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愚者の舞い 35

 ニコニコと笑うアクティースを見上げ、ユキはガックリと項垂れる。

確かに普通の人間とは思えない美貌を持ち、スタイルも良く、吸血鬼を倒せる力が本人の言う事を信じる限りあるのかも知れない。

だが、神はこの世界に来なくなって久しい。

だからこそ、神ではなく実際に助けてくれる黒竜に縋っていたのだ。

吸血鬼だろうが竜だろうが、ユキにもリセ国民にもまったく関係は無い。

ようは助けになるか、ならないかだけだ。

「あぁ・・・本当にどうしよう・・・。」

「・・・本気で信じておらんようじゃな。」

「当たり前でしょう!? 偉そうに天界でノホホ〜ンと暮らしてるだけで助けてもくれない神なんて誰が頼れるのよ!!」

「わらわは神ではないと言うに。」

「神以外に誰がそんな事出来るというのよ! あぁ・・・死にたい・・・。」

「信用ないのぉ。 では、わらわの力を見せれば納得しよう。 着いて来るがいい。」

そう言いながら、回れ右してスタスタと闇の中へ歩いて消えるアクティース。

ユキは暫し躊躇してから、意を決して闇の中へ足を踏み入れた。

そこまで言うからには、もしかしたら今までの吸血鬼以上の力が・・・

ドダダダダダダダダダン。

「危ないのぉ。 階段が見えぬのか?」

「いたたたた・・・。 見えたら転げ落ちないでちゃんと降りているわよ!!」

「おっと、そうであったな。 まあよい。 追い着いて来た事だし、わらわの手を取るがよい。 外まで導いてやろう。」

追い付いたと言うのかこれは、と、言いたくもなるが・・・とりあえず言わないでおく。

「明るくしてよ。 さっきみたいに。」

「それは止めた方がよいじゃろうな。」

「なんでよ?」

「かつて、生贄に捧げられた者達の死骸が、ゴロゴロ転がっておるのでな。 そこに転がっておる者などなかなか見ものじゃぞ。」

死ぬ覚悟があっても、やはり成れの果てを見たいとは思わない。

ユキは素直に掴まれた手を握り返し、痛む体に気合いを入れて、アクティースに着いて歩き出した。

その手はひんやりとしており、生きた者の感じがしない。

(まさか、この人こそ、吸血鬼じゃ・・・ないよね?)

アンデッドの一種と言われる吸血鬼は、死体のように体が冷たいと言う。

しかしこうなった以上、どんな魔物であれ助けになるなら縋り付くしかない。

リセは小国でありながら、国王や侍、それに忍者と、優秀な人材が多い。

しかし、数百人で数万の軍勢を倒して国を維持し続けられるかと言えば、不可能だ。

(とにかく何でもいいから助けになって!)

心中で必死にそう願っていたら、不意にヒヤッとした風がユキの体を撫でた。

どうやら外に出たようだが・・・夜中だけに何も見えない。

「では、わらわの真の姿をお前に見せてやろう。」

「だから見えないってば。」

思わずそう答えた瞬間、ユキは手を放されると同時に、全身を押し付けられた。

何が起きたのかサッパリだが、感覚的に急上昇しているような、そんな感覚。

辺りは暗闇なのに大地は銀色に輝き、やがて白い靄に身を包まれ、再び暗闇になった。

押し付けられる感覚が不意に無くなり、ユキは身を起こそうとして、突然吹き始めた強風に、吹き飛ばされないように大地にしがみ付いた。

「なんなのよぉ〜!!!!!」

混乱しつつそう叫ぶと。

『見晴らしが良いであろうが?』

(はい? 見晴らし??)

そう言われても・・・暗くて何も見えないわけで。

「こんな暗闇で何が見えるっていうのよ!!」

『ならば、もう少し待つがよい。 風に気を付けてな。』

そうアクティースが言った瞬間、サッと朝日が差して来た。

白い靄の中から登って来た太陽は、遮る物が無いため、その姿をハッキリと見せていた。

そして、その違和感に気が付くまで、ユキは数秒を要した。

「・・・ここどこ!?」

山の中にいた筈なのだが、そもそもその山らしき物さえ視界には無い。

グルッと見渡しても、それは変わらなかった。

と、言うよりも。

周囲に何も無いのだ。

『どうじゃ。 こんな太陽など見た事もあるまい?』

「確かにな・・・」

普通に答えかけて、気が付く。

声の主、アクティースはどこだ? と。

それに、声も何かがおかしい。

「アクティース・・・さん? どこにいるの?」

『お前の下じゃ。』

「下?」

下と言われても・・・銀色に光る大地があるだけで・・・。

(いや待て私。 大地が銀色に光るっておかしいし。 あまりに違和感のある世界に放り込まれたから気にしてられなかったけど・・・っていうか、下ってこの中?)

そんな事を考えつつ、銀色の大地をコンコンと叩いてみる。

とても硬い。

と、言うより、土でさえない。

言うなれば岩の上にいるような・・・?

しかもこれ、鱗っぽい・・・。

「まさか!?」

ユキは自分の想像が信じられず、改めて辺りを見渡すために身を起こした。

その瞬間強風に体を攫われ、少しの浮遊感、そして、落下。

「キャアアアアアアァァァァ!!!!!!」

思いっきり目を瞑って絶叫した。

が、すぐに何かに落ちて落下が止まる。

『危ないではないか。 落ちたら死ぬぞ。』

(いや今落ちたし。)

そう思いながら目を開けると。

そこには、太陽の光を反射し、煌めく銀色の鱗に覆われた、美しい巨大な竜がユキを見降ろしていた。

『ここは遥か上空なのじゃ。 落ちたら木端微塵じゃったぞ。』

口も動かさずに、そう、竜から言葉が伝わってくる。

テレパシーと言うものだ。

言葉に違和感があると思ったら、脳に直接言葉を伝えられていたからだった。

ユキはそれらを理解すると、改めて驚きのために気を失った。


 チュンチュンとスズメの鳴き声に気が付き、ユキはムクリと身を起こした。

「気が付いたか。」

背後からの声に、ビクゥッ! と、驚く。

「まったく、わらわの姿を見て気を失うとは、失礼な娘じゃな。」

ブンッと勢い良く振り向くと、アクティースが岩に座ってタバコを吹かしていた。

「まあよい。 わらわの姿を見ても、まだ納得出来ぬか?」

そう言われても、ユキは呆然とアクティースを見返す事しか出来ない。

あれは夢ではないのか、それとも現実なのか、判断が付きかねたからだ。

そんなユキの目の前で、アクティースはタバコを不意に消した。

その存在そのものを、である。

火を消したわけではなく。

軽く手を振っただけで、手品のように消したのだ。

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