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「そこまでだ。」
リーダーの言葉に、2番の男は少々残念そうな表情で剣を鞘に納めると、再び弓を手にした。
「もう少し楽しみたかったのだが、少々残念だ。機会があれば、次は我が愛剣で勝負しよう。」
フレイは武器を納めながら、
「勝てる自信は無いので遠慮します。」
と言うと、2番の男は笑いながら後に下がったと同時に4番と言われた者が前に出る。
「次は私の様だ。魔力を操る者の慣わしを、古式ゆかしく執り行うとしよう。まずはこの力を止めてみよ、準備は良いか?」
4番と呼ばれた者の右手より、ゆっくり小さな輝く塊が、ラディに向けて放たれる。
エネルギーボルトと言われる、込められた魔力が尽きるまで直進する何の変哲もない、但の魔力の塊だ。
これは古くからある魔力を使った力比べで、対抗手段は同じエネルギーボルトを当てるだけ。
単純に力の弱い方のエネルギーボルトが消えるというもので、太古から術者同士の決闘では、無用な争いを避けるために一番最初に行われる慣わしらしいが、余り争いが避けられるわけではないらしい。
当然ラディも既知の事、ありったけの魔力を込めて打ち出す。
このエネルギーボルトは、速度が遅くひたすら直進する様に打ち出すのが礼儀作法だ。
4番のエネルギーボルトは小石程度の大きさで、歩く位の速度でゆっくりとラディのエネルギーボルトに近づいてくる。
ラディのは指先程の大きさで、丁度半分くらいの大きさに見える。
お互いのエネルギーボルトが近付き合い、バチバチと光を発する。そして一際大きな光を放つと、二つは共に消えた。
其れを見た4番は、
「素晴らしい。これなら楽しめそうだ。」
と言って、両手を掲げる仕草をした瞬間、
「待て、そこまでとしよう。」
リーダーの一言に、4番はガックリと項垂れる。
本当に残念そうだ。
2番は、ニヤリとしてから弓をつがえて空中に矢を放ち、矢は音を立てて空中を飛んで行く。
いわゆる鏑矢を射た様だ。
鏑矢は主に音により合図を送る事を目的とする矢だが、何を知らせる合図なのかは無論ラディ達には分からない。
リーダーは、2番の男を指さして、
「あの者の後に続いて歩け。」
と言った。
2番の男は、既に少し離れた所から此方を見ている。
フレイはラディを先に歩かせると、その後に続いた。
4番は、最後尾をとぼとぼと歩いて来る。
2番の男を先頭に、その場に居た全員が移動を始めた。