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愚者の舞い 19

 モリオンの話し相手が誰だか分らないが、盗み聞きしてルーケはさらに混乱した。

(孫? それに世界の管理者? 自殺?? 厳しい戦い????)

何が何だかサッパリではあるが、その後は他愛無い話になったので、ルーケは聞くのをやめて寝台に戻って腰かけた。

とにかく現状で分かったのは、ここはプレシャス商会の屋敷の中だろうと言う事だ。

なんでここにいるのか分からないが、落ち着いて思い返せば空腹で気を失ったために担ぎ込まれたのだろうと推測できる。

つまり、弟子入りは微妙。

ここまでやって駄目なら、もう自殺でもするしか意思を伝える方法は無い。

しかし、本当に死んでは元も子もない。

なにやら立て込んでいるようだし、本当に自分を弟子にする余裕がないのかもしれない。

ルーケは半ば諦めていた。

なら、強くなるために何をすればいい?

そんな事を考えている時、ガチャッと戸が開きプリンが入って来た。

「ぬおっ!」

さっきの事を思い出し、咄嗟に股間を抑えて壁際に下がるルーケである。

「何をやってるんですの? 服を持って来ましたの。 サイズは合うと思うので着て下さいですの。」

「え!? あ、ありがとう??」

「早く着て下さいですの。 ご主人様が待っているんですの。」

「いや、その・・・あっち、向いててもらえないかな?」

「私は気にしないですの?」

「俺が気になるの!」

不可思議な顔をしてプリンが服を寝台に置いて後ろを向くと、ルーケは慌ててプリンが寝台に置いた服を着た。

「もういいよ。 で、どこで待ってるの?」

「隣の部屋ですの。」

そういや話声が聞こえていたなと思い出すが、それを言ったら何かがやばそうな気もするので黙って先導するプリンに着いて行き、隣室へ入る。

「よう、やっと起きたか。」

部屋の中にはモリオンと、小柄な少年がいた。

(この子が、モリオンの・・・孫?)

とてもそうは見えないが、会話を聞く限りはそうなのだろう。

モリオン自体は三十路程度にしか見えないのだが、少年は成人に成ったかならないかくらいにしか見えない。

案外、冒険者の宿のマスターが言っていた、アラム族と言うのは本当なのかもしれない。

「こいつが、か。 名前はチンケだっけ?」

「ルーケだ。」

見るからに年下の少年にそう言われて、ルーケはムッとする。

「フゥ・・・ン。 成程な。」

「・・・なにがだよ?」

「なんでもねぇよ。 爺さん、約束、(たが)えんようにな。」

「分かった。 お前もな。」

「あいよ。」

そう答えると、少年はもはやルーケなど眼中にないと言わんばかりに部屋を出て行った。

(なんなんだ、あいつは。)

そうは思うが、事を荒立てても仕方がないと自分を押しとどめる。

「おい阿呆。」

少年を見送った直後にそう言われ、ルーケは返答に困った。

はいと答えれば阿呆と認めた事になるし、かと言って怒っても仕方がない。

「今日はゆっくり休んでおけ。 明日から死んだ方がましだってくらいしごいてやる。」

「・・・は?」

「だが俺は物凄く忙しい。 あまり構ってられんからそう思え。」

「えっ・・・と?」

「本気で阿呆だなお前。 弟子にしてやるって言ってんだ。 プリン、客間を一つ用意してこいつを突っ込んでおいてくれ。 それから、あの部屋の準備も頼む。」

「はいですの。 こっちです。」

おもむろに好転した事態に戸惑いつつ、ルーケは大人しくプリンに着いて行った。


 客間は恐ろしいほど質素でありながら豪華だった。

必要最小限の家具しか無いが、それらはすべて最高級品。

配置もしっかり考えつくされ、普通の生活をするのに不自由がない。

「部屋はここを使って下さいですの。 何か用事があれば机に置いてある呼び鈴を鳴らせば誰か来ますの。 何か質問はあるですの?」

「う〜ん・・・圧倒的に凄過ぎて、何を質問したらいいのか質問したいくらい。」

「じゃあごゆっくりですの。」

パタンと、アッサリとプリンは出て行った。

その後、部屋の中を一通り物色したルーケは、特にする事も無くぼけ〜っとしていた。

さっき盗み聞きした内容なども含め、色々考えるが答えなど出る筈も無く、ふと疑問に思って呼び鈴を鳴らした。

いつの間にか外は暗く、夜になっている事に驚いたが。

「なんですの?」

音も無く現れたプリンに心臓が飛び出すほど驚き振り返る。

「あ、いや、その・・・。」

何か言い淀んでいる様子を見て、プリンは小首を傾げつつ、こう言った。

「・・・? 娼婦が入用でしたら私がお相手をしますの。」

「ええぇ!? 君が!?」

別に驚くほどの事でもないのだが、この手の世界に無縁だったルーケは心底驚く。

特にプリンはそっちこそ天職であり、生きるために必要な行為でもあるのだが、そんなことこそ知る筈も無い。

貴族もそうだが、屋敷を構えるレベルになると、当然暗殺の危険がある。

そんな人でも、いや、そういう世界に住むからこそ、恋愛結婚などできず、政略結婚などになる。

当然夫婦間に愛情など皆無な場合が多く、性的関係は子を産むだけとなり、寝室も夫婦別室など当たり前。

しかし、心を癒す存在はやはり欲しいため、愛人などを囲う訳だが、他人の屋敷に泊まっている場合はそんな者を連れてくるわけにもいかない。

それこそ自らの弱点を晒しているようなものだ。

そのため、相手方の屋敷の従業員が望まれれば相手をする事になるのが常識となっている。

当然ながら、そういう屋敷の従業員はそうそう簡単に成れる筈も無く、信頼できる相手の紹介などでやっと務める事が出来るほど厳選されるため、安心して頼めるという方式だ。

金持ちや貴族にとっては、目下の従業員も奴隷も大差は無い感覚なのだ。

現代人の感覚には合わないであろうが、今で言う人権など認められているのは金持ちだけの特権であり、それ以外は塵芥に等しい。

「い、いや、そういうのじゃなくて、その・・・水浴びとかできるかな?」

「浴室なら準備は出来ていますの。 お好きな時にどうぞですの。」

「いいの?」

「なにがですの??」

「いや、俺が使っていいのかな、と。」

ルーケは言わば、招かれざる客である事は自覚していたため、そう聞いたのだが。

「・・・今入りますの?」

プリンにはそんな気持など伝わらない。

「う〜ん・・・そうしようかな?」

金持ちの水浴びするような浴室には、二度と入る事は無いだろうし興味はあった。

だからこそ呼び鈴を鳴らしたのだが、見るだけではなく入れるならそれに勝るものは無い。

「では、ご案内しますの。」

ルーケは興味津々で後を付いて行った。

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