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愚者の舞い 20

 プリンに案内されて入ると、そこは脱衣所だった。

冒険者の宿にも水浴び場はあるが、普通は脱いだ服を入れる籠が傍らに置いてあるだけで一緒になっている。

水も、カメに汲んである水を洗面器に取り、手ぬぐいなどを浸して体を拭うだけ。

だから、脱衣所があると言うだけで驚くのだ。

「ここで服を脱いで下さいですの。 こちらが浴室ですの。」

そう言いながら、入って来た入口とは別の戸をプリンは指差し、そのまま待機する。

「・・・え〜っと・・・。 脱ぎたいから出てくれるかな?」

「どうしてですの?」

(いかん、常識が違い過ぎる。)

ルーケは説明する事を諦めて、服を脱いで浴室に入り・・・さらにビックリして立ち竦む。

なんと、広い浴室の半分以上を床に埋め込まれた浴槽が占め、しかも温かいお湯が満たしているらしく、湯気が薄らと立ち上っていた。

「・・・なんじゃこりゃぁ!?」

あまりに想像を絶する風景に、思わず声が出た。

「煩い。 風呂場では静かにするもんだぜ。」

声に驚いて見れば、静かにモリオンが湯の中に入っていた。

「そんな事言ったって・・・これは・・・?」

「風呂ってやつだ。 西の王国の文化でな、こうやって水やお湯を満たして浸かるんだ。 おっと、湯船に入る前にそこで体を洗えよ。 それが礼儀だ。」

そう言って指差された先には、見慣れたカメが置いてあったが・・・それさえも湯気が。

贅沢なんてレベルではない。

よっぽどの裕福な大国の王族でも、こんな贅沢しているかどうかである。

「ってか、プリンがいるのか。 教えてやれや。」

「はいですの。 こちらに座って下さいですの。」

そう言いながらルーケより先に浴室に入り、洗い場の椅子を指差す。

ルーケは呆然としながらも言われたとおりに座り、プリンは手慣れた様子でその背中を洗い始める。

やがて胸・腹と洗って行き、股間にきた瞬間、思わずその手を掴んで止める。

「こここ、こっちは自分でするから!」

「そうですの?」

そんな様子を見てて、堪え切れなくなったモリオンは爆笑した。

「金持ちは服の脱ぎ着から用便後の尻拭きまで他人任せだからな。 もういいぜプリン。 後は俺が教えるよ。 若い女の子がいると、そいつも照れるってよ。」

「照れる・・・ですの?」

「そいつは生まれてこの方、自分の事は自分でやって来たんだ。 その辺のボンクラと違ってな。 こっちはいいから食事の準備に回ってくれ。」

「分かりましたですの。」

少し戸惑いながらプリンが浴室から出て行くと、ルーケはホッとし。

すぐにガチャッと戸が開いて、ビクンと背筋が伸びる。

「着替えは用意しておくので、それを着て欲しいですの。」

「ははははいっ!」

その様子に、モリオンが更に爆笑したのは言うまでも無い。


 ルーケが体を洗い終わって浴槽につかると、やっと心底ホッとした。

(水浴びと違って、風呂ってこんなゆったりした気分になるんだな。)

と、不思議な気持ちになる。

「さて、まずお前に確認したいが。」

改めて何だろうと、ルーケはモリオンを向く。

「お前、戦士はやめろ。」

「ええ!? いきなり何を!?」

「お前は戦士としては人並みの才能しかない。 しかし、吟遊詩人や知識を生かした職なら向いている。 そっちに進め。 それなら思う存分俺も教えがいがある。」

「そんな! 俺は剣に生きたいんだ! 才能のあるなしなんて、そんな簡単に分かるわけないだろう!?」

「分かるよ。 あれだけ一緒にいればな。 俺は先に言ったように忙しい。 才能の無い奴に物を教えている時間は無い。」

「そんな・・・! 吟遊詩人では世界を平和になんて出来ない! 俺は」

「うるせぇ!」

「なん!?」

モリオン以外の声に怒鳴られて、思わずそっちを見る。

浴室の入り口に立つ腰に手を当てた少年に気が付き、ルーケは怒鳴り返そうとしてその裸体を見・・・驚きのあまり言葉を失った。

「なんだ、お前まで来たのかレジャンド。」

「なんだか知らんが大賑わいだな。」

そう言いながら、レジャンドはズカズカと歩いて来てジャブンと入って来た。

「体を先に洗えって何回も言ってるだろ、このケダモノ娘が。」

「いいじゃねぇか、減るもんで無し。」

「水の精霊が嫌がるっつうの。」

そんな肉親同士の話などどうでもよく、ルーケは唖然としていた。

「・・・お・・・おんなぁ・・・!?」

「あん? お前もかよ。」

「ブアッハッハッハッハ! お前の場合、脱がないと女だってわかんねぇからなぁ!」

「うっせぇ爺ぃ!」

胸はまったく膨らみが無く、常日頃男物の服を着る娘、レジャンド。

分かる筈も無い。

「さて、こいつの性別なんざどうでもいい。」

ひとしきり笑った後、モリオンは真顔になり、ルーケに改めて顔を向けると、レジャンドは不満そうにしつつも押し黙った。

「何度も言うが戦士はやめろ。 それがお前のためだ。」

「でも、それじゃあ!」

「知識だって生かせば軍師として活躍できる。 政治で世の中平和にだって出来る。 なんでも争いで片付ける事はないだろう?」

「他人任せで平和なんて作れる筈がないじゃないか! そんな、誰かがやってくれるってみんな他人任せだから、100年以上も魔物の跋扈する世界が終らないんだろう!?」

「そいつは少し違うな。」

「どう違うと言うんだ!?」

「守るべきものがあるから、人は強く成れる。 だが同時に、守るべきものがあるから大胆には動けない。 失う事を恐れてな。」

「だから失わないために戦って守るんだろう!?」

「そう言う時もある。 だが、常日頃は違うな。 たとえば軍師だが、戦いの場で活躍するだけが軍師ではない。 戦わずに勝つ事がまず最善だ。」

「そんな事、出来る筈がないだろう?」

「出来るさ。 それが計略というものだ。 今もしライヒの領土を拡大しようと思えば、まず隣国のプエルラを併呑する。」

「プエルラって・・・なんか、魔物に襲われたって・・・。」

「そうだ。 そんな事知りませんでしたという態度で、過去にあった事柄を理由に上げて攻め込めばいい。 でっち上げでも構わん。 城門の一つが破壊されているそうだから、あっという間に占領できる。」

「そんな卑怯な!」

「平和を築く上で統一国家を作るのであれば、そう言った強引な事も必要だ。 また、それに対し非難する国があれば、次はそこが相手だろうな。 軍師として軍勢を使い、攻めて占領するだけではだめだ。しっかり法を整備し、治安を回復し、平等に政治を行えば国民はついて来る。 そう言った事も剣意外に必要なものだ。」

「・・・それって結局、まず剣が必要じゃないか?」

「それ以外の場合、剣で何が出来るんだ? 剣で出来るのは破壊だけだ。 その後の再建こそ平和には必要なんだよ。」

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