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愚者の舞い 26

「ちったあ動揺するなり、慌てるなりしろよな〜。」

「あら、それを期待しているのが分かっていて私がするとでも?」

にこやかにボニートがそう返すと、アラムは諦めて手を引っ込めた。

「可愛くねぇなぁ。 これだから年食った娘はよ。」

ボリボリと頭をかきつつベンチを回って来る男に、使用人の娘は反応に困った。

始原の悪魔は先ほども書いた通り、自ら悪魔と名乗る強大な人物である。

下手に機嫌を損ねれば、自分のみならず、敬愛する主人にも危害が及ぶ。

「あれ? 使用人変えたのか。」

そんな緊張している時に話を向けられ、更に硬直する使用人の娘。

「父上、いつの話をしていますの? 前にここに来られた時は、軍将に成った時ではありませんか。」

「もうそんなになるか。 俺も歳をとるわけだ。」

「ところで、先に天王様にご挨拶はなされました?」

「まさか。 公用じゃねぇもん。」

そう言いながら、勝手にテーブルと椅子を出現させ、ドカッと座り込む。

「で、茶はくれんのか?」

「あ! はい! ただいまっ!」

使用人の娘は即座に立ち上がると、ダッシュで館へ向かった。

「そんなに急がんでもいいぞ〜。」

「父上、そう言う事は本人に聞こえるように言って下さいませ。 小声では聞こえませんよ?」

「聞こえないように言ってんだもんよ。」

ボニートがクスッと笑いながらそう言うと、アラムは平然とそう返した。

「あの娘、俺の悪い話しか聞いて無いようだな。 あの様子じゃ。」

「あら、父上の良い話ってなにかございましたか?」

「本人に聞くなよ。」

「ご本人が知らないのに、そんな話を聞ける筈がないではありませんか。」

「それを聞くのが娘の仕事だろ。」

「嘘は嫌いですから。」

傍から見れば、表情はにこやかで仲の良い親子、と言うより兄弟に見える二人だが、会話はこんなものである。

「で、何をお悩みですの?」

「・・・分かるか?」

「もちろん、親子ですもの。 それに、父上が私の所に来る時は、大概悩んでいる時か癒されたい時ですし。 例の魔族の事ですか?」

「あんな雑魚、最悪、俺が直接かかれば何でもねぇさ。 問題は弟子だ。」

「弟子? 父上が? 人間でも弟子になさったのですか?」

「そうだ。」

「あら珍しい。 よほど期待できる人物なのですね。 シェーンさんのような方ですか?」

「逆だ、逆。 あまりに才能無さ過ぎて断ったんだが、頑固でな。」

「あら。 でも、それで何をお悩みなのです?」

「・・・そいつは戦士の才能が人並みしかないんだが、戦士に拘ってな。 世界を平和に導けるような英雄に成りたいと。」

「良い事ではありませんか?」

「ところが、星を見たら・・・無いんだ。」

「星が・・・無い?」

「ああ。 あいつの運命がどうやら俺の教え方一つで決まっちまうみたいでな。 こんな事、今まで無かったんだが・・・。」

「本人に任せるしかないのでは・・・?」

「そう思って倉庫に突っ込んで来たんだが、どうにも胸騒ぎがしてな。」

「胸騒ぎ・・・ですか?」

「ああ。 俺が教えれば、人並みの才能でも人並み以上に成る。 なんせ全てを知っているからな。 だがそのために、世界が動くかも知れん。 それが良い方向なら問題は無いんだが、破滅とまではいかなくても多くの悲劇を生みそうでな。 それが悩める。」

「しかし事態は既に動いているのですから、それこそ運命に身を委ねるしかないのでは?」

「それもそうだな。 いざとなりゃぁ、俺があいつを始末すりゃ済むか。」

ボニートは苦笑いするしかなかった。

それが出来る性格ならば、こんな事で悩む事などある筈がない。

人間の創造に最後まで反対しながら、結局強行してまで作りたがった兄よりも自然界に積極的に関わり、人間と交わって来たのだから。

「さて、そろそろお湯も沸く頃だろう。 ちょっとからかって来るか。」

そう言うなり姿が消え、屋敷から悲鳴が聞こえて来た。

「・・・あの性格だけは、直してほしいところよねぇ・・・。」


 パチパチと音を立てながら、焚火の火が仲間達の顔を照らし出す。

みな緊張していた。

明日は世界を滅ぼせるような強大な魔物との戦いなのだから、緊張するなと言う方が無理というものだろう。

その魔物の出現する場所まで徒歩で約1日という離れた場所で、レジャンド達は野営をしていた。

「しっかし、あれだな。」

いかつい体格の戦士ハルトが、沈黙を破って、傍らの小人に話しかけた。

「どしたお? おしっこならとっとと行って来るお。」

小人、と言っても、成人した人間の腰程度は身長がある。

クオーレには幾種類か小人族がおり、この小人はプティ族の若者でエギーユと言う。

プティ族は弓矢と薬草学が得意で、大概が薬屋として各地を巡っている。

エギーユはそんなプティ族でも、特に弓矢が得意で、文字通り針の穴を射抜ける腕前だ。

プティに限らず、小人族は大概素早く、手先が器用で、そして、いたずらが好きだ。

他に特徴としては、自分の事を「おら」、語尾に「お」を付ける喋り方をする。

何故か人間の成人と同じ歩数で同じように歩いているのに、歩行スピードが一緒という、奇妙な特技もある。

また、年中自作したお菓子を食べており、お菓子が無いと死んでしまうとも冗談で言われている。

「アホ。 そんな事お前に申告してから行くかよ。」

「じゃあなんだお? おら、薬の調合で忙しいお。」

確かにエギーユは、左足で器をしっかりと抱えて押さえ、右足の指で棒を挟み、器用にコネコネと掻きまわして調合していた。

もっとも左手は、常に持ち歩いているサンタのような大きなお菓子袋を持ち、右手はお菓子を持ってはいるが。

ハルトはいつもの事などでそんなエギーユに構わず、リーダーのレジャンドを見る。

「孫にも衣装で、可愛いぜレジャンド。」

「それって、褒めてないよな?」

「いやいやほんとうさ。 なぁ、クラス。」

いつも無表情ではあるが、エルフらしく非常に美しい顔立ちをしたクラスィーヴィが、考えごとを中断して顔を上げ、レジャンドを見る。

「美しさなら私の方が上だろうが、可愛さでは負けるな。」

「それ、褒めてるように聞こえないよクラス。」

クラスィーヴィの横に座るプリが、苦笑いを浮かべつつそう答え、着飾ったレジャンドは更に不機嫌そうになる。

「どうせ似合わねぇよ。 俺が女の服なんてよ。」

レジャンドは今、どこかの金持ちのお嬢様と言った感じの服を着ていた。

もっとも、その服は簡単に脱げる様に細工してあるのだが。

「いやいや、黙って座ってりゃ本当に可愛いぜ、お嬢さんみたいでな。 クラスも美女だし。 ただ・・・うちのパーティは本気で色気がねぇなぁとな。 なぁモレル。」

「そこで僕に話を振らないでくれないか? 兄さん。」

「まったくだお。 それにボンキュッボン担当ならプリがいるお?」

迷惑そうに答える軽装戦士と、何を今更と言った感じで答えるエギーユ。

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