愚者の舞い 37
なんとかユキを生き返らせる事が出来ないか、アクティースは必死に考えた。
クーナは白魔法が使えるが、多少であって生き返りなど使えない。
メガロスも白魔法が使えないため、頼る意味がない。
他に誰かいないか・・・そこまで考えた時、ある人物が頭に浮かんだ。
アクティースはユキを抱えたままテレポートし、出現した次の瞬間には眼前の家の戸をノックも無しに開け放った。
「助けろ!」
そう言われても、面喰らったのは家主である。
「・・・お前なぁ、久しぶりに現れて、いきなりそれかよ?」
「なんでもよいわ! わらわを助けろ魔王!!」
「お前を助けろってどう言う事だ? お前はピンピンしているし、その子は・・・。」
アラムはそう言ってから口をつぐみ、アクティースに歩み寄ってユキをマジマジと見てから空を見上げた。
「わらわはお前も知っての通り白魔法が使えぬ! じゃからお前に生き返らせて欲しいのじゃ!!」
「・・・無理だ。」
「何故じゃ!?」
「残念だが、この子の命運が尽きている。 いくら俺でも生き返らせる事は出来ん。 と言うか、お前に関わって死んだのか?」
「そうじゃ!」
アクティースは急いで事の顛末を話して聞かせた。
「なるほどな。 冷たい言いようかも知れんが、お前に関わってしまったために命運が尽きたようだ。」
「な・・・なんじゃと・・・?」
「お前も知っての通り、竜族は人の命運を変える事がある。 お前に命を託したために、お前の運命に引き込まれたんだろうな。」
アクティースは絶句して、言葉が出なかった。
「元々生贄として死ぬ運命だったんだし、あまり気にするな。 どうしてもその娘が可哀相と思うなら、人間のように墓でも作ってやるんだな。 それよか美味い酒があるんだが、飲んでいかねぇか?」
流石にアクティースはムカッとした。
人が一生懸命だと言うのに、気にするなだ酒だと!? と。
だが、その眼は無粋でも何でもなく、アクティースを本気で心配しての眼差しだったために、怒りのままにぶちまける事は出来なかった。
「それに、あまりお前が悲しむと、その娘が天に昇れねぇよ。 心配でな。」
「なんじゃと!? お前、見えるのか!?」
「当然。 俺を誰だと思ってんだよ。」
「それでなんで生き返らせられぬのじゃ!? おかしいではないか!」
「だから、その肉体の命運が尽きてるんだって。 クーナ達みたいに、お前が巫女にして助けようとしても間に合わなかっただろ? その娘はどうやっても死ぬ運命になっちまったのさ。 そうなっちまうと、俺でもどうにもできん。 世界の運命を変えちまうからな。」
では、自分が関われば、全てがおかしくなると言うのか?
それでは何のために自分達はこの世界に来て住んでいるのだ。
アクティースは自分が生きている事、それ自体が罪と思えて来た。
やはり、故郷と共に滅びれば良かったと言うのだろうか。
だが、自分のために死んだなら、これだけは譲れないとアクティースは覚悟を決めた。
「のう魔王。」
「なんだい?」
「神殿を作ってくれ。」
「・・・守護する気か?」
「そうじゃ。 わらわはこの娘の期待に応えたい。 わらわのために死んだのなら尚の事じゃ。 すまぬが面倒を見てくれぬか?」
「やれやれ、そう言うんじゃないかと思ったぜ。 だが、新しく神殿を作るのも面倒臭いし、場所も無いな。」
「あの神殿では駄目かの?」
「どっちの神殿だよ。 地下のか? 生贄のか?」
「どっちもじゃ。 わらわ達はどちらでも不便はないでな。」
「お前は良いかも知れんが、巫女達が嫌がるぞ。 そもそもお前、綺麗好きであんな地下に住んだら3日ともつまい。 生贄の神殿も住むように出来ていない。 不便すぎるだろ。」
「ではどうすればいいのじゃ!? わらわはなんとかしたいのじゃ!!」
「相変わらず短気だな〜お前。 話は最後まで聞くもんだぜ。」
「わらわの性格を知っているならさっさと言え!!」
「お前なぁ、それがものを頼む態度か。 結界だ。」
「・・・結界じゃと?」
「そうだ。 異空間にお前の神殿を作る。 そうすりゃ場所は関係ない。」
「じゃが、地下神殿はどうするのじゃ?」
「浄化しちまうさ。 その上で埋める。 じゃないと、何かの拍子に神殿と外部が通じてみろ。 復活してた吸血鬼がゾロゾロ出て来たら面倒だ。 あいつらは焼き尽くしても、灰から復活するからな。 神殿はお前の住居その物を移動すれば、引越しの手間もかからんしな。 その娘の遺体を埋葬しておいてやるから、先に神殿に行ってクーナ達に伝えてこいよ。」
「いや、この娘はわらわが埋葬しよう。 せめて、巻き込んでしまった償いはせねばの。」
「愁傷なこって。 じゃあ、準備が整ったら連絡してくれ。」
西の王国リセまで再び戻ると、例の地下神殿入口付近に穴を掘り、ユキを埋葬した後に、アクティースは神殿に戻った。
「引っ越しするぞ。」
帰って来たアクティースに挨拶する暇さえ与えずそう宣言されて、クーナ達は絶句した。
「隣の大陸に引っ越しじゃ。 外に干している物などを取り込み次第行くぞ。」
「ちょ、ちょっとお待ち下さいませ。 何があったのですか?」
「詳しい話は後じゃ。 ともかく準備せい。」
アクティースの性格を良く理解しているクーナは、これ以上説明を聞く事は出来ないと判断し、二人を連れて洗濯物を取り込み、準備を済ませる。
「ところで、どのようにお引越しをなさるのですか? アクティース様は飛べますが、私達はそんなに長距離の飛行はできません。 荷物もございます。」
「心配するでない。 魔王、やれ。」
「おめぇなぁ! 人を召使とでも思ってんじゃねぇのか!?」
クーナ達の背後にいつの間にか現れていたアラムが声を荒げる。
「こ、これは始原の」
「ああ、挨拶はいいよクーナ。 じゃあ引っ越ししちまおう。」
「それなのですが、どのように・・・?」
クーナが遠慮がちにそう聞くと、アラムは額に手を当てて天を仰いだ。
もっとも見えるのは天井だが。
「お前の性格を忘れてたわ。」
「良きに計らうがよいぞ。」
「えらっそうに。」
呆れ果ててそう言ってから、クーナ達に改めて向き直る。
「これからこの神殿に結界を張り、異空間に封印する。 通路は大陸にある、西の王国リセ。 そこに開く。 そこの王国を守護するのが目的だ。」
「守護・・・で、ございますか?」
「そうだ。 結界から出て、多少山菜など採ったりするのは構わんが、あまり出歩かない事だな。 お前達は異国人で目立つ。 その代り、必要な物は俺が揃えてやる。 結界を張る前に、神殿外で必要な物があれば取り込んでくれ。」
「それならばもう終わっていますが・・・。」
「じゃあ結界を張る。 で、だ。 おいアクティース。」
「なんじゃ?」
「入口は元のままだが、奥の部屋を改造するぞ。」
「改造? どうするのじゃ?」