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愚者の舞い 38

 アラムはニヤッと笑うと、奥の部屋の戸を開け放った。

「どうだい。」

得意気に言うアラムの開けた戸の先。

今までは洗濯物などを干す裏庭へ通じる裏口だった場所。

土も剥き出しで、何も無く、ただ裏口だけがあった部屋。

そこが、綺麗に石畳が敷かれ、戸のあった壁の代わりに流れる小川、その小川にかけられた橋を渡ればいつもの裏庭。

もっともその先の景色は一変していたが。

「こ・・・これは・・・。」

「すっご〜い! きれ〜!! お洗濯も楽だよメレンダ!」

「ほんとだねルパちゃん! でも、なんで景色が?」

三者三様な反応を見せる巫女達であるが。

「どこに通じておるのじゃ? ここは。」

アクティースは平然としていた。

「お前が出て行く時楽だろ? 本来の姿で速攻出て行けるぜ。」

「じゃから、どの辺かと聞いておる。」

「地下神殿上空だ。 それと、地下神殿は先に浄化して埋めておいたし、この神殿があった場所は土砂崩れで埋めておいた。 他に質問は?」

「この水はどこからどこへ通じておるのじゃ?」

「ファレーズの中腹にある川だ。 水中に線で出入り口を繋いであるから安全だぜ。 新鮮だが冷たいから気を付けろよ。 巫女達は溜めて温めた方がよかろうな。 この国のように風呂も出来るよう、桶も用意しておいたぜ。」

見れば片隅に、巨大な桶がドンと置かれていた。

「なんなら、露天風呂でも温泉でも追加するぜ? ただ、敷地外に出るなよ。 落ちるぞ。」

「あの、始原の悪魔様。」

「なんだい? クーナ。」

「詳しい事情は分からないのですが、もしかして私達の存在は秘密なのですか?」

「そのようだな。 だからここで煌々と明かりを灯しても、外に漏れないし外からも見えんように結界を張ってある。 その代り物体の出入りは自由自在だ。 ちょいと細工して、風を弱める工夫はしてあるけどな。 じゃないと、雲の上に繋がっているから、風で凄い事に成る。」

「上出来じゃな。 褒めてやろう。」

「ヘェ〜ヘェ〜。 ところでお前、生贄はどうすんだ?」

「どうとは?」

「お前が守護すると宣言しておらんだろ。 今まで通り毎年生贄が捧げられるわけだが。」

「当然頂く。 気に入った者がいれば巫女に加えられるしの。」

「それ以外は食うのか?」

「その時によるの。 ともかく魔王よ、引っ越し祝いじゃ。 酒とつまみをはよ用意せい。」

「普通逆だろうが。 おいクーナ。」

「はい?」

「材料は用意してやるから、なんか作ってくれ。」

「かしこまりました。 ルパさん、メレンダさん。」

見ると、二人は話し込んでいる間に勝手に川に入り、あまりの冷たさに硬直していた。


時は魔王が討伐されてから、約170年が経過していた。

こうして、アクティースはグラン大陸へと移り住み、リセを守護する事になった。

そして30年もの間、リセは侵略される事も無く、平穏な日々を過ごす事に成る。

一方、その頃ルーケはどうしていたのかと言うと。

既にこの世にいなかった。


 刀を振り上げながら飛び上がると同時に左手で手裏剣を投げ、投げ終わると同時に刀の柄を握り振り下ろす。

頭目掛けて投げつけられた手裏剣を半歩横にずれてかわし、真横に構え左手を剣の背に添えて突き上げた剣でガッシリと受け止める、と、見せかけて、剣と刀が当たる瞬間に左側へ剣を斜めに下げて刀を滑らし、バランスが崩したところを素早く剣を撥ね上げ相手の腹を切り裂く。

忍者はその瞬間、人形に戻った。

「だいぶマシになったな。」

「マシって、そりゃないっすよ師匠。」

ルーケはもう、駆け出しの戦士では無かった。

確かに戦士としての才能はその辺にいる人と変わらなかったかも知れない。

しかし、通常の時間で換算すれば約100年。

見た目は二十歳でも、もう熟練の戦士に成っていた。

「あくまでマシだ。 お前が戦士としての才能があれば、もう俺に追いつけるほどの時間が過ぎてるんだからな。 それでもまぁ、見れるようにはなった。 流石は俺だな。 俺の指導の賜物だ。」

「自分で言うかなぁ。 でも、それなら師匠、もう」

「まだだ。」

「なんでだよ! いつになったら俺は元の世界に戻れるんだ!?」

「マシになっただけだ。 それにお前、知識の方が疎かになってるじゃねぇか。」

「罠ならだいぶマシになったぜ?」

「ほ〜、じゃあこの部屋の中に隠し通路がある。 発見してみろ。」

「げっ。」

ルーケはキョロキョロと辺りを見回し、見当を付けて探し始める。

そんな時、入口をコンコンと叩く音がした。

「ご主人様、プリンですの〜。」

「おう、入れや。」

「ええ!? なんでプリンさんが!?」

ルーケが驚いて顔を上げると、現実世界と異次元を繋ぐ戸が開き、プリンが入って来た。

「よくよく考えたら、完全に時間を止めちまうとお前が死んじまう事に気が付いてな。 もの凄くゆっくりだが流れるようにしたんだ。 あれから多分10日くらい経ってるんじゃないかな?」

「そうですの。 ご主人様、普通のお知らせと、悲しいお知らせがありますの。 どちらからお聞きになりますの?」

「普通から。」

即答に対し、プリンはニコッと笑うと、

「南の王国の屋敷に働く事になりましたの。 それで、悲しいお知らせですが・・・。 ガードさんが亡くなられたですの。」

「えっ! ガードさんが!? いつどこでどうグゲッ!」

「煩い。 お前はちゃんと隠し通路を探せ。」

スパーン! と、見事な回し蹴りで、プリンに駆け寄って来たルーケを撃沈する。

「埋葬はしたのか?」

「はいですの。」

「そうか。」

そう答えたきり、アラムもプリンも押し黙る。

「ねぇ師匠。 ガードさんて・・・。」

「なんだ?」

ルーケは聞いていいのかどうか迷ったが、蹴られるのを覚悟で聞いた。

「どういう人だったの?」

アラムもプリンもしばし沈黙したままだったが、やがて諦めたように口を開いた。

「あいつと知り合ったのは、ある戦場だった。」

「戦場!?」

「俺はある人間と結婚し、約60年間、約束に従ってその国を守った。 だがその後、数年しか持たずにその国は隣国に攻め滅ぼされたんだ。」

「なんでまた。」

「馬鹿みたいに安心しきっていたのさ。 嫁の生存中だけだと言い置いたのにな。 外交も疎かにし、完全に孤立していたんだ。 そんな戦場で、あいつに会った。」

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