1
ラディは、朝の静けさの中で森に佇むのが大好きだ。
何がそうさせるのかは分からないが、木々に囲まれていると、落ち着いた気分になる。
川縁の切り株に腰を下ろし、林の中を流れる澄んだ小川を眺めている。
金色の長い髪に雪のような白い肌、切れ長の目にやや尖り気味の耳、丁度思春期の少女の様な体の大きさはまるで人形のようだが、胸の膨らみだけはその体の大きさとは不釣り合いだ。
切り株に座る後ろ姿は、まるで森の妖精のよう。
彼女の名はラディッシュで、愛称はラディと言う。
正確には分からないが、ラディは少なくとも二百年位は軽く生きているらしく、エルフのように長命だ。
幼い頃は普通の人間と変わらぬ成長だったが、十代中頃から体の成長が止まり、その頃から外見は今でも変わらない。
まわりが年老い、いずれは自分の親や兄弟姉妹、その子孫の最後まで看取る事に耐えられなかったラディは、父である国王が亡くなり、自分の兄弟姉妹が王位を継承したのち城を後にした。
その後、変わり果てた妹と再開し、助ける方法を探しに旅をしている。
「ここに居たんだね。姿が見えないから探したんだけど、会えてよかったよ」
茂みをかき分けてきた、若い男が声をかけた。
体のあちこちには小枝だの葉っぱだのが纏わり付いており、それをはたき落とす。
男は一通りはたき落とすと、同じ切り株のラディの横に腰をおろし、同じ小川の流れを眺めた。
「心配させて御免なさい。」
ラディは若い男の首に両腕を回し、横顔に口吻をすると、
「そして、大好きよ」
と、言って男を強く抱きしめた。