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愚者の舞い 18

 ルーケはその後、商談に来た馬車に轢かれそうになって(しっかりと門のまん前に座り込んだので)移動した以外、屋敷の見える門脇に陣取って、睨みつけながら座り続けた。

ガードにとって非常に迷惑な存在ではあるが、その志と行動を好ましく思ってはいた。

「坊主。 諦めたらどうだ? ご主人様がああ言った以上、意思を曲げる事はないぞ?」

「それでも俺は、諦めません。」

頑固だなとは思うが、気が済むまでやらせよう、そうすれば納得するだろう。

ガードはそう考えていた。

そして、時間になり交代する時もルーケの事を伝えてくれたために、問題なくいる事が出来たのである。

それは幸であったのか、不幸であったのか、7日が過ぎた。

昼の交代時間に成り、ガードが引き継ぎをし守衛に上番し、いつものように座り込み続けるルーケを見やり、ふと異変に気が付いた。

雨の日も頑固に居座り続けたルーケに生気が感じられない。

「おい、ちょといいか?」

引き継ぎが完了し、帰り仕度を始めていた仲間に、ガードは慌てて声をかけた。

「なんだ??」

「つかぬ事を聞くが、こいつ、お前が上番してる間、どこかへ行ったり、何か飲み食いしているのを見たか?」

「いや? 特に注意はしていなかったが、そんな様子は見た事が無いな。」

ガードはそれを聞くと、慌てて待機小屋に駆け込み伝声管に叫んだ。

「誰か! ご主人様を呼んでくれ!! ルーケって若い奴が!!!!」


 フワフワと浮いている感覚の中、ルーケはなんだか幸せな気分だった。

なんだか思い出せないが、非常に困難な事をやり遂げた、そんな満たされた気分だ。

そして、辛かった過去を色々思い出す。

シーフギルドに所属していた時は、本当に人としての生き方とは無縁だった。

シーフとして生きるには、ルーケは不器用だった。

男娼の道もあったが、そういう優男でもない。

何事にも中途半端すぎて、ギルドでも持て余し、かと言って放り捨てるには微妙な能力であったのだ。

器用貧乏なのである。

全ての面で平均より多少上の成績を残すが、特筆すべき点が無い。

そのため強盗などの下働きや手伝いなど、無難な仕事しか無かった。

それは大人になってからも同じだったため、ルーケが冒険者に成りたいからギルドを抜けたいと言った時、ギルドマスターはすんなりと認めた。

当然、ギルドの事は他言無用と釘を刺されたが。

それでも、ルーケは日の当たる生活に踏み出せた。

それまでルーケは、家とかの住み家などにも困るほど貧乏であった。

シーフギルドは実力主義であり、たとえ誰かの稼ぎを奪い取ってでも功績を上げた者を評価する。

しかし、ルーケはそもそもが誰かの手伝いとかしか仕事を貰えなかったため、稼ぎなど微々たるもの。

なんとか飢え死にだけは免れる、その程度の収入しかなかった。

物乞いもやったしスリもやった。

生きるためなら殺し以外なんでもやったと言えるほど、色々な事に手を染めた。

そんな生活の中、同じように子供の頃ギルドに拾われた者が、冒険者としてそれなりの収入を得てギルドに上納金を収めた。

そこでルーケは冒険者に憧れた。

そして、知れば知るほど冒険者は魅力的に見えたのだ。

そして冒険者に憧れれば憧れるほど、強くなってのし上がりたいと考えた。

元々正義感の強かったルーケは、その性格もあってシーフには向かないでいた。

しかし、たとえシーフでのし上がっても所詮は闇の生活であって何も変えられはしない。

だが、冒険者なら、うまくのし上がれれば一国の主にもなれるし、そうなれば大陸を征服して真の平和ももたらせられるかもしれない。

平和になれば街道を整備して人々は行き来しやすくなり、物流も盛んになり豊かになる。

闇の生活をして来たルーケには、人々の生きる苦しみを、余す事無く見て来た。

それゆえ至った結論であった。

だからこそ、力が欲しいのだ。

モリオンのように揺るぎ無い、圧倒的な力が。

なのに・・・、なのに・・・なぜ・・・?

そんな疑問が脳裏を満たしていた時、ルーケは自分が天井を見ている事に気が付いた。

見た事も無い、天井。

明らかに自分が借りている、冒険者の宿の部屋ではない。

(ここはどこだ??)

ルーケは寝ていた硬い寝台の上でムクリ、と、起き上がり。

まるで美味そうな御馳走が目の前にあるのを我慢している、そんな表情で、寝台の横に陣取り自分の股間を見つめるプリンに気が付いた。

同時に、自分が全裸である事にも。

「ぬおおぉお!? ププププリンさん!?」

「あ、気が付いたですの。」

慌てて飛び起き股間を隠すルーケを、非常に残念そうに見てから部屋を出て行った。

その態度が非常に気掛かりではあるが、そもそも自分の一番恥ずかしい部分を寝ている間丹念に見られていたかと思うと赤面どころの騒ぎではない。

そもそもなんで素っ裸でいるのかさえ分からなかった。

そもそもここはどこだ!?

と、辺りを見回しても・・・寝台以外、何もない殺風景な部屋だった。

解決のヒントさえありはしなかった。

(いや、殺風景だからこそヒントになるかもしれないな。 つまりここは牢屋の中と言う事だ。 いやまて、牢屋だったら鍵かかってるだろ、今平然とプリンさんが・・・ってなんであの子は俺の!?)

と、支離滅裂で、考えれば考えるほど混乱していく。

そんな時、微かに声が聞こえて来る事に気が付いた。

「しか・・・う。 ・・・に、す・・・。」

「じゃあ、・・・だ?」

(なんだ? 誰が話しているんだ?)

シーフだった習慣が蘇ったか、ルーケは声の元を探り当てると、密かに歩み寄って聞き耳を立てた。

そこは隣の部屋へ繋がる壁であったが、微かに穴が開いていた。

「何とかするさ。 ドールもあるしな。」

(この声はモリオンだな。)

「頼むぜ(じじい)。 今更他の魔導師なんて探してる暇は無いんだからよ。」

(この声は・・・聞いた事が無いな。 誰だろ?)

「しかし豪華メンバーだな。 クラスィーヴィにプリに・・・。 親子に孫か。」

「正直言って、俺はそれでも厳しい戦いになると思ってる。 あんたの見解は?」

「俺だけでやるなら始末できるが・・・それじゃ本末転倒だしな。 お前に任せるよ。」

「まったく、そう言うならあんたがやれよ爺さん。 それかお前が協力すっか?」

「わわわ私がですの!?」

「冗談だ。 本気にすんなよプリン。 とにかく、例の毒薬はあんたしか作れないんだから頼むぜ。」

「ハイハイ。 孫にこき使われるとは夢にも思ってなかったがな。 それに、俺がパーティに入るとクラスィーヴィには伝えているのか? あいつは俺を嫌っているからな。」

「そりゃ自殺の手伝いさせられたと知りゃ、普通は怒るけどな。 まだ言ってないが、納得させるさ。 じゃないと、この世が滅びるし。」

「それを望んでいないのはあいつも一緒か。」

「いざとなったらあんたが二人分働いてくれ。 できんだろ?」

「お前なぁ。 年寄りをこき使うなよ。」

「その自覚があるなら、世界の管理者なんてやめりゃいいだろ。」

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