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愚者の舞い 4

 ライヒは他の町よりも高く厚みのある城壁に囲まれている。

それは、ライヒが四方共他国と隣接するためで、戦乱の歴史を現していた。

もっとも、攻められる主とした理由はライヒが手出しするためであり、周りの国は自立できていればそれでいい状態なので、率先してまで手出しはして来ないのだが。

それでも攻めて敗れた残存勢力だけで防衛しきって今も国がある辺り、優秀な人材を多く雇える好運に恵まれてきたとも言える。

ともかく、依頼を受けた(と、思い込んでいる)若者は城門から急いで飛び出し、街道を北上した。

城壁から5つの畑がぐるっと囲むように広がり、その外側を草の背の低い草原が広く取り囲んでいる。

この草原は魔物が潜みながら接近できないように低く草を刈り、罠なども多数設置されている。

そうしないと、農民が安心して畑仕事を出来ないためだ。

その手入れをしてある草原の更に外側を柵で囲ってあるのだが、その外は手入れをされていない草原が広がっている。

こうやって畑との間に距離を置く事によって、作物と人の安全を図っているのだ。

城壁からは常に騎士が見張りをしており、魔物の姿を見つければ警鐘を鳴らす。

そこまで安全を図るなんて立派な国王だなと思わなくもないが、いざ戦争となれば農民は立派な歩兵隊になる。

ようは捨て駒の壁なのだが、農民を守る事で兵士を確保出来て常日頃は食料を確保できる。

更に、攻め込まれた際には罠で少しでも数を減らせ、騎馬隊の機動力を殺せる。

まさに一石二鳥、いや三鳥なのである。

暖かな日差しの元、元気に、それでいてのんびりと畑を耕す光景を眺めつつ、若者は足早に外柵の門を出、森を目指した。

一歩柵の外へ出てしまえば、もう自分の身は自分で守るしかない。

若者はキリッと表情を引き締め、魔物の出現を警戒しつつ先を急いだ。

町の近くと言っても手付かずな背の高い草々は十分に魔物の姿を隠すし、魔物が出ないとも限らない。

つい先日、柵を出て5歩進んだ途端、オークの一団が横合いから現れて、若い娘を攫って消えたという笑えない事実もある。

外柵の門には当然騎士もいるのだが、騎士の仕事は門から魔物の侵入を防ぐ事。

入って来なければ、よっぽど邪魔ではない限り騎士は無関与だ。

そして、門の外に出ると言う事はそれだけの危険を覚悟しなければならないと言う事だ。

騎士はなんて無責任だと思うかもしれないが、なまじ助けに行って手薄になった外柵を突破された方が被害が大きいのだから、理に適ってるとは言える。

そのために、下手に手助けするために持ち場を離れると、その騎士が処刑されるという厳格さだ。

ライヒの国王は、そこまで厳格に規則を定めつつ、野心を温めているのである。

そんなお国の事情は置いといて、何はともあれ若者は道を急いだ。

一刻も早くゴブリンを退治して、町と街道の安全を確保し、更に有名になりたかったのだ。

金も欲しかったが。

草原は結構な距離があり、そこを抜ければすぐ森になる。

そして草原をあと少し進めば森に出るという辺りで、若者はふと疑問を感じた。

先に書いた様に、草原は結構な距離がある。

その間、誰ともすれ違わなかったのだ。

ご時世がご時世だけにそんなもんだと言われれば納得するしかないが、それにしても人気が無さ過ぎる気がしてならない。

ライヒは霊峰ファレーズの恵みがあるとは言っても、生活物資全てが生産できて賄えるわけではない。

足りない物資は、当然商人の物流が必要不可欠なのだが・・・。

「あ、そうか。 ゴブリン出るんだっけ。」

思わず声に出して確認し、納得する。

ついでに自分が何しに来たのかも再確認。

普通の冒険者達のように仲間がいたら、即座に突っ込みが入ったであろうが、彼は仲間を募るという大前提が抜けていた。

まあ、冒険者に成り立てで即座に跳び出す辺り、正義感だけは強いかもしれないが。

そんな彼が草原を抜けた瞬間、魔物が出るから通行人がいないわけではない事を知った。

街道を塞ぐように大木が倒れていたのである。

「ありゃ〜。 こりゃ町に知らせに行った方がいいかな・・・? いやいや、先に魔物を退治しよう。 誰か通れば当然知らせに行くだろうし、危険の排除が最優先だ。」

若者は一人でいる時間が長かったのかもしれない。

独り言が多いのはそのせいだろうと思われる。

若者はともかく、森に入るために大木を乗り越えようとして・・・その直前に倒れた馬と、停車している馬車に気が付いた。

馬の首筋には矢が突き立っており、馬車の傍には御者らしき男が血塗れで倒れていた。

そして、停車している馬車の戸は、両方こじ開けられて、そよ風を受けて無音で少しだけ、開閉を繰り返していた。

若者は即座に抜剣しつつ大木を乗り越え飛び降りると、身を低くしながら周囲を警戒した。

身構える姿は、とても成り立てとは思えないほど堂々としたものだ。

雰囲気だけは歴戦の戦士のようである。

そして若者は、警戒しつつ状況を分析する。

馬と御者はピクリとも動かないから既に息絶えているに違いない。

馬車の中に誰かいるかも知れないが、今いる場所からは確認できない。

御者を見る限り、切り傷が致命傷のようであるが、それだけで相手が何かまでは特定できない。

魔物にもゴブリンなどのような、人から奪った刀剣類を扱える物もいるし、山賊は当然、武器を使う。

辺りを警戒しつつ、空いている左手で馬を触り、襲撃があってからどれだけ経過しているか知ろうとした時、馬車内からゴソゴソという物音と声が聞こえて来た。

「ギャヒ、ブシュルヒギャハ!」

意味不明な、声。

間違いなく魔物だ。

若者は警戒しながら馬車の戸口に音を立てないように近寄り、覗こうとした時。

「ギュッホ!!!」

背後からの突然の大声に、若者は元居た方向へ飛び退いて身構えた。

そこには普通のゴブリンよりも一回り体が大きく、筋肉も盛り上がったゴブリンがいた。

しかも態度が偉そうだ。

「やはりゴブリンか!! 俺が相手だ!!」

その声に反応したのか、はたまた先の体格の良いゴブリンの上げた声で動いたのか、馬車の中から3匹のゴブリンが飛び出して来て、若者と体格の良いゴブリンの間に展開する。

「数が増えても一緒だ雑魚め!! ゴブリン如き、俺が退治してやる!! デヤァ!!」

若者はそう言って、気合いもろとも大上段から斬りかかった。

その渾身の鋭い一撃は、見事にガギッと大地を少し切り裂いて止まった。

ヒョイッと避けたゴブリンは嘲るようにギャヒヒヒと笑い、他のゴブリンもギャヒギャヒ笑いながら指さして会話する。

『こいつ弱いゴブ!』

『人間なんてこんなもんゴブ!』

ちなみにゴブリンはゴブリン語という独特の言語を話す。

そのため、若者には会話の内容はまったく分からない。

が、馬鹿にされているのは雰囲気で分かる。

若者は怒りのままに、剣を大地から引き抜き、即座に横薙ぎに振るうが、これも軽々と避けられる。

「避けるなぁ!!!」

理不尽で無茶な事を怒鳴りつつ、更に怒りを募らせながら右のゴブリン、左のゴブリンと狙いを変えて斬りかかるが、どれも華麗に避けられる。

若者の腕も、剣速と太刀筋を見る限り悪くは無いのだが、いかんせんゴブリンは最下級の魔物と言っても人間の駆け出し戦士並みの実力は持っている。

同じレベルの相手ならば数の多いゴブリンの方が余裕はある。

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