愚者の舞い 27
プリは今、痩せ形で可愛らしい顔立ちの少女、といった姿である。
ただし、スタイルは抜群である事は確かだ。
「まあ、見た目はなぁ。 だが、こいつ人間じゃねぇしよ。」
「見た目が人間でナイスバディーだし問題ないお? おら、プリが大好きだお。」
「ありがとう、エギーユ。」
プリがニッコリと笑って言うと、エギーユは顔を真っ赤にしながら照れた。
「私とて人間ではない。 文句を言われる筋合いも無い。」
クラスィーヴィが平然と言うと、レジャンドもフンと鼻で笑いながら、
「別にお前を誘惑する気もねぇから安心しろ。」
エルフは普通ほっそりとしており、身長も人間の平均より少し低めだ。
胸と尻がそんなにふくよかな者がいないため、枝と貶す時は呼ばれるほどだ。
ただし、顔の造形は男女とも整っていて、非常に美人だ。
しかし、あまりに整い過ぎて、彫刻などの造形品のように見えるのも確かだ。
「ひゃうっ!?」
「確かに触るならプリの方が俺もいいな。」
突然変な声を上げて立ち上がったプリ。
その背後にはいつの間に現れたのか、ほっそりとした美貌の男。
その背には、1対の左右白黒に色分けされた翼があった。
「おっせぇよ爺ぃ。」
レジャンドの非難はしかし、クラスィーヴィの抜きざま斬りかかった行為でかき消された。
ハルトもモレルも突然過ぎて、クラスィーヴィを止めるべきかどうか判断に苦しみ、エギーユは支援すべきか悩む。
温厚なプリにしては珍しく、お尻を押さえて怒りに顔を染め、それでも手出しは控えた。
「やめやめ! クラスやめろ!」
クラスィーヴィの腕を掴み止め、レジャンドがなんとか止めるまで、男は平然と鋭く素早い攻撃を華麗に避け切っていた。
「止めるな! まさかこいつが待っていた最後の仲間とか言うのではあるまいな!」
「その通りだクラス。」
「ふざけるな! こいつが誰だか知らぬわけではあるまい!?」
「そりゃ俺の爺さんだもん、知ってるさ。」
「だったら私との関係も知っていよう! 何故加えた!?」
「落ち着けってクラス。 俺の話を」
「落ち着けるか! こいつは魔王だぞ!?」
「「「なにっ!?」」」
レジャンドとクラスィーヴィのやり取りを眺めていたハルト・モレル・エギーユであったが、それを聞くなり各々武器を手に取り身構える。
「ふむ、反応が流石に早いな。 まあ、そのくらいではないと、あの魔獣は倒せないが。」
「今ここで、今度こそこいつの息の根を止めてやる!!」
息巻くクラスィーヴィをレジャンドは何とか抑えつつ、仲間の反応を見やる。
正直やり合いたくないと、その顔は全員表していた。
明日は命がけの魔物退治なのに、ここで凶悪な魔王まで相手をしては、とてもではないが勝ち目はない。
しかし、ここで魔王だけでも倒さなければ、万が一魔物と協力されてはそれこそ勝ち目が無くなる。
出来ればやり合いたくないが、最悪の場合は仕方が無い、と、そんな感じである。
「生憎今の俺は魔王ではない。 それに、お前達が倒したじゃねぇかクラスィーヴィ。」
「生き延びていれば倒した意味が無いであろうが!?」
「じゃあ俺と今ここで戦うか? 俺はやり合う気は無いんだが。 あの時の俺は死ぬ必要があったからお前達に倒されてやった。 手加減して誰も死なないようにも配慮した。 なんなら火炎系中心で攻めても良かったんだぜ? なあプリ。」
それを一番分かっていただけにプリは何とも言えないが、クラスィーヴィは当然違った。
そもそも聖魔戦争で、銀竜と共に激戦を戦い抜いた頃から、クラスィーヴィはこの始原の悪魔が嫌いだった。
クラスィーヴィは始原の悪魔が宣戦布告をした現場にいたから、その言いたい事も分かる。
だが、かと言って戦争を仕掛けるなどと、と、納得できなかったのだ。
そして、魔王として降臨した、その残虐さ。
いくつもの町を滅ぼしたが、それに比して死者が少なかった事は知っている。
しかし、目の前で死んで行く人を守ず、助けられなかった時のあの空しさは言葉では言い表す事が出来ない。
どんな目的があろうとも、数々の悲劇を引き起こした始原の悪魔を許せなかったのだ。
「ちょい待ったクラス。 レジャンド、お前、待っていた仲間と言ったね?」
「ああそうだ。 最後の仲間の一人、始原の悪魔、俺の爺さんだ。」
モレルが疑問に感じてそう声をかけると、レジャンドそう答えた。
「つまり、敵ではないんだろ?」
「仲間が敵かよ!」
「仲間などと認めん!!」
「クラス! 落ち着け。 まず、話を聞かせてもらえるかな? 魔王殿?」
モレルは剣を鞘に収め、クラスィーヴィを抑える手助けしながらそう言うと、アラムは頷いた。
「お前達は俺が認めた勇者候補だ。 真実を教えてやろう。 偽りを伝えた伝説ではなくな。 この、始原の悪魔の名において。」
結界を張り、時間の流れを止めた空間で、一夜ではとても伝えきれない話を聞いた冒険者一行は、渋々ながらも納得し、眠りについた。
それらの話をほぼ知っているプリとレジャンドが夜食を作り、最後に食べてから仲間達は寝たのだが。
「さて、みんな寝たようだな。 後は頼むぜ、爺さん。」
「任せな。 お前がちゃんと役目を果たしたら、すぐに飛んでってやるぜ。」
そう言いながら、懐から小さな筒を取り出してレジャンドに渡した。
「上手くやるさ。」
レジャンドはそう言ってニヤッと笑うと、馬車に乗り込んだ。
「ハァ!」
ピシィッと鞭で叩かれ、馬はガラガラと馬車を曳いて行く。
その荷台には、魔族の好む味の酒樽2つが乗せられていた。
「別に、お前まで寝たふりしてなくても良かったんじゃねぇか?」
馬車を見送った後に、焚火に枝をくべながらそう言うと、プリがムクリと起き出した。
「やっぱり気が付いてた?」
「当然。」
プリは自分の毛布などをまとめると、アラムの横に腰を降ろした。
「ねぇパパ。 なんで一人で行かせたの?」
「今回の魔獣、正確には魔族だが、警戒心が非常に強い。 と、言うのも、あいつは魔界と自然界を繋ぐ通路の中で具現化した魔族だからだ。 親父の負の感情を豊富に含み生まれ出てしまったからなんだが、それでなんでそんな強力なのかと言うと。」
「・・・と、言うと?」
「俺も知らん。」
おもわずずっこけて火の中に頭を突っ込みそうになったところ、アラムが素早く腕を突き出し受け止める。
プリは素早く胸を抱えつつ身を起して横目で睨み。
「今、狙ったでしょ?」
「どっちの意味だ? お前を火に突っ込むようにしたのかと言われればノーだ。 お前の場合、回復魔法でも治らんから冗談にならん。 腕は偶然だ。」
「ホー。 偶然伸ばした手が、偶然掌が私の方を向いて、偶然シッカリと胸を受け止めた挙句揉んだと。」
「そうだ。」
「どんだけ器用な偶然と手よ!?」
「受け止めようとしたからだってば。 しっかり受け止めないと、万が一と言う事があるだろ? 娘を思う親の心が分からんかねぇ。」