愚者の舞い 40
鎧を着ていたので分からなかったが、ルーケは思いっきりプリンの胸に体を押しつける形に成っていた。
「私はお仕事に戻りますの! 勝手にやってて下さいですのぉ〜!」
よっぽど痛かったのか、目に涙を浮かべてプリンはそう言うと、バァ〜ン! と壊さんばかりに思いっきり戸を開け放ち、ドスドスと足音を立てて出て行こうとした。
「待てプリン!」
「なんですの!?」
勢い良く振り返った瞬間、バサッと色とりどりの花束を顔の前に突き出され、プリンはギョッとする。
「師匠! どっから出してんですか!?」
そんな突っ込みも鮮やかに無視して。
「転職祝いだ。 持ってけ。」
「わぁ〜! ありがとうですの〜♪」
コロッと機嫌を直して、プリンは満面の笑みになる。
「ってわけで、お前が出て行くのはまだ早い。 剣の腕だけではなく知識もちゃんと身に付けろ。 じゃないと・・・。」
「いつも答えはそれじゃないですかっ!! いつになったら終わりなんですか!?」
「知識に終わりはない。 だが」
「また始まったですの。」
「そんなんじゃいつになっても終わらないじゃないですかぁ!!」
「最低限は身に付けろと言っている。 じゃないと」
「俺はもう待ちきれない!!」
そう言うと、ルーケは部屋の外へ駆け出した。
「あっ! 待て!!」
「待てません!!」
「今開けるな!!」
だがそんな制止も聞かず、ルーケは異空間から戸を開け放し、飛び出してしまった。
「・・・ご主人様、お聞きしてよろしいですの?」
パタン、と、飛び出して呆然と突っ立つルーケの背後で、戸が勝手に閉まった。
「聞きたい事は分かってるから先に応えよう。 普通は死ぬ。」
「やっぱりそうですの? 強運の持ち主なんですの〜。」
「いや、それが不幸を巻き起こす原因なのかも知れないぞ。 まったく、時間を引き延ばしてまで教えてやったのに、迷惑ばかりかけやがるなあいつは。」
異空間と現行の時間の繋がりは、いわば点。
激しく回る巨大な円盤に書かれた小さい丸、それに飛び乗るようなものなのだ。
ちなみにそれ以外の場所に飛んでしまった場合、瞬時に消滅する。
時間の流れによる歪みで、魂ごと引き裂かれて塵となり果てるからだ。
「なるほど、星が無いわけだ。」
「星・・・ですの? 占星術とか言うあれですの?」
「そうだ。 親父の気紛れか、自然界の一番外側、つまり雲の遥か上空にある、無重力で無酸素の空間があって、そこに隕石と呼ばれる石が浮かんでいるんだが、その向こうに異界が透けて見えるように作ったんだ。 星と呼ばれる光は、その異界に瞬く光の粒なんだけどな。 まあ、そんな事はどうでもいいんだが、その星は全て誰かしらの運命を輝きで表すようになっているんだ。」
「不思議ですの〜。」
「親父は狂気に囚われたが、完全に狂っていたわけではないから、残っていた穏やかな慈悲の部分がそうさせているのかも知れん。 ともかく、あいつを弟子にした瞬間から、あいつを示す星が消え失せた。 俺にも理由が分からなかったが、これでやっとわかったな。」
「理由・・・ですの? 死んだわけではないですの。 消える理由が分からないですの。」
「あいつがこの世から消え失せたから、星も消えたのさ。 実に簡単な答えだ。 わかってみればな。」
「消え失せた・・・ですの? 先ほど背中は見えましたの。」
「死んだわけでもなく、この世から消え失せた理由。 それはな。」
話を聞いたプリンは、目を丸くした。
第一章 完
第二章 へ続く
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