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「そろそろ起きて準備しない?間違っていなければ、もう少しで満月のはずだよ」
フレイに促され、渋々寝具から這い出たラディだったが、生まれたままの姿である自分の身体を見て、慌てて再び寝具に潜り込んだ。
寝具から目まで出して、じっとフレイを睨んでいる。
フレイがニコッと微笑むと、寝具を頭まで被って寝具の中でごそごそしている。
寝具から這い出た頃には、既に衣服は身に付けており、何も無かったかのように寝具を畳み、出発に備える。
既に殆どの物はフレイが片付けていて、フレイ自身も準備を完了していたが、そんなラディを見ながら『飽きないなぁ』と思っていた。
二人がここに来たのはバカンスではなく、町で聞いた話でこんな伝承を聞いたからだ。
『村に住んでいた若い狩人は病気の母の薬代の為に、満月の夜に森に入って狩りをしてはいけないという村の言い伝えを破り狩りを行った。満月の夜は、大きな獲物を近くで見かける事が多いからだ。その満月の夜も小川の近くで大きな鹿を見つけた。若者は喜んで其れを射たところ、急所を外れ獲物は逃げてしまった。若者は手負いの獲物を追って小川の側を上っていくと、何やら急に霧が立ちこめ辺りが見えなくなった。霧の中を彷徨っていると、霧の中で大きな木だけが見える。不審に思ったが、その木以外に見えるものがない若者は、その方向に歩いていくと、不意に霧が晴れ、大きな木の下に出た。するその大きな木から、美しい娘が降りてきて、「約束を破ったのはお前か?満月のこの森で、血を流してはならないとあれほど言っておいたのに。」若者は恐れ入って平謝りをしたが、美しい娘は「去れ、この地は人の住めぬ地となった。」と言って大きな蛇に姿を変え、若者は驚き逃げ出した。どこをどうやって来たかは分からないが、若者は村へたどり着き、村長にその事を話すや否やバタリと息絶えた。』
と言う話だ。
ラディがこの伝承を調べた結果、かなりの誇張はあるがエルフが関わる伝承のようだった。
ラディが住んでいた大陸では、最後のエルフが魔法の船で海を渡った伝承以後は、エルフに関しての伝承は途切れている。
エルフとは長い時を生きる者で、その長い時の間に神に近いとされる力を持つ者さえ現れるそうだ。
彼らは集団で暮らしており、時々人間の間に現れて様々な啓示を与えて去っていく。
彼らは、妹を救う手掛かりを知っているかもしれない。
既に伝承にある村は無くなっているが、人の営みの形跡を確認できたラディは満月の夜までこの地に残る事を決めた。
今夜は満月の夜。
期待に胸を膨らませ、寝具を畳みながら今か今かと気は焦るのだった。