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愚者の舞い 2

グラン大陸には、3つの大国がある。

東西南北の名を冠し、それぞれがほぼ、名称に一致した位置に存在する。

それぞれを簡単に説明すると、東の王国は頑固者が多く、ドワーフの住む洞窟も多数存在し、北の王国は実力主義で、何事も力が最優先を主体とする。

南の王国は奴隷による制度で発展した小国が合併されてできた国である。

西の王国は、実は存在しない。

そのため3つの大国なのだが、概ね大陸西部にある小国の乱立する地域を総じて西の王国と呼ぶ。

この中には女性しか存在しないと言われる、アマゾネスの国もある。

また、他の国では国を守り統治する戦士を騎士と呼ぶが、西の王国では侍、諜報で忍者がいるという、独特の文化を持つ地域でもある。

そんな東西南北の国の間に挟まれ、その間にも小さな国々が点在していた。

中には街道沿いの宿場町が発展し、民衆が共同で統治・防衛している独立国もある。

そんな情勢の中、大陸中央に位置する小国に、ルーケは生まれた。

曾祖父のアレスは既に亡く、祖父もまた、先年他界していた。

今は屋敷の当主であるルーケの父が、騎士の一人として仕えていた。

もっとも、アレスの血を引くのは夫人の方であり、夫は熱烈な恋愛の末に婿になった、一般の騎士である。

そして、待望の後継者に恵まれ、喜びに屋敷が包まれてから、20年の月日が流れた。


 街道、と言うと、整備されて凹凸があまりなく、踏み固められて雑草は生える事も出来ず、馬車が余裕ですれ違える広さがあって人々は笑顔で挨拶しながら行き交う。

そんなイメージを抱くだろうが、ところがどっこい。

馬車なんぞゆっくり進むのが関の山と言うような、細い、獣道に毛が生えた程度である。

それと言うのも、魔王降臨以前は人間やバードマン、ドワーフにエルフなどなど、人型の生物同士での争いが絶えなかったからだ。

そのため街道整備なんてしようものなら、大軍さんいらっしゃい状態になってしまうため、どこの街道もこんなものである。

魔王降臨により、人型生物達はそれぞれの存亡を守るため、一致団結して魔王と戦い、最終的に勇者一行が魔王を討ち果たして一応の平和は訪れたのだが、今度はその損害の回復に汲々とし、他国に繋がる街道の整備どころではなかった。

しかも魔王は討ち果たしたが、統治者のいなくなった生き残りの魔物達は各地へ分散し、日常的な脅威となっていた。

国どころか小さな村でさえも自警団を組織し、堀や壁、柵などを作り、防衛しなければならない状況であり、のんきに他人の使う街道整備などしていられないし、整備なんてしていたら魔物にたちどころに攻められてしまう危険もあった。

そんな細い街道を、全力で馬車が走っていた。

その馬車はどこかの金持ちの持ち物らしく、非常に丈夫に作られていた。

そのため、走る衝撃で馬車が分解してしまう心配はなさそうだ。

もっとも、中にいる人はこれでもかと言うくらいの振動で、無事とは限らないが。

そんな道を、御者は見事な綱裁きで疾走させていた。

よほど腕の良い御者を雇っているのだろう、普通ならとうの昔にひっくり返っているか木に激突している。

何故そんなに急いでいるのかと聞かれれば、馬車を追いかけてくる物がいるからである。

そう、物、だ。

者ではなく。

魔物の代表格にして知らない者がいないと言われるほどよく見かけられ、しかも残忍・凶暴な臆病者、ゴブリンである。

そのゴブリンが3匹、全力疾走で馬車を追いかけていた。

いくら馬車を疾走させていると言っても、所詮細く整備もろくにされていない街道である。

思ったよりも速度は出ていないし、ゴブリンは成人の人間に比べて背の高さは半分程度ではあるが、体力は底無しなほどあるし、走る速さも普通の人間並みにある。

もっとも、そんなゴブリンズも全力疾走が長いため、へばり気味であるが。

醜い顔が息も絶え絶えで更に醜くゆがみ、涎も垂れ放題と言う、別の意味でも醜悪な容姿になっている。

そこまでしつこく追って来るほど腹が減っているのかと、思わず餌を与えたくなるほどであるが、ゴブリンが求める餌は人間や家畜などである。

はいどうぞとあげるわけにもいかないため、こうやって逃げているのだ。

そんな逃走劇も終焉を迎えた。

辺りを囲んでいた木々が切れ、草原が広がっているのが視界に入ったのだ。

草原に入ってしまえば障害物は格段に減り、馬車の速度も増す事が出来る。

現状で距離を縮める事が出来ないのだから、速度が増せれば逃げ切れる。

そんな御者の希望はしかし、儚く消え失せた。

あと少しで草原に出るという直前、突然大木が横から倒れてきて道を塞ぎ、馬は驚いて急停止して馬車を強引に止め切った瞬間、その首筋に矢が突き立ったのだ。

矢面に立つ気は毛頭ない御者は、慌てて御者席から飛び降りたが、中に声をかける前に追い着いて来たゴブリンの餌食となってしまった。

ゴブリン達が馬車を取り巻き、ギャホギャホ騒ぎ始めた時、倒れたばかりの大木の影から一匹のゴブリンが出て来て持っていた弓を投げ捨てつつ一喝し、沈黙させる。

そのゴブリンは普通のゴブリンより体格が一回り大きい。

ゴブリンの中でも上位種、ゴブリンキングであった。

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