6
「怪しさ全開ね。でも何の為に?」
恐怖よりも好奇心が勝る所は、さすがは賢者サマ。
フレイは鞘を付けたままの剣をだらんと構え、油断なく辺りを伺っている。
鞘のままなのは危害を最小にするためだが、フレイがその気になれば鞘が有っても無くても大差は無いので、鞘を付けているのは『一応自主規制をしてます』と言ったところか。
しばらくしてアリアからラディに、
『空間の歪みを感知しました、間もなくその地点です。』
と連絡があった。
ラディは、
「フレイ、もう少しで空間を跨ぐわ。伝承通りのように、エルフの世界だと良いのだけど。」
とフレイに告げると、
「期待外れだと落胆するので、期待しないでおくよ。」
との答えが返ってきた。
これが時空の歪みなのか、二人は水の中に入るような何とも言えない体にねっとり纏わり付くような感覚をしばらく感じ、その感覚が無くなると急に、森林の力強い匂いと威厳のある静寂さの様なものを感じ取っていた。
二人の身体は、ここが普通とは違う太古から続く森なのだと知らせている。
「古い森ね。私が生まれるより、いえ、人間が生まれるより遥かから存在している様な感じ。魔力と言うのが正しいのかは分からないけど、何かの力を感じるのは確かね。」
フレイは鞘付きの刀剣を肩に担ぎながら、
「鬼が出るか蛇が出るか、どちらにしても一筋縄でいかない様な輩ばかりだろうから、どうしたら良いものか。」
と嘆くが、ラディはフレイの隣に立ち、フレイの肩にもたれ掛かると、
「手掛かりを得る選択肢が他に無いから、例え空振りでも行くしかないもの。」
ちょっと弱気なラディにフレイは、優しく頭を撫でながら、
「そうだね、手掛かりが得られると良いね。」
と言葉を掛けると、困難が待つであろう森の奥を油断なく見つめていた。