愚者の舞い 第1章 彷徨う運命
激しい戦いが、彼らの足元で繰り広げられていた。
鉄の塊である、戦車と呼ばれる兵器が火砲を連続で撃ち出し、戦闘機と呼ばれる鋼鉄の飛行機は互いを滅ぼそうと急旋回を繰り返して撃ち合う。
やがて、彼らのいる上空を一発のミサイルが飛んで来て、戦争は終結した。
少なくとも、この地域は。
ミサイルは上空から一気に大地に向けて急降下し、大地に激突する事無く、その前に空中で爆発した。
激しい光であらゆるものを一瞬にして焼き尽くし、次いで爆発による水蒸気の発生、そして、水蒸気は大地の塵芥も吸い上げて、キノコのような形になった。
言わずと知れた、核ミサイルである。
それらを彼らは、つぶさに眺めていた。
もっとも、もし、地上が平和で、空を見上げる人がいたとしても、彼らの存在は見えなかったであろう。
彼らは一種の霊魂的存在であり、存在しながら存在しなかったのだから。
もし彼らが見えたとしたら、まずその立派な宙に浮かぶ巨木が目についたであろう。
この太陽系第三惑星のある神話に登場する、ユグドラシルと呼ばれる巨木が。
その巨木の根元に当たる部分に、二人の男の姿があった。
二人は双子らしく、外見は全く一緒だった。
「で、兄貴。 これを見ても、まだ人間は必要だと言い張るのか?」
「そうだ。」
即答する兄に、弟は深々とため息をつく。
「そもそも、私は科学文明を与えるつもりはないと言っているだろう。」
「何度も言っているのは俺も同じだ。 確かに科学文明を主体に発展させてきた人間は八割方自滅する発展をした。 それに対し、魔法文明を主体にしていれば五割で済んでいる。 俺はそんな危険な賭けをする必要があるのかと聞いている。」
「それに対しても何度も答えているだろう。 人間は確かに愚かな生物かもしれない。 だが、極一部ではあっても、私達の領域に辿り着く人間もいたではないか。 私はそこをあくまで求めていきたい。」
「・・・やっぱ説得は無駄か。 わかった協力しよう。 だがな、兄貴。」
「なんだ?」
「天界・妖精界・自然界・魔界と作ったが、人間は天界と自然界だけにしてくれ。 最悪の場合、被害は最小限に抑えたいし、その程度の被害なら何とか作り直せるからな。」
「異界の容量を考えろと言いたいのか?」
「その通り。 人間と共に全てを滅ぼされては敵わん。 それと、俺はあくまで人間を創造するのは反対だって事も忘れないでくれ。」
「・・・分かった。」
同じ時間の流れの中にいながら同じでない世界。
それが異次元空間にあるパラレルワールドと呼ばれる世界だ。
それらをいくつもいくつも渡り歩き、参考にして学び、勉強した彼らは、自分達の世界を作り上げた。
その世界を彼らは、クオーレ、と、名付けた。
世界が創造されて幾多の月日が過ぎたある日、天界と魔界が戦争をした。
後に聖魔戦争と呼ばれるこの戦争は、魔界の敗北に終わった。
その約300年後、魔界は次の標的を自然界に定め、魔王の指揮の下、攻め込んだ。
後に魔王戦争と呼ばれるこの戦いは、多くの悲しみと破壊を生み、多くの国々が滅んだ。
その魔王が冒険者一行に倒され、はや100年。
傷痕が癒し切れていない時代。
そこに、一人の男子が生誕した。
「ご主人様!」
待ちかねていた赤子の産声が突然屋敷中に響き渡り、夫であり屋敷の主人である男は、座っていた椅子から腰を上げ、飛び出て来た産婆助手を押しのけるように寝室へ駆け込んだ。
疲れ果てた表情の愛しい妻の腕には、産まれたばかりの赤ん坊が抱かれ、屋敷の主人は思わず自分の頬を力いっぱい殴ってぶっ倒れた。
「旦那様!?」
驚いた産婆助手が慌てて駆け寄ると、屋敷の主人はそれを意にも介さず、倒れたまま大きく大の字に手足を伸ばし、歓喜の声を上げた。
「これが夢なら早く覚めてくれ! 私は何に感謝すればいい!? 誰か教えてくれ!」
幸せの絶頂にある屋敷の主人を、産婆を含め、皆が笑顔で見つめていた。
魔王を倒した冒険者一行のリーダーである人間の戦士、アレスの子孫がまた、産まれた瞬間であった。
屋敷の主人はそう叫び、ひとしきり大きく笑うと、おもむろに起き上がって我が子の元へ駆け寄った。
赤子はそんな両親や周りの事などお構いなしに、元気一杯に泣き続けていた。
「よくぞ産まれて来た! ルーケよ! 私はお前を大いに歓迎するぞ!!」
「まぁ、あなた。 私に何の相談もなく、名前を決めてしまったの?」
呆れ果てたという顔で言う妻も、拗ねた顔を作ってからすぐに笑顔になった。
「許せ妻よ。 男の子ならこの名にしようと決めていたのだ。 古代神聖語だかどっかの国の言葉だか忘れたが、希望と言う意味だ。」
「良い意味だけど・・・適当ねぇ。」




