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9話 ダンシング・ワイト

 作戦会議。

 

 勇者が送り込んだ第二の刺客、シルバーゴーレム。

 厚い装甲に加え、銀による闇魔法無効を備える。

 しかも目からビームという遠距離攻撃も搭載。

 おまけに手下のスモールスケルトン=ゴブスケを一撃で粉砕する腕力。

 実力差を悟った俺は、一つ前の部屋へ引き返していた。


 元ゴブリン部屋へ逃げ帰り、俺たちは額を合わせる。


「あいつだけは、ぜってぇに許さねぇ……!」

 

 喋り方変わってますよ、ドクンちゃん。

 彼女はゴブスケの復讐に燃えていた。

 ゴブリンの骨はあと9体分あるから、代わり作れるけどね。


「スライムを倒してるうちに思い出したんだけど、スケルトンやらゴーレムやら作ったことあるわアタシ」


 魔術師が護衛としてモンスターを従えることは、物語上よくある。

 自作していても不思議じゃない。


「マジで? じゃあ弱点とか思い出してよ」


 ドクンちゃんは昔ひとつの存在だったが、無数のレイスになってアイテムボックス中に散らばった。

 そして散らばった各々が好き勝手にモンスターに憑依している。

 今回のスライムにもドクンちゃんの”欠片”が憑依していたようだ。

 スライムを倒して憑依を解くことで、

 ”欠片”を回収したドクンちゃんは記憶を少しだけ取り戻したらしい。


「ゴーレムの中でも銀製は脆いほうよ、マスター程度の物理攻撃じゃ歯が立たないけどね」


「ぐっ……」


「属性魔法、破壊魔法なら軽減されるけど効果はあるわ。でも闇魔法には耐性があるの。

 銀は聖なる力を帯びてるから。殴られたら浄化されるわよ」


 俺、対策されてる? か弱いガイコツ相手にそこまでやる?

 

「弱点はそうねぇ……簡単な命令しか実行できないところと、製造費がバカ高いってことくらい?」


「簡単な命令ねぇ。固定砲台やられるだけで超キツいんだけど」


 いっそスルーしちゃうのはどうだろう。

 ビームをくぐりつつレバーまでたどり着き、さらに出口へ向かう。

 しかもスライムも降ってくる。

 ……厳しいな。


「でも妙ね。アタシですらシルバーゴーレムなんて滅多に見た記憶がないわ」


「高価だから?」


「そうね、あえて銀で作るなんて金持ちの娯楽でしょ。

 強度なら鉄製アイアンゴーレムが勝るし、

 石製ストーンゴーレムでも同じ命令は実行できるし。

 アンデッドを倒したいなら安上がりな方法はいくらでもあるもの。

 それとも、この時代は銀が死ぬほどあるのかしら」


「どの時代から生きてるんだよ」


「レディにきくものじゃなくてよ」

 

 バチンとウインクするドクンちゃん。

 しかし俺の中にひっかかるものがある。

 

「銀、か……」


 昔に熱中した、プラモデルを思い出すな。

 あれは確か……


 骨だけの顎が、カタリと鳴った。


……


……


……

 

 俺たちは再びシルバーゴーレムと対峙する。


「よっ! ほっ!」


 アイテムボックスという名のフロアで、俺は躍り狂っていた。

 かちゃかちゃ鳴る骨のミュージック……。

 シルバーなゴーレムのレッドなビームが更なる俺を剥き出しにする。


 ガイコツORE with シルバーゴーレム。

 今宵、ここだけが”音グルイ”の”ホンモノ”たちの溜まり場……!


 知らんけど。

 どこだよフロアって。何階?

 行ったことないわ。


「HEY COME ON!」


 くるりとターン。

 ビームがまた一本、俺の背後へ抜けていく。

 俺は踊っているのではない。

 ガイコツがくねくねしていると、コミカルに見えてしまうのはわかる。

 しかし命がけだ。

 ひたすらゴーレムのビームを避け続けているのである。


「爆散しても骨は拾ってあげるわよー」


「やかましいわ」


 ドクンちゃんは天井にぶら下がっている。

 2本の血管を触手のように伸ばし、天井の隙間へ交互に差し込むことで移動しているのだ。

 まるでスパイ映画のよう。

 彼女の手には松明がある。

 そして向かう先、天井には無数のスライムが張りついていた。

 ドクンちゃんの役目はスライムを追いたてることだ。

 スライムは熱が嫌いなようで、松明を近づけると逃げるのである。

 

「ここでムーンウォーク!」


 華麗にビームをさばく。

 繰り返すが、断じて踊っている訳じゃない。


 俺の足元に汗で水溜まりができる頃(汗をかけていたらの話だけど)、

 ようやく作戦の第一段階が整った。


 気持ち悪いほどに密集した天井のスライム。

 個々が近づきすぎたせいで巨大スライムに合体している。

 自重に耐えきれないのか今にも落ちそうだ。 

 そして、その真下にはシルバーゴーレムが佇む。

 

 第二段階へGOだ。

 

「ナイスだドクンちゃん! ”シャドースピア”!」


 ターンからのポーズを決めて闇魔法を発射!

 狙いはもちろん巨大スライムだ。

 

 限界プルプル状態だったスライムは耐えられない。

 闇魔法を受けバランスを崩して落下した。

 これを頭から被るシルバーゴーレム。

 白煙をあげ、スライムはゴーレムを溶かそうとする。

 しかし、さすがに骨のようにガンガン小さくはならない。

 溶けるのは表面だけだが……十分だ。

 

「ふっ、やはりな!」


 美しい銀色の下から、徐々にくすんだ灰色があらわになっていく。

 どうみても銀じゃない。

 よし、鑑定!


 <<Lv43 種族:魔法構築物 種別:ストーンゴーレム>>


「ストーンゴーレム! メッキが剥がれたな!」


「やるぅ!」

 

 ドクンちゃんも歓声をあげる。

 文字通り、シルバーはメッキだったのだ。

 

 子供のころ、俺はプラモデルにハマっていた。

 そのとき全身金色のロボットに挑戦したことがあった。

 原作通り、まばゆいばかりのゴールドのパーツ……。

 このロボットは金で出来てるんや……!

 そう確信した。

 しかし組み立てる過程で、パーツの断面を目にし、落胆した。

 

 黒かったのだ。

 たぶん黒いパーツに金色のメッキをのせていたのだ。

 今の自分なら断面を自分でメッキ加工すればいいだろう。

 しかし純真な子供心に衝撃だった……。

 

 考えてみれば金でプラモデルを作れるはずがない。

 作ったところでオモチャの予算に収まらない。

 採算が、あわない。


 燦然と輝くシルバーゴーレムを見て、俺は思い出したのだ。

 そして予感は的中した。


「石なら闇魔法は通る! 喰らいやがれ!」


 ”シャドースピア”を撃ち込んでみる。

 黒い槍はゴーレムに吸い込まれる。

 直後、石が割れるような音を響かせた。

 

「効いてるわよ!」


 ドクンちゃんは松明を操り、スライムをゴーレムから離さない。

 スライムはゴーレムをゆっくり溶かし続ける。

 その甲斐あって闇魔法とともにじわじわゴーレムを追い込んでいく。


「この状況でもまだビームかよ」


 大きく上半身を反らせて回避。


 ストーンゴーレムはペースを崩さない。

 スライムを振り払うこともしない。

 愚直に、俺へビームを撃つだけだ。


 ゴーレムの弱点、それは攻撃の単調さだ。

 ビームの発射直前に目が大きく光るため、よけるタイミングが掴みやすいのだ。

 しかも自分から距離を詰めてこない。

 

「ワンパターンだな!」


 ゴーレムの手が届く範囲に敵がいるなら格闘攻撃。

 遠い距離ならビーム。

 奴は二択しか行動パターンがないようだ。

 つまりビームを攻略すれば、遠距離からやりたい放題できるということ。


 俺への対策を潰され、逆に対策されたストーンゴーレムに勝ち目はなかった。


「これはゴブスケの分!」


 銀が剥げた今、魔法耐性は大きく低下していた。

 シャドースピアがゴーレムを穿つ。

 ただの闇魔法ではない、悲しみの闇魔法だ!

 

「これもゴブスケの分! これもゴブスケの分!」


 連打。

 堅牢な岩にヒビが広がっていく。


「そしてこれも! ゴブ――あ、止まった?」


 俺のMPが尽きるころストーンゴーレムはついに停止した。

 光線が止み、目のような光が弱々しく明滅するだけだ。


「やったか!?」


 最後の悪あがき的にビームを撃ってこないだろうな。

 小石を投げつけてみるが反応なし。

 どうやら本当に勝ったらしい。


「マスターすごい! レベル41に勝っちゃった!」


 俺のレベルは15です。

 レベル41ぶつけてくるって、勇者頭おかしいんじゃない?


「フフ、どんなもんよ」


 勝利のハイタッチを交わす俺とドクンちゃん。

 ゴブスケよ、仇はとったぞ。


 さて、ついでに巨大スライムの経験値も頂くか。

 ゴーレムの残骸にへばりつくスライムに向き合った時だった。

 俺たちは不吉な予兆を目にする。


「ドクンちゃん、なんかゴーレム光ってない? これって……」


 ゴーレムの内側から光が漏れている。

 それはそれは幻想的なのだが、なんとなく見たことのある演出だった。


「マスター離れて! 自爆よ!!」


「あかーーん!!」 


 だと思ったわ!

 踵を返した直後、閃光が炸裂した。


 光に包まれるとロクなことがねえよ。

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