意打ちもすで見切っていた。

 半身をねじり、地中から繰り出された戦斧をかわす。

 

 そして、お返しと言わんばかりにアイスブランドを砂の中――瞬時に潜っていたジフトへ突きこんだ。

 砂とは明らかに違う、肉を斬る手応えを感じた。


(構えたと思ったら一瞬で足元まで潜るとか……反則だろコイツら)


 初めて会ったとき、どこからともなく現れた二ヴには度肝を抜かれたものだ。

 どうやら奴らはクロウラーを超える速さで地中を出入りできるらしい。


「……二度は、通じ、ナイぜ」


 渾身でドヤりたいところだけど獣性の制御に手一杯だ。どうしても片言になってしまう。


「くっ……力を隠していたのか」


 そう思うのも無理はない。

 人間戦でいきなりパワーアップしたからね、おかげで死にかけたけども。


 二ヴの隣に戻ったジフトが顔をゆがめ、肩を抑えている。

 指の間から固まった青い血がのぞく。

 アイスブランドの力は傷口を凍てつかせ、じわじわと苦痛を与え続ける。我ながら悪趣味な剣だ。


「しかし所詮アンデッド。魔族に使い捨てられる雑兵が、砂漠の守護者に敵うものか」


 身振りを交えた詠唱が終わったようだ。

 こちとら聖属性付与(ホーリーウェポン)もちの神官二人に勝ってるんだ。

 そんじょそこらの不利じゃ動じんぜ。


「”クリエイト・ゴーレム””」


 呪文の意味を直感的に理解するのより早く。

 ニヴの背後に砂が噴き出て、あっという間に人の形をとった。

 

 そのフォルムはジフトに劣らずマッシブなパワー系――砂製ゴーレムだ。

 ストーンゴーレムなら倒したことがあるし問題ない。


「マスター大丈夫? 加勢するぅ?」


 ホルンの角を抑えながらドクンちゃんが心配してくれる。


「な、に……3対1なら……」


 どうにかなるだろう。

 ゴーレムの鈍重さなど恐れるに――


<<Lv.40 サンドゴーレム>>


<<Lv.40 サンドゴーレム>>


<<Lv.40 サンドゴーレム>>


<<Lv.40 サンドゴーレム>>


<<Lv.40 サンドゴーレム>>


「……グルル」

 

 ゴーレムが4体。

 唸るしかねぇ。


 戦いは数だ、って誰かが言ってたな。

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